おぺんぺんの会

短編小説を読む会の記録です。

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#10 トロイの木馬/レーモン・クノー

レーモン・クノー/塩塚秀一郎 訳「トロイの木馬」(国書刊行会、「短篇小説の快楽」シリーズ『あなたまかせのお話』収録) レーモン・クノーは、言語遊戯や、数学的理論を用いて新しい文学を実践し、潜在的文学工房=ウリポを創設し、その実験的な小説は文学の幅を広げていった。またそれらの小説は現実をぶち壊すユーモアが溢れていて、クノーは人を喜ばせよう、驚かせようとするサービス精神が旺盛な作家なのだろう。旺盛すぎてよくわからないときもあるのだが。 本作は馬がバーでベラベラとしゃべり、

    • #6 隅の窓/E.T.A.ホフマン

      E.T.A.ホフマン/池内紀編 訳「隅の窓」(岩波文庫『ホフマン短篇集』収録) 「ねぇ、君、ぼくはもうだめだな!ぼくって人間は、ほら、下絵を塗っただけのキャンバスの前にすわりこみ、だれかれのみさかいなしに傑作を仕上げたばかりだなどと得々として吹聴している頭のいかれた老画家ってものだねーもうあきらめるよ、いのちあふれた創造のいとなみ、ぼくの手のなかで姿をとって出ていって、この世と友情を結ぶあのものさ。わが精神には蟄居閉門を申しわたすよ!」 悪性の病いのために両足を失った従兄

      • #9 プロシア士官/D・H・ロレンス

        D・H・ロレンス/井上義夫 訳「プロシア士官」(ちくま文庫『ロレンス短篇集』収録) いわゆるゲイ小説として有名な作品。確かにその性的傾向はそうなのかもしれない。そこも読みどころではあるが、それ以上に、恋愛感情を持つすべての人が感じるあるあるを描いているように思う。関係性の距離感と綱引きがたまらなく胸をかきむしる。なぜなら、それはあるあるを描いているのみならず、二人の大尉と従卒の心の奥の襞のようなところまで描いているからだ。無意識にまで到達する恐ろしさだ。 大尉は、従卒

        • 第三回おぺんぺんの会

          第三回おぺんぺんの会は課題図書が前回よりも一編多いです。すこしこわい当日図書を含めた四編についての議事録です。今回も長い!はいどうぞ! 内田百閒「サラサーテの盤」(岩波文庫 『東京日記』収録) (ラ)なんかわかんなくなっちゃった、この話。 (虎)今回の三編は常識で何かを捉えるとか、物語の筋が重要というものではなくて、この小説を読んでいってどう感じるのかが重要な作品だね。元々人間が書いているもの、他人が書いているものって簡単に理解できるものではないし、特にこの「サラサーテ

        #10 トロイの木馬/レーモン・クノー

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        • 大虎の泣く子も黙る小説小噺
          11本
        • ラザニア短編往還記
          6本
        • おぺんぺんの会議事録
          4本

        記事

          #5 愛の彼方の変わることなき死/G・ガルシア・マルケス

          G・ガルシア・マルケス / 鼓直・木村榮一 訳「愛の彼方の変わることなき死」(ちくま文庫『エレンディラ』収録) 上院議員オネシモ・サンチェスは六ヶ月と十一日後に死を控えていたが、その日に生涯を決定づける女性と出会った。 冒頭の一文で、この物語の主人公の終点を提示されるので、私はその日と書かれている今日から終点までの話がこれから語られるんだなと理解してから読み始めることができた。親切であり、興味の湧く始まりだった。 お金もあり、しあわせを感じていた主人公は、三ヶ月前に医者

          #5 愛の彼方の変わることなき死/G・ガルシア・マルケス

          #8 少女病/田山花袋

          田山花袋「少女病」(実業之日本社文庫 末國善己 編『文豪エロティカル』収録) 「少女病」がおすすめである、と知人から伺い、収録されている短編集を探してようやく見つけたのが『文豪エロティカル』という短編集であった。これに関していろいろ文句を言いたいけれど割愛する。 三十七歳の作家崩れの雑誌の校正者は若い女性をみるともうたまらない。ドキドキが止まらない。かわいいかわいいと観察する。 込合った電車の中の美しい娘、これほどかれに趣味深くうれしく感ぜられるものはないので、

          #8 少女病/田山花袋

          #4 日記帳/江戸川乱歩

          江戸川乱歩 「日記帳」(岩波文庫 浜田雄介編『江戸川乱歩作品集 I 人でなしの恋・孤島の鬼 他』 収録) この日記帳を見るにつけても、私は、恐らく恋も知らないでこの世を去った、はたちの弟をあわれに思わないではいられません。 この物語は、兄が七日前に死んだ弟の日記帳読みながら物思いにふけっているところから始まる。兄が三月九日まで日記を読んだところで、雪枝という一人の女性の名前が書かれているのを見つけ、この二人の恋の行方について推理していく。 ところが、二人のやり

          #4 日記帳/江戸川乱歩

          #7 愛し合う二人に代わって/マイリー・メロイ

          マイリー・メロイ / 村上春樹 訳「愛し合う二人に代わって」(中公文庫 村上春樹 編訳『恋しくて』収録) 村上春樹が選んで訳した十編の短編小説と自身が書き下ろした一編「恋するザムザ」を加えた短編集。貴重な村上春樹の直筆サインが入っている単行本も持っている。やや自慢だ。その中から最初の一編を。 内気だか自分の目標は明確に持っていていつも冷静なウィリアムと一見派手に見られがちなブライディーは高校の同級生で、ウィリアムは密かに彼女のことを想っているが内気なだけに言い出せない

          #7 愛し合う二人に代わって/マイリー・メロイ

          #6 春は馬車に乗って/横光利一

          横光利一「春は馬車に乗って」(新潮文庫『機械・春は馬車に乗って』収録) 肺を患った妻と看病する夫の会話を描いた名短編。好きな短編あげろや、と言われたら中島敦の「文字禍」に次いでこの短編が出てくると思う。 病気で不安定な妻に対して苛立ちを隠せない夫。自分より仕事を重視してろくに看病をしてくれない夫に対して寂しさを隠せない妻。はじめは、おいおい言い過ぎだろう、と思うこともあるけれど、読み進めていくとそれは一種のじゃれあいのような、信頼があるからこそのやりとりだというこ

          #6 春は馬車に乗って/横光利一

          #5 幻談/幸田露伴

          幸田露伴「幻談」(岩波文庫『幻談・観画談』収録) 閑職に追いやられた侍と船頭に起こった釣り場でのこわい話。それは恐ろしいことが起こるというより本人たちの罪悪感に根差したこわい話である。よくあるこわい話なのだが、本書の読みどころはこわい話よりも、本題に入る前の釣りのよもやま話である。 釣りを知ってる人も知らない人も楽しめてしまう語りが魅力だ。ぐいぐい引き込まれ、釣りの用語や種類に詳しくなった気になれる。おもしろい話とはその内容も確かにそうなのだが、語り手の話術によるとこ

          #5 幻談/幸田露伴

          ♯4 山羊の首/三島由紀夫

          三島由紀夫「山羊の首」(新潮文庫『ラディゲの死』収録) 女たらしのダンス教師が戦時中に原っぱで山羊の首を見て以来、女性と寝ていると山羊の首の幻影が頭を離れず、一夜しか過ごすことができなくなってしまう。ただそれに対して山羊の首が恐ろしいとか気味が悪いとか遠ざけたいということはなく、むしろ心待ちにさえしている。しかし、山羊の首の出現を遠ざけたくなる相手もいた。男のダンス教室へ通う香村夫人である。一夜で関係を終わらせたくないほど男は夫人のことが好きだったようだ。男はついに夫

          ♯4 山羊の首/三島由紀夫

          第二回おぺんぺんの会

          第二回おぺんぺんの会では、課題図書の太宰治の「女生徒」とアラン・シリトーの「漁船の絵」、当日図書のイーユンリーの「流れゆく時」について話しました。第一回目の議事録のしょぼさを反省したので、今回は長いですよ!! 太宰治「女生徒」(新潮文庫『走れメロス』収録) (虎)実は今回の課題図書二つにはテーマがあってね。それは独白形式の一人称の小説。しかも「女生徒」は女目線、「漁船の絵」は男目線。でもテーマでこれからもやっていくとなると大変なので、図らずもそういうに二編が選ばれたという

          第二回おぺんぺんの会

          #3 押絵と旅する男/江戸川乱歩

          江戸川乱歩「押絵と旅する男」(岩波文庫『江戸川乱歩短篇集』収録) 主人公が実際に体験した(のだと思うが、定かではない)汽車で出会った押絵と旅をしていた男についての物語だ。 本人の本当にあった話かどうかわからない自信のなさとは裏腹に細部まで詳細に語られる内容に、私もつい想像を膨らしてしまう。そして、この時彼自身が抱く感情と同じ順番で、おかしく思ったり感動したりしてしまう。 私は珍しさに、暫くその双眼鏡。ひねくり回していたが、やがて、それを覗くために、両手で眼の前に持って行

          #3 押絵と旅する男/江戸川乱歩

          #2 かわいい女/チェーホフ

          チェーホフ / 小笠原豊樹 訳「かわいい女」(新潮文庫『かわいい女・犬を連れた奥さん』収録) この物語は、裕福な家庭に生まれたオーレンカの愛情について描いている。 オーレンカはいつでもだれかしらを愛さずには生きていかれない女だった。以前には自分の父親を愛していたが、その父親は今病身で、暗い部屋の肘掛け椅子に坐り苦しそうに息をしている。いつかは叔母さんを愛していたこともあるが、このひとはブリャンスクから年に二度ぐらい出てくるだけだった。それより以前、短期女学校で勉強していた

          #2 かわいい女/チェーホフ

          #3 失われた三時間/スコット・フィッツジェラルド

          スコット・フィッツジェラルド / 村上春樹 訳「失われた三時間」(中公文庫『マイ・ロスト・シティ』収録) 主人公のドナルドは飛行機の乗り継ぎのため、ある街に降りたつ。次の飛行機までの三時間のあいだにある女性に会うことを思いつく。十二歳ときに別れたぶりの初恋の女性に電話をすると、彼女は結婚をしていて姓がかわっていた。結婚して引っ越した先に電話をすると彼女が出る。すぐに会うことになり、お互いの時間を埋めるように話す二人。実は女性の方も好きだったと告白されるも、さらに話していくと

          #3 失われた三時間/スコット・フィッツジェラルド

          #2外套/ゴーゴリ

          ゴーゴリ / 浦雅春 訳「外套」(光文社古典新訳文庫『鼻/外套/査察官』収録) ペテルブルクに住む貧乏でうだつのあがらない役人アカーキー・アカーキエヴィチの哀切極まる物語。ぼろぼろになった外套を新調することになり、どうにかお金を工面して新しい外套を手に入れ、うきうきになって外套を着て街にでるが、すぐに泥棒に遭って盗まれてしまう。警察に訴えるもけんもほろろに扱われ、翌日熱病にかかり死に至る。悲しみの極みだ。 前半は彼の過去や仕事ぶりを描き、キャラクター作りに余念

          #2外套/ゴーゴリ