「読書について」小林秀雄
小林秀雄は「全集を読むこと」を勧めています。
この『奥の方の深い小暗い処』についても、次のように述べています。
不幸にして私は、これが実践できていません。
日記や書簡の一つひとつまで取り入れた全集などは、鴎外や漱石、芥川と言った大作家と呼ばれる人たちに限られてきます。
大学生の頃、「ムツゴロウ」こと畑正憲氏が大好きで、文庫は一通り全部読みました。そのムツゴロウ氏も小林秀雄と同じような事を言っています。
彼が作家修行時代にやっていたのは、小説の神様と言われた志賀直哉の全集を、一字一句余さずに原稿用紙に書き写すことでした。
プロの作家として世に出て、人気作家となるためには、これほどまでの修練が必要なのです。
この逸話をみると、「ムツゴロウ氏は、志賀直哉の全集を読んでいる」と言えます。ここまでやることで、小林秀雄が言うように「志賀直哉の『奥の方の深い小暗い処』まで知悉している」と言えるからです。
ふと自分のことを振り返った時、「全集読破」と言わないまでも、かなりの部分まで読みこんだ作家と言えるのは、宮城谷昌光氏です。
有名な「重耳」「孟嘗君」はもとより、一番愛読したのは「天空の舟」「奇貨居くべし」「太公望」「晏子」などです。
ハードカバーだけでも40冊は超えています。それでも「全作品読破」とは言えません。
宮城谷氏は、まだ現役で活躍中だからです。当然ですが、日記や書簡は公開されていません。
自分としては、文体をかなり把握しているつもりなので『奥の方の深い小暗い処』までつかんだような気がしていますが、こればかりは何とも言えません。
この人生で「全集読破」できそうなのは、芥川ぐらいでしょうか。
高校時代から読み込んでいるのですが、未だに全集に手が出ません。
年齢と共に気力や体力も衰えてくるので、「全集読破」には余程の覚悟が要るでしょう。
死ぬまでの間に、一級品と言われている「奥さんへのラブレター」だけでも読んでおきたいのですが・・・。
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