土曜日、学校が終わったあとの昼食。
7月中旬、3時間目の体育は今年最初の水泳だ。
いわゆるプール開きである。
水着に着替えると、僕らは、シャワーに突っ込んだ。
「りん・ぴょう・とう・しゃー……」
僕は目をつぶり、手の平を合わせながら耐える。
「かい・じん・れつ・ぜん・ぎょう……」
頭上から襲いかかる水圧と冷たさに、ひたすら耐える。
女子たちに、
と言われるまで、意味もなく我慢比べをした。
プール開きの日は、先生が自由時間を長めにしてくれるので嬉しい。
プールの中で鬼ごっこをするのが楽しかった。
校長先生の挨拶が終わり、全校一斉下校となった。
土曜日は体育があるし、早く帰れるのでサイコーだ。
だが、水泳とはエネルギーを異常に使う運動だ。
おまけに、炎天下の中一時間もかけて徒歩で帰らなければならない。
家に着くころには、普段より数倍腹が減っていた。
「ただいまッ」
「おかえり~。暑かったでしょ」
ランドセルを片付け、台所に急行する。
そこに置いてあったものが目に入った瞬間、
『お母さん、ありがとう』
と思った。
夏季限定・冷やし中華だ。
冷やし中華――。
名前からして好きだ。
アメリンドッグや韓国式焼肉など、国名を有する食べ物は他にもある。
が、冷やし中華ほど美しいものはない。
よくよく考えると、『|中華を冷やす《》』とは意味がわからない。
でも名前を聞くだけで涼しくなる秀逸なネーミングセンスだと思う。
大きく平たい皿に、冷やし中華が盛られている。
麺で小さな山が形成され、その山の周辺に具が寄り添っていた。
具は、キュウリ、ロースハム、玉子で、いずれも細切りにされていた。
ゆでたまごも山の頂点にちょこんと乗っている。
緑、ピンク、黄色という鮮やかな組み合わせだ。
「まずは麺からだ」
箸を、山の中腹に突っ込む。
しかし麺は固まっていて、箸で引っ張ると一気に出てこようとする。
箸を左右に動かし、カタマリをほぐしてようやく一定の麺が取り出せた。
一気にすすると、中華麺のモチリモチリとした食感に、砂糖、酢、醤油で作られたスープの甘酸っぱい味が付随されている。
麺は氷水で一気に冷やされたのだろう。清涼感がバツグンで、体は火照っていたが口の中だけ涼しくなった。
「く~、夏はやっぱりコレだねぇ」
「お父さんのマネはやめなさい」
次は全体をかき回して、具と麺を混ぜる。
具が三種類とも混在しているところを狙ってすくい上げ、ズルズルズルルルルっとすすってみる。
甘酸っぱいスープに、ロースハムの塩気とたまごの甘味が結合し、夏に冷たいものを食べる喜びを実感する。
抑えがたい怒涛の食欲により、食事開始1分で半分ほどの量を食べてしまった。
少し冷静になり、今日は白いご飯が一緒でないことに気づく。
お母さんは知っているのだ。
ラーメンと違って冷やし中華に白ご飯が合わないことを。
代わりに麺のおかわりが用意されている。ありがたい。
おかわりを食べ終えると、皿の底にスープが少しだけ残っている。
「ラーメンのスープならためらうことなく飲み干すんだけど・・・・・・」
冷やし中華の場合は飲もうかどうかいつも考え込んでしまう。
そもそも、これ、スープなのか?
液体が入っていた小袋を見ると、たしかに「スープ」と書かれてはいるが・・・・・・。
タレと言ってもいいのかもしれない。
迷った末、スプーンですくって飲んでみた。
甘酸っぱく、さわやかな液体が喉を通過していく。
ちょっと身体に悪そうだが、その後もスプーンで2,3杯すくって飲んでしまった。
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