#8 少女病/田山花袋

田山花袋「少女病」(実業之日本社文庫 末國善己 編『文豪エロティカル』収録)

「少女病」がおすすめである、と知人から伺い、収録されている短編集を探してようやく見つけたのが『文豪エロティカル』という短編集であった。これに関していろいろ文句を言いたいけれど割愛する。

三十七歳の作家崩れの雑誌の校正者は若い女性をみるともうたまらない。ドキドキが止まらない。かわいいかわいいと観察する。

込合った電車の中の美しい娘、これほどかれに趣味深くうれしく感ぜられるものはないので、今迄にも既に幾度となく其の嬉しさを経験した。柔かい衣服が触る。得ならぬ香水のかおりがする。温かい肉の触感が言うに言われぬ思いをそそる。ことに、女の髪の匂いと謂うものは、一種の烈しい望を男に起させるもので、それが何とも名状せられぬ愉快をかれに与えるのであった。

観察して仔細を描写しているが、描写しているのは他ならぬ著者の田山花袋である。彼は蒲団の残り香をくんかくんかして涙する小説を書いているが、本編はそれより前に書かれているらしい。自分の性癖を惜しげもなく披露してくれる。ここまで若い女性に対する吐露があると、読み手によっては恐怖を覚えるだろう。これが男の本性なのではないかと。確かにきれいな人をみると「おっ」なんて思うこともある。主人公は猫背で獅子鼻、反歯で色が浅黒く、頬ヒゲが顔の半分を覆った怪しい男ではあるものの、痴漢の実行にはうつしていない。あくまで観念的楽しんでいる。

舞台は中央線である。しかも降りる駅は私と同じく御茶ノ水だ。ラストは満員電車でもたれかかってきた女性に外に押し出される形となり、反対からきた列車に轢かれて死ぬ。彼は押し出される直前、令嬢が密着していることにうっとりとして最高潮だったに違いない。彼は幸福のうちに死んだのだろう。

細かい描写や主人公之風貌もあってだいぶやばい奴だと思ってしまうが、彼はあくまで若い女性を観察をして楽しんでいるのみだ。実際に実行にうつす『ロリータ 』のおっさんなんかとは違い、小市民的でどこか共感を覚えてしまう。また、ここまで好きなものを好きだと言える態度とそれに対する後ろめたさもなく堂々として、最後は哀れに死ぬことさえもあっぱれな気もしてくる。

わずか23ページで変態おじさんの生態を確認できる。ただ残念なのは、この本のルビの振り方が中途半端だった。基準がよくわからない。読めないところが多くあった。私は阿呆なのでもうすこし気を遣ってほしい。

(大虎)