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【#78】学生服に、慣れた頃

平成。

それは「ポケットビスケッツ」がミリオンを達成するような時代。
この小説は、当時の事件・流行・ゲームを振り返りながら進む。

主人公・半蔵はんぞうは、7人の女性との出会いを通して成長する。
中学生になった半蔵が大地讃頌を歌うとき、何かが起こる!?

この記事は、連載小説『1986年生まれの僕が大地讃頌を歌うとき』の一編です。

←前の話  第1話  目次


1999年(平成11年)6月7日【月】 
半蔵はんぞう 中学校1年生 13歳


「ハワユー?」

「「「アイム ファイン センキュー!!アンジュ―?」」」

「アイム ファイン!よーし、みんな元気だな。英語の授業、始めるぞー!」



中学校から始まった英語は、僕の苦手科目になりつつあった。

だから、他の授業と違って、ノートに青眼ブルーアイズ白龍ホワイトドラゴンなどを描いている余裕はない。


 

【※】
 『青眼ブルーアイズ白龍ホワイトドラゴン』は、漫画『遊☆戯☆王』に出てくるカードゲームのモンスター。

 様々な男子から溺愛(崇拝)されるモンスターである。その理由は、

・かっこよすぎる名前
・かっこよすぎる見た目
・かっこよすぎる攻撃方法(滅びのバーストストリーム)
・たしかな実力(攻撃力3000)
・光属性

など、数えあげればキリがない。


 『ブルーアイズ』のカードを3枚持っているということは、大人の社会でたとえるなら『ランボルギーニに乗っている』のと同等のステータスであろう。


 


「今日は、数の復習からだ。リピート アフター ミ―。ワン!」

「「「ワン!」」」

 

先生の後に続き、必死に発音する。

 

「トュー!」

「「「トュー!」」」

 

ツーじゃなくて、トューなんだよな。

そんなことを考えていると、アッという間に授業が進んでしまう。

 

「シックス!」

「「「シックス!」」」

 

なぜかシックスの時だけ、一部の男子はニヤニヤしながら大声を出すのだろう?


【※】
 詳細はあえて書かないが、男子とはアホな生き物である。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「じゃ、曜日はすべて英語で書けるようにな。テストに出すから。今日はここまで」

 

学級委員の号令によって挨拶を終えると、僕はすぐさま黒板に向かった。

 

「まったく、中学校の黒板は無駄に大きいぜ・・・・・・」

 

今日は日直である。

黒板をきれいにする仕事を忘れると、『やり直し』になってしまう。

 

Sunday
Monday
Tuesday

 

といった単語を消していると、

 

「どけ」

 

と横から声がした。

もう一人の日直の、リリーが青い瞳で睨んでいる。

 

「貴様は、どけ。私がやる」

 


その右手には雑巾が握られていた。

長身金髪の彼女には似合わない、汚れた雑巾である。

 

「あのな、黒板は水拭きしたらダメなんだぞ。白っぽくなっちゃうから。小学校で言われなかったか?」

「日本の小学校には通っていない。前も言っただろうが」


 

なぜ、こんなにえらそうなのか・・・・・・。

オリジナルコンボを叩きこんでやりたくなる。

 

【※】
 『ストリートファイターZERO2』にて初めて登場したシステム。
 慣れれば、相手をボコボコにできる爽快な連続技が可能である。


 

「貴様は、先生上官から、私が適切に行動できるようサポートせよ、と命令されているだろう?もっと優しく教えろ」

「だから、教えてるだろ!雑巾はダメだって!それと、先生は上官じゃない!」

 

僕はリリーに黒板クリーナーを渡し、こうやってみろ、といって手本を示す。

彼女は不服そうに口を閉じながらも、上から下へと手を動かしている。

 

「ほんと、常識ないよな・・・・・・」

「黙れ。アメリカでは訓練ばかりしていた」

 

どういう事情か知らないが、リリーは普通の学校に通っていなかったらしい。
噂では、父は軍人なのだという。
そのせいか、リリーも軍人らしい話し方をする。



「日本語は上手いのに、な」

「日本語だけではない。英語はもちろん、ドイツ語、ペルシャ語、ポルトガル語も話せる」

 

特殊な学校で学んだのだろうか。


 

「ねぇ、今日学校終わったら遊びに行かない?」
「うん、プリクラ撮りに行こう!!」

 

女子が5,6人黒板の近くで話し合っている。

今日からテスト期間で、部活がない。

だから、遊びに行く人もいるようだ。

 

(正直、ありがてぇ)

 

バスケは楽しいが、先輩たちのレベルが高すぎてついていくのがキツイ。

足の母指球も皮がむけてしまったので、ちょっと休む期間が欲しかったのだ。


【※】
 バスケ経験者の方ならご存知だと思うが、バスケが上手くなってくると、母指球の皮がむけてくる。(そこに体重がかかるため)




 

「なぁ、リリー」


 
リリーは、きれいになったはずの黒板を、さらに美しくするため右へ左へ動いている。

そう、この子は決して悪い人ではないのだ。


それなら・・・・・・


「今日の放課後、時間あるか?」


青い瞳が、不思議そうに僕を見つめた。


(つづく)

次の話→

 

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