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最強のふたり?


ーーー人生を謳歌し、懸命に生きる我が友に贈るーーー


私には面白い友人がいる。


彼とは中学時代の同級生で、当時たまに話す程度の仲だったが、「背が高くて具合が悪くて、歴史政治に詳しくて、中学生のくせに達観してるやつ」という強烈なキャラが、マジメ君であった私の中に定着するまでそう時間は掛からなかった。歴史の点数を競い合ったこともあって、確か1回負けたことを覚えている。私は皆から可愛がられ、不自由なく過ごしたのに対し、彼は1匹狼を貫き、奔放な生活を送り、いつも何かと戦っていた。特に仲が良いわけでもなかったので、卒業してからは一切連絡をとっていなかった。


そんな彼と再会したのは今から4年ほど前、中学時代の同級生が亡くなり、彼女を偲ぶ会でのこと。童顔であまり変わらず、背が伸びたくらいの私に対し、彼は中学時代の面影が少しある程度で、考古学者、はたまた大学の教授とも呼べるような渋い顔立ちだった。クシャクシャの髪、ウェリントンの眼鏡をかけ、少しくたびれた白シャツにキャメルのベストがよく似合っていた。再会の場が場なので何とも言えなかったが、私は彼を見て興味を持ち、すぐに連絡をとった。


最初はメールでやりとりをし、実際に会ったのはその年の冬くらいだっただろうか。彼の行きつけのカフェにて、改めてここまでの経緯などをゆっくり語り合った。お互いに26歳、曲がりなりにも大人になった身であり、中学当時とはまた違った感覚で相手のことを聞くのは面白い。彼は中学時代からさらに趣味を深め、夢想家でウィットに富み、洋画を嗜むせいかジャスチャーが大きく、表情もコロコロ変わり見ていて飽きなかった。


恵まれた環境にありながらも己の道に迷い、遠回りに歩んできて目指すものが決まった私。病気と闘いながら過酷な環境で彷徨い、なんとか抜け出したい、回復したいと模索する彼。外見もそうだが、端的に言って境遇も違いすぎて普通なら交わることもないだろう。しかし、何はともあれこうして地元に戻り、お互いが人生の転機にある事実が妙な親近感を湧かせた。そして、内的な根っこが多分同じなのだ。臆病だけれど、雑草魂があり、どこか楽観的。それは直感か分からないが、シンパシーを感じた私達は、それから時々会うようになった。


彼の行きつけのカフェは老若男女問わず地元の人々が集い、少しずつ繋がりができていく面白い場所だ。座るのは大抵バーカンで、マスターと彼、私、それに数名が加わって話すこともある。私が飲むのはオレンジジュース、時々コーヒー。彼が飲むのは、ぬるめの紅茶に蜂蜜を混ぜたもの。自分の作品を見せたり、大学であったことを嬉々として話す私を、彼はいつもにこやかに聞いてくれて、これからやりたいことだったり、趣味の話をする。人々の温かみがあり、のんびりとした時間が流れているようで、私はここに来るといつも癒されるのだ。


彼と先日、2人でキャンプに行く機会があった。2人で盛り上がって、お互いに時間はあるし、やるなら今がベストだということになり、発案から実行まで1週間くらいの突発的なものとなった。私は今までも友人とキャンプをしたことはあったが、やれることはお察しで、決してアウトドアに明るいわけではない。彼はと言うと、治療以外でこうして出かけるのは15年ぶりくらいらしい。しかし、2人とも自然と触れ合う冒険は大好きだ。お互い初心者ではあったが、できるならまず行動して経験することが自分達にとっては大切で、良い刺激になると分かっていた。


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ナビを頼りに道を進む。初めての高速道路での運転だ。ビートルズのアルバムをかけ、とりとめのない話をしながらドライブを楽しみ、2時間ほどでキャンプ地に到着した。今回は「手ぶらキャンプ」というプランを申し込んだため、すでに準備はされていた。のんびり観光をし、なんだかんだもう20時になった。私たちはそれからBBQの準備をした。暗い中、持ってきたアラジンストーブ、ムーミンのライト、近くの炊事場の明かりを頼りになんとか食材の下準備を終えた。しかし問題はここからで、自分で火を起こしたことがない2人は奮闘することになった。


「着火剤ってどれだ」「薪は空気が通る道を作らなきゃいけないから」「炭ってどう火をつけるんだろう」「おっ、薪に火がついたぞ」「火を守るんだ」「うちわ貸して」「うわぁ、煙が」「お酒開けちゃおっと」「場所移動できるか」「消灯21時らしいけど、炊事場まだ消えないね」「絶対大目に見てくれてるよなぁ」「しゃーない、焚き火の中に炭ぶち込んで、それを移植しよう」「なんとかできたね」「よし焼くぞ」「火力足らんくないか」「ちゃんと焼けてるかな」「もう食べちゃおうぜ」「うまい」「ちゃんと準備してからゆっくり食べよう」


たかが火、されど火、小さな火。様々な言葉が飛び交い、2人ともこの瞬間、確かに全力だった。私たちの闘いをロックなBGMも盛り上げてくれて、笑いも生まれ、とても楽しい夜のBBQになった。キャンプで一番のイベントはやはり火起こしだっただろう。大の大人2人が、お互いにカバーしあって、何とか乗り越えられたと言う事実は自分たちにとって大きかった。彼が後にマスターに話したら大笑いされたそうだが、それは置いておこう。


平日だったため、キャンプ地に来ているのは自分達しかいなく、とても静かな夜だった。虫達の合唱を聴き、デザートを食べながら、私たちはお互いが持ってきたオススメの本を交換した。私は彼に「夜と霧」を渡した。買ったのはいつだったか、知ったきっかけはどうだったかは覚えていない。ただ、彼にはこの本が大きな活力になると私は踏んだ。彼が勧めてくれたのは「ソクラテスに聞いてみた」と言う本で、これが中々面白い。マスターから借りてきたそうで、今度カフェに行ったら、ゆっくり読んでみようと思う。最後に星を見ながらの散歩を終え、深夜2時頃、私たちは眠りに落ち、初めての2人の冒険は幕を閉じた。


私には面白い友人がいる。


再会して4年が経ち、お互い今年で30歳になる。私は夢に向かって突き進み、入り直した大学でも4年生になって無事に就職も決まり、卒業制作に明け暮れている。彼は改めて病気の治療に出て健康を取り戻す努力を重ね、少し遠出ができるくらいには回復し、自らやりたいことにも少しずつ取り組み始めている。お互いできることも、価値観も、趣味も違うが関係は良好。思ったことは口に出して主張するし、それらをきちんと受け止めて時々反論もする。最近はzoomを使って、話しながら好きなことをしたり、作業をする時間も設けている。


臆病だけれど、雑草魂があり、どこか楽観的。人生遠回りしてしまったが、これからいくらでも盛り返せる。お互いが歩む道には、辛いこと、楽しいこと、沢山の冒険が待っているはずだ。生きることは素晴らしく、人生は選択の連続であり様々な可能性に溢れている。悩むこともまた一興、どんと構えていこうじゃないか。


どうかこれからも、お互いに自分らしく、生きていこう。


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