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OriHimeの秘密(後編)

こんにちは。コラム『OriHimeの秘密』の後編になります。
前編では、OriHimeパイロットの体感を「自己帰属感」という視点から紐解き、「OriHimeは体の一部と化した道具」であるというコラムを書かせていただきました。
そして、『OriHimeの秘密』の後編は、コミュニケーションのもう一つの切り口である「人とOriHimeの関係性」(対人性)について書いていこうと思います。


1.親近感


皆さんは、OriHimeと会話した体験がありますか?
(正確には、OriHimeのパイロットの方と会話したコトがありますか?)

こちらを未体験の方は、是非、日本橋の分身ロボットカフェに足を運んで頂けたらと思います。しかし、コロナ禍でもあり、なかなか移動もままならない方も多いと思います。そのため、少し長いコラムとなりますが、『OriHimeの秘密』を読んでいただくことで、少しでもその体験をお伝えできればと思います。

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OriHimeを介したコミュニケーションには、当然二者が存在します。
「パイロット」 ⇔  OriHime  ⇔ 「家族・友人・同僚・お客様等」

これを親近感の濃度(親近性)で分類すると下記のようになります。
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①家族の場合
 家・生活を通して、日々の時空間を共有しており親近性は高濃度となる。

②友人の場合
 学校や趣味等の活動を通して、出会ったその時から密な時間を共有する。それは相互理解を前提とした時空間を共有することであり、親近性は中濃度となる。

③職場の同僚の場合
 職場やプロジェクトは、あるミッション達成を目的とした集合体のため、一般的に1~3年の期間の継続的な活動となるが、異動やプロジェクト解散によりメンバーは新たな場に旅立つ(帰属する)ため、①②に比べて親近性は低濃度となる。

④お客様の場合
 基本は一見さんであり、その瞬間的な時空間を共有するが、多くの場合は次回以降の来店を約束するのものではなく、親近性はほぼ0に近い。
 ただし、常連さん・リピーターというユーザ層については、その商品に対する愛着やお店の方との親交からチームの一員的な感覚を持ち、④→③への気持ちの変化をもたらし低濃度の親近性となる。
ーーーーーーー

一般的に親近感とは、相手と自分の中に似たような部分を見つけたときに、ふと「身近な存在に感じる」ことを意味します。
”親近感を持つ”というと、一般的には②友人をイメージすることが多いと思います。しかし、身近な存在すぎて普段はあまり意識できないのですが、親子や兄弟姉妹等の家族の場合であっても個々人は全く違う個性をもつため、①の家族に対しても親近感というのは存在するのです。



2.ロボットに癒しを求める時代

少し視点をかえてみましょう。
■では、ここで問題です。

あなたの目の前にロボットが一台がいます。
そのロボットは、OriHimeでも、それ以外のロボットでも構いません。
あなたは、そのロボットと数分間会話しコミュニケーションを取りました。その時に、あなたはそのロボットに親近感を持ったでしょうか?

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■その答えは……
実は、どのような条件が揃えば強い親近感をもてるのか等、完全なる正解はまだわかっていません。
多くの研究者・開発者・技術者がその解を得るべく、さまざまなアプローチをとり、今もずっと挑戦している課題だからです。

それらの挑戦はよりよい未来にむけての営みであり、いくつかのロボットでは人間が癒されることがわかってきています。

例えば、
・人の心を元気づけ、穏やかにすることを目的としたセラピー効果のあるアザラシ型ロボット「パロ」
・シャープ(Sharp)さんが2016年に日本限定で発売した小型ヒューマノイドロボット「ロボホン(Robohon)」
・ユカイ工学さんが発売している、なでるとしっぽを本物のペットのように振って反応するロボット「クーボ(Qoobo)」や、家族がスマートフォンのアプリから送信したメッセージを読み上げてくれる雪だるまのような「ボッコ エモ(Bocco emo)」
・GROOVE X(グルーブエックス)さんが製造しているのは、手で触れるとぬくもりさえも伝えることができる「らぼっと(LOVOT)」

2020年以降、コロナウィルスはソーシャルディスタンスやテレワーク等の大きな社会変化をもたらし、そのインパクトは多くの人々を分断し、その結果人々は孤独感を強めました。
そして、癒やされる時間を求めて先のロボットを購入する人が増えている事実からも、ロボットに癒しを求める時代になったことがわかります。


3.孤独へのアプローチ

少し脱線しましたが…
同じ孤独を解消するというテーマにおいて、さまざまなアプローチがあっていいと私は思っています。

その中で、OriHimeは他のロボットたちと大きく違うアプローチをとっています。そのアプローチは、シンプルに”人間がそこに在る”ということです。


ですが‼‼‼‼

ロボットという道具を使って『シンプルに人間がそこに在る』を実現することは、決して簡単なことではありません。

人対人で(対面で)はあたりまえのように自然にできていることを、
新たに人⇔ロボット⇔人にするということは、そこにうまく伝達できる仕組みがなくてはいけないからです。

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ここで、人⇔ロボット⇔人について、一つ考えてみましょう。

街中でコミュニケーションするロボットを考えた時、例えばiPadのようなディスプレイをつけた移動型のロボットが海外では主流です。最近は日本でもそのようなタイプのロボットが増えてきており、テレプレゼンスロボットと呼ばれています。
基本は映像であり、遠隔で双方向で(映像と音声)コミュニケーションができるロボットと定義されています。
しかし、テレプレゼンスロボットは移動可能で、遠隔地の相手との情報共有や状況把握が可能等のメリットはあるものの、従来のテレビ会議・WEB会議との決定的な違いは見い出せていないのが現状です。

では、なぜ決定的な違いが見い出せていないのでしょうか?
それは、今までの人々のライフスタイルに大きく起因しています。

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人々は子供の頃から長い時間をかけて情報がテレビから流れてくる生活に慣れ親しんできました。また、テレビ視聴の習慣がほとんどない若者層においては、スマホがテレビの代替となり日々インターネットの世界で多くの時間を過ごしています。
そして、このようなライフスタイルは、テレビ、スマホやタブレットから流れてくる情報は遠いところの人や出来事と認知され、これが四角いディスプレイから流れてくる情報のイメージとして人々に刷り込まれいるのです。
最近では、日本の裏側でおこっているようなグローバルな情報も瞬時に提示されるため、それはネットの一つの恩恵でもありますが、自分とは直接関係ない遠いところという認知が無意識のうちにより強められているのです。

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つまり、テレビやスマホ・タブレットと同じ四角いディスプレイの中にいる人を身近に感じることは、私たち生身の人間にとっては非常に難しいことなのです。
このことは、コロナ禍で半ば強制的にはじめたテレワークで、多くの人たちが孤独を感じたという事実からも十分に証明されています。


4.感情共有

一方、OriHimeは人型をしたロボットであり、テレイグジスタンスロボットの一つとされています。


※テレプレゼンスロボットとテレイグジスタンスロボット
presenseとexistenceはともに日本語に訳すと”存在”という意味ですが、テレイグジスタンスは遠隔臨場制御であり、この研究の第一人者である東大名誉教授 舘 暲は「ロボットとオペレータが一体化したような感覚をオペレータに与えつつ、ロボットの制御を可能とする概念」と述べています。

テレイグジスタンスロボットとは、離れた場所にいるロボットと(を介して)”感情共有”ができ自分の分身のように操作できる(VRの一分野、人間の身体能力の瞬間移動を可能にする技術)とされています。

※上記の『一体化したような感覚』については、本コラムの前編を読んで頂けるとよりご理解頂けるかと思います。そして、後編では”感情共有”についてもう少し掘り下げてみようと思います。



この”感情共有”こそが、まさに”親近感”であり、それをAI等の技術を駆使して実現するのではなく人間そのものに役割として担ってもらう、それこそがOriHimeなのです。

まさに、これは巧な機能分担であり、このようなアプローチは技術だけを知識として学んだ人からは絶対に生まれないものであると私は思っています。
多くのトライ&エラーを繰り返しエラーに真摯に向き合い、人の心の本質を学ぶことからしか生まれることはありません。


親近感を与えるという行為は、人間関係の構築に大きなパワーを与えます。そして、それが孤独感を減らす一つの要因だということを、吉藤氏は自分の体験から気づき実直に開発してきました。
そして、それに共感し仲間となった人たちも一人ひとりが同じように自分の体験に照らし合わせた時に、それが真実であることを身をもって知っていた人たちだといえます。

孤独を癒すには、親近感をもつ相手とのコミュニケーションが必須です。
その親近感は時空間を共有した中で生まれることが多く、全て人の体験や日々の生活の営みに深くかかわっています。


もうお分かりかと思いますが、相手との会話の中で臨機応変に共通の体験や話題を発見し、それらをコトバという道具を使って自然に深めることができるのは、人間しかいないのです。
だから、OriHimeを介した二者が親近感をもった会話や雑談ができるのは、ある意味ごくごく当たり前のことなのです。

”感情共有”ができ自分の分身のように操作できるロボット!
それがOriHimeなのです。
『OriHimeの秘密』おわかりいただけましたでしょうか?

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5.道のり


『OriHimeの秘密』をこんなに簡単にばらしてしまっていいの⁉と思われる方もいるかもしれません。でも、安心して下さい。大丈夫なのです。
その理由は、OriHimeが誕生して今年で11年になりますが、OriHimeが歩んできたその道のりにあります。そして、その道のりは実は親近性の濃度に非常に密接に関係しています。少し振り返ってみましょう。


■第1ステップ:OriHime初号機の開発当初

この時期の利用例としては、病院に入院中の人(親・子供)がOriHimeを介して家族と一緒に家でテレビをみる等常に一緒に過ごし、家族で笑い合える時間を共有するというものが多くありました。
そして、その後ハンディキャップがある子供や病気で入院中の子供たちが、学校にOriHimeで登校して、お友達とコミュニケーションをするケースも増えていきました。

これらは、①親近性が高濃度の家族の場合、②中濃度の友人の場合ですが、もともと時空間を共有し相互理解がベースとしてあるケースです。

つまり、親近性の濃度がある一定以上ある二者でのコミュニケーションにおいては、人型ロボットで映像は片方向のみであっても、OriHimeがその人の存在感をうまく伝達できることを最初のステップで実証しました。

(★本コラムの最後に、参考になるnoteの記事をリンクしています。オリィ研究所の第一ステップの営みが、今まさに社会に溶け込んでいきつつあることをご理解頂けると思うので、最後まで読んで頂き合わせて閲覧頂ければ幸いです。)

■第2ステップ:OriHime-BIZ開発当初
次のステップでは、NTT東日本でのテレワーク活用(社内トライアル)等の実験に進みます。
なお、このトライアルには、シンプルに仲間と一緒に働くことは楽しい‼という想いが込められていました。そして、最初からハンディキャップのある人もない人も、OriHimeを活用したロボットテレワークに同じように参加したというのもこのステップの大きな特徴の一つです。

当時はコロナ禍前ですから、テレワークの普及は十分ではなく、物理的距離がある中で職場やチームメンバーと離れて一人で業務をこなすことは、メールやチャット、電話会議等のオンラインツールを活用しても非常に困難を伴うことであり、孤独な働き方でした。

詳細はここでは省略しますが、トライアルの結果から下記のことがわかってきました。
A)チームメンバーの一人ひとりの心理的安全性の担保に寄与できること
B)働く場所や時間に制約があっても、個々人の暗黙知(その人固有の専門知識、ノウハウや経験知等)を活用したいと強く思うマネージャー層が導入に前向きであること


心理的安全性とは、親近性の①や②のケースのような二者間の関係ではなく、集団・チーム内での信頼関係を意味するものです。
上記のトライアル結果から、A)とB)はニワトリと卵という関係性でもありますが、③親近性が低濃度の職場の同僚の場合であっても、OriHimeがチームメンバー同士の親近感を醸成する(物理的距離による親近性濃度の低下を防ぎ、その維持に貢献する)ことができるツールであり、暗黙知の流通がより自然にリアルタイムになされることを第2ステップで実証しました。

そして、環境の変化が激しい時代において企業がスピードある対応を求められている今、豊かで多様な暗黙知を融合することで推進される業務(例:ビジネス構想・イノベーション創造・緊急時や臨機応変な対応が必要な場)において、OriHimeの活用が今後増々有効になってくると考えています。

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<補足>
ここにある”心理的安全性”は、チーム研究の第一人者のエドモンドソン教授が提唱した考えでありGoogleの調査結果の発表をきっかけに注目されました。これは、 知識労働者のパフォーマンス向上に必須な要素でありビジネスで生じた複雑な問題の解決を可能にすると言われてています。

その理由として、従来の「チーム」は物理的に同じ場所にいて、文化・風土を同じくするメンバーで構成され、信頼関係を築く十分な時間があることが前提でした。しかし、最近ではプロジェクトは短期間で成果を求められることも多く、また多様なメンバーで構成されるため非常に流動性の高いチームが一般化しつつあります。
さらに、コロナによって全メンバーが物理的に距離が離れた分散したチームとなりました。アフターコロナの世界では、ハイブリッドテレワーク(※)が標準のスタイルとなるでしょう。その環境で、よりよいマネージメントを実行しチームを機能させるためには、「心理的安全性」が増々重要となります。心理的安全性が高いチームは、お互いを尊重して助け合う意識が高い点が特徴です。そこには、些細なことでも気軽に相談や雑談などもできる親近感あるメンバー、失敗を恐れずにチャレンジする土壌が整っています。

(※アフターコロナの世界のハイブリッドテレワークとOriHimeの関係性については、簡単には説明することはできないのでまた別の機会にお話しできればと思っています。)


■第3ステップ:OriHime-D開発及び分身ロボットカフェ実験常設店

そして現在のステップに至ります。OriHime-D開発及び分身ロボットカフェ実験常設店で、まさに日々トライアルが行われています。

親近性がほぼ0という接客/物販というシーンにおいて、お客様とのコミュニケーションがどう営まれ、そして相互の親近感へどのような影響を与えるのか日々実績を積んでいるところです。

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まだ、発展途上ではあるものの、私にはある予感があります。

■私はステップ2において、親近感は相手がすぐそばに居るという条件は必ずしも必要ではなく、OriHimeは物理的距離による親近性濃度の低下を防ぎ、その維持に貢献することを目の当たりにしていきました。

ここで、一見さんは親近性がほぼ0なのだから、0→0の維持のままでは意味がないではないか?
という疑問を持たれる方もいるかもしれません。

しかし、例えば、共通点さえあれば一度も会ったことのないアーティストや作家にも、その作品を通したメッセージから親近感を覚えるなんて経験がある方も多いのではないでしょうか。

そういう観点で、分身ロボットカフェと普通のカフェを比較してみると…
お客様にとってカフェ来店がそもそも食品の提供をうけるという目的ではなく、カフェで過ごす時間に価値を見出し来店しているという大きな違いに気づくことができます。

予め話す時間が確保された予約席であれば、OriHimeパイロットとの雑談も含めた価値の提供です。まさにモノ売りではなくコト売りの最前線です。
軽いレベルの会話の中でも、出身地や趣味、好きな食べ物や音楽などが同じというだけでも親近感が湧く瞬間があり、相互に打ち解けるまでに時間はかかりません。その笑顔溢れるコミュニケーションそのものが貴重な価値であることに気づき、あっという間だったとさえ感じるかもしれません。

また、分身ロボットカフェのお客様は、初めて来店した時点ですでにリピーター候補というユーザ層ですが、OriHimeパイロットの方々から溢れるコミュニケーション・親交からチームの一員的な感覚を持つ常連さんとなることは容易に想像がつくでしょう。
そして、親近性という観点では④→③ではなく、④→③→②という気持ちの変化が誘因され、低~中濃度の親近性になるのではないかと思っています。
(これは実感を伴った予感!)

■そして、もうひとつ重要なことがあります。
それは、パイロットチーム側の親近性についてです。
今回常設店となった分身ロボットカフェは”職場”であり、パイロットチームは”同僚”なのです。
そして、すでにステップ2で実証されたように、失敗してもよいという心理的安全性が担保された職場であり、そして同じ価値観や境遇を経ての未来を創るというミッションをもった集団でもあります。
また、日々の接客はパイロット一人ひとりの暗黙知(その人固有の専門知識、ノウハウや経験知等)を凄まじいスピードで増幅させ、社会をデザインするパワーをもった強固なチームワークの形成を施していきます。

それらは暗黙知であり、今まで世の中になかった世界の経験知でありノウハウです。テキスト化された小さな形式知とは比較にならない、膨大な量の暗黙知が日々蓄積され続けているのですから、今『OriHimeの秘密』をばらしてしまっても全く問題ないのです。大丈夫です‼


6.未来予想

最後に、未来予想ですが…
価値観や境遇が似ている相手にはより強い親近感が湧きやすいものですが、混沌とした世の中であるが故に、多くの人が人のぬくもりや優しさを感じたいと強く求める時代になっていきます。

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分身ロボットカフェの本質は、人のぬくもりや優しさをサーブすることができる今までにないスタイルのカフェとなります。

そして、これからの最終ステップで大事なことは…
●OriHimeを介した二者とその周りにあるモノとコトを育むスタッフ、さらにそのスタイルを受け入れ導入に尽力する人たちが根底で繋がること
●その中で『持続可能なありがとうの連鎖』として定着するために何をすべきか、何があるべきかを考え抜くこと
●全ての人が、『何が正しいことで本質は何かを見極める力』をつけること
●そして、一人ひとりを大切にする生き方を自分自身ができていると感じ、行動し続けること
だと思います。

その地道な人間の営みによって、
分身ロボットカフェが多くの地域・社会に浸透していく世界に突き進んでいく…

そういう未来予想をして、本コラムを終えたいと思います。
長くつたない文章を最後まで読んで頂き、ありがとうございました。


<★参考サイト>
第1ステップの営みの事例にもありましたが、院内学級の子供たちがOriHimeで登校し学びを深めることができたこと、そして子供たちに寄り添うことで今まさにOriHimeが社会に溶け込んでいきつつあることが漫画でわかりやすく掲載されています。
是非、あわせてご一読頂ければと思います。

【漫画×社会課題】分身ロボットOriHimeを活用した「院内学級」の子どもの学び

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