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小説の感想

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感想や考察。長いのも短いのもあります。
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優しさと冷たさは見分けがつかない

優しさと冷たさは見分けがつかない

事件や殺人が起きるわけではないのに、とても怖い小説を読んだ。
アガサ・クリスティーの『春にして君を離れ』だ。

今まで理想の人生を送ってきたと思っていた主人公が、とあるきっかけから過去を振り返り「自分の人生は本当にこれでよかったんだろうか?」と振り返る話だ。

今までの自分の生き方は正しいと思っていた。人のためを思って自分のことはいつも後回しにし、相手のことを考えて、良き母親、良き妻で常にあろうと

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松本清張の『青のある断層』や『或る「小倉日記」伝』のようなハッピーでもバットでもないようなエンドで、切なさがひたすら胸に迫ってくる作品もかなり好き 『菊枕』や『信号』もいい
特に『父系の指』は特別に好き 主人公の親に対する感情を考えると、いても立ってもいられなくなる

死刑にいたる病 読書感想文

死刑にいたる病 読書感想文

この作品は精神的に弱っている時に読むことをオススメできない。

なぜなら「誰も自分の良さを分かってくれない。」だとか、

「人生が上手くいかないのは、自分の才能に気づける人が周りにいないからだ。こんなに頑張っているのに、我慢しているのに、自分のことを誰も認めてくれない。」
なんて思っているそんな時、

いつも話を聞いてくれる人が居たら、会う度に元気づけてくれる人がいたら、精神的に寄りかかりたくなっ

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考察までが読書です

考察までが読書です

と、いうのは大袈裟だし作品を楽しんだ後に、考察を読むのは私の個人的な趣味なので、推奨するつもりは全くないのだけど、ど〜〜〜しても!この作品だけは読み終わった後に考察を読んでほしいという作品がある。

それは夢野久作が書いた『瓶詰の地獄』という短編。

タイトルを見て、不穏な感じがしたらその直感は合っています。期待を裏切ることは恐らくないでしょう。

考察を読まなきゃいけないなんて、何だか理解するの

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江戸川乱歩が大好きだ(後半)

江戸川乱歩が大好きだ(後半)

前半はこちらから

『屋根裏の散歩者』世の中が退屈で、犯罪を犯してしまった犯人視点の物語です。
こんな書き出しで始まります。

この郷田三郎くん、乱歩の小説にありがちなんだけど、「この世の娯楽を全て経験したけれど、どれにも満足できずに、まだ手を出していなかった犯罪に手を出して、世の中が退屈じゃなくなった」というキャラクター。

そういうキャラクターって立ち位置的に「異常さ」を際立たせないといけない

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江戸川乱歩が大好きだ(前半)

江戸川乱歩が大好きだ(前半)

私の人生はこんな筈じゃなかった。
あの時、ちゃんと「江戸川乱歩は止めておいたほうがいいよ」という忠告を聞いていればーーー

江戸川乱歩という小説家に出会ってから、私の人生はあっという間に小説沼へと転げ落ちていきました 。
足元を動かせば動かすほど、ズブズブと沈んでいく一生這い上がれない沼なのですが、ここは随分と心地がいいです。

すっかりパブロフの犬の如く、小説という媒体に触れるだけで胸が高鳴り、

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三島由紀夫の翼の正体を考察する

三島由紀夫の翼の正体を考察する

恋愛物において、夏から始まる関係性というのは「過失」とか「過ち」とか「勢い」なんかとセットで描かれがちな気がするのだけど、これがなんというかちょっと苦手だ。

そして季節の移ろいと共に、秋で心が離れ、冬に関係性に終わりを告げ、春がまた始まる。
なんかそういう表現を見かけることがあるけど、実際の人間関係は四季に影響を受けたりしない。

そのせいかプラトニックな恋愛物が好きだ。
そんな物語に敢えて夏に

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松本清張の「自分はもうこれ以上の人間になれないんだな」という同情と失望をさ、人生やり直さないと絶対に手に入らない実家の太さとか、運命とかへの反発心とセットにして表現してくるとこ、めちゃくちゃすきなんですよ

悲しみよ こんにちは

悲しみよ こんにちは

ものうさと甘さが胸から離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しくも美しい名前をつけるのを、わたしはためらう。

この感傷的でうっとりする書き出しから始まる作品を、古典恋愛小説と呼ぶには少し躊躇いを覚える
わたしには17歳の少女が自分の罪を告白するような内容に思えた
法では裁けない殺人を犯した告白のような

主人公のセシルは自分の父親が軽く、享楽的な人間だと知りながら、それに伴う共犯意識が愉し

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このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる

このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる

意味があるかどうかはわからないけどーー自分の中にある最高の自分に恥ずかしくない生き方をしてほしいってこと。

『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる』が収録されている、短編集が読み終わりました

とても、いい本だった 兎に角、とても

サリンジャーの作品を読む度に、自分の中にある少年性や少女性をまざまざと見せつけられてしまうし、………そして、私は何度も、何度も、何度も、ホールデン・コールフィールド

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