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彼女は味噌汁に無限の可能性を見た

「味噌汁にはね、無限の可能性があるのよ。」

今年に入り、私たち二人は在宅勤務となった。
狭い家に二人で過ごすのはなかなか窮屈なことが多いが、通勤時間がなくなったことは何よりもありがたい。
毎日2時間近く時間ができるのは本当にありがたいことだ。
まったく、なぜ私たちは今まで当たり前のように通勤していたのだろうか。

在宅勤務になった大きく変わったことの一つに、昼食がある。
これまで私は、常駐先の社食を利用するかコンビニ弁当で済ませていた。
しかし、家にいながらわざわざコンビニ弁当を買う理由もないので、今年に入ってからは自炊をして彼女と共に食べている。

白米と味噌汁と夕飯の残り。
私も彼女も特段食にこだわりがないので、メニューは大体固定されている。
世の中には毎日違うものを食べないと気が済まない人がいるようだが、そんなことをして時間と精神を削るのであれば、私はさっさと食事を済ませて昼寝をしたい。

しかし、最近彼女がこだわりを持って用意しているものがある。
味噌汁だ。
それまでは豆腐とワカメというオーソドックスなものだったのが、ここ数週間は野菜が入ったり肉が入ったり、出汁が少し変わっていたりと、徐々に豪華になってきている。
その理由を問うてみると、彼女はこう答えた。

「味噌汁にはね、無限の可能性があるのよ。」

味噌汁とは、言ってしまえば味噌の溶けたお湯だ。
しかし、そこに入れるものによって、その味や役割は大きく変わる。
野菜をたっぷり入れればサラダの代わりになる。
肉にニンニクを入れれば、味噌ラーメンのようなパンチが出る。
出汁を変えれば、それだけで大きく表情が変わる。

お湯を沸かして出汁を入れ、具を入れて味噌を溶く。
ただそれだけでできる料理なのに、こんなにも様々な可能性がある味噌汁には、無限の可能性がある。
だから彼女は、味噌汁の可能性を試したいのだという。

なぜその可能性に惹かれるのかはさっぱり分からないが、確かに味噌汁が変わるだけで、毎日の食事が少し楽しくなるような気がする。

今日の味噌汁はカボチャと豚肉。
出汁の効いた味噌汁の優しい温かさに包まれながら、そうか、人も味噌汁みたいなもんなのかもしれないな、と思った。

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