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自分の中で眠っていた創作意欲が目を覚ましつつあるのでマイペースに続けていきたい。創作の場を離れてから、10年以上かけて心が代謝したものをどんな手段で排泄するか迷い中。インテリア、わんにゃん、本屋、漫画、イラスト、オカルト、歴史、雨、パンとコーヒーが好きなHSP。

マガジン

  • 【創作連載小説】(k)not

    創作小説。完結しました。長編ですが一話2000〜3000文字なので、サクッと読んでいただいて、続きが気になった方は次の話も読んでいただけたら嬉しいです。現在続編準備中。公開してからもちょいちょい直しを入れたりしているので、更新時間順ではなく、マガジン掲載順に読み進めていただくことをお勧めします。

最近の記事

「(K)not」第五十話 結

 郊外の霊園は僕らの他に誰もいない。周りのお墓を見るといろんな大きさや形があって、でもみんな何処かに十字架が彫られているからやっぱり此処はキリスト教の墓地なんだと思う。宗派まではわからないけれど。目の前の雪が積もった十字架に刻まれたアルファベットがあの娘の名前なんだろう。 「メリークリスマス。やっと、来ることができました。」  白く浮かんだ言葉は雪が溶けるみたいに消えていく。十字架の下の、冷たい土の下の、もうその人では無いものに語りかけてどうするというのだろう。でもふと思

    • 「(K)not」第四十話

       毎年この時期、中高一貫のミッションスクールに通っていた僕は待降節の準備で大忙しだった。それなのに今年は試験勉強に忙しい。ようやく脚の筋力が戻り、外を出歩けるようになって来たというのに、と僕が切ない溜め息を吐いていると、爽が「家族には内緒で二人だけで出掛けたい」と誘ってきた。何だろう、なんかドキドキしちゃうな。  当日の空は低く薄曇りで、今にも降り出しそうな雪の気配に完全防寒で家を出る。爽とは駅の近くのカフェで待ち合わせていた。駅までの道の途中、寒いはずなのにマフラーに埋め

      • 「(K)not」第三十九話

         花火の夜に目が覚めた聖名は、全てがまだぼんやりとした微睡みの中にいて、病院のベッドの上でウトウトと睡眠と覚醒を繰り返し、やがてカーテンから薄ら朝の光が透けて見える頃、じわじわと意識が体に馴染んでくる様だった。そのうち記憶や疑問が次々に湧いて、病院の天井を眺めながら聖名は考えた。  なんで歩けないの?  なんで髪伸びてんの?  この浴衣いつ出来上がったの?  そもそも着た覚えがないんだけど?  なんで病院にいるの?  マドのあの頭、何?  昨日まで、と言っても聖名の魂に日

        • 「(K)not」第三十八話

           鋏を持つ手が震える。刃物はあまり持ち慣れない。なぜ今こんなことになっているのか、こういうことが一番上手そうだからか。だったら器用そうに見えるのは良いことばかりじゃないな。誰にだって得手不得手はあるのだ。たとえ血を見るような失敗をしたとしても、それは俺だけの責任では無い。今回は相手が悪い。  上下の刃先が重なり合う時に薄皮をちょっとでも破ろうもんなら、血飛沫が盛大に吹き出して簡単に死んでしまいそうな儚いいのち。自分でもそれを予感してか、胸の前で硬く組んだ両手を微かに震わせて

        「(K)not」第五十話 結

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        • 【創作連載小説】(k)not
          50本

        記事

          「(K)not」第三十七話

           八月の終わり、まだまだ暑い日は続いている。  空は抜けるように青いし、日差しは一向に弱まる気配を見せない。太陽はいつからこんなに気前が良くなったのだろう。まるでこのままずっと夏休みのままでいてと言う誰かのお願いを聞いてやっているみたいだ。しかし現実にはどんなに真夏日が続こうとも、暦の上で9月になれば二学期はやってくる。終わらない夏休みなど無いと知ることは、大人への第一歩なのだ。夏休みへの未練にどうにか折り合いをつけ世知辛さに慣れ、やがて皆、有給休暇には限りがあることを知る

          「(K)not」第三十七話

          「(K)not」第三十六話

           5階建ての校舎の屋上に建てられたフェンスの向こうに上がった狼煙が爆ぜて、夜空に血の様に紅い大輪が咲く。そのとびきり派手な目覚ましの音と震動に、瞬は目を覚ました。    「何だ今の!?どうなってる!?」  彼らが痴呆のようにあんぐりと口を開け天を仰ぎ、真上で黄色の牡丹が開花したとき、  「あっつ、ああっつ!熱っ!!」  信じ難いことに降ってきた火の粉が無精髭を焦がし、和二郎は半狂乱でそこらじゅう転がり回った。彼のパニックが周りに伝播して、眠っていた家族たちが次々に飛び起

          「(K)not」第三十六話

          「(K)not」第三十五話

           遠くで開く花火の音を聞きながら、広がる宙に散らばる星を見ていた。背中のブルーシート越しに固いコンクリートの感触が冷たく、頭は冴えている。仰向けに寝そべってしまえば、昼間見た屋上の高いフェンスは視界に入らず、雲の無い夜空は自分のぐるりを取り巻き、深い暗闇の底にいる様な感覚に陥る。きっとあの闇の向こうに世界はある。  有馬は、自分だけが起きていることに気付いた。  和二郎らが日頃の疲労が蓄積してすぐに爆睡し始めたことは知れていた。正一郎に至っては尻の上の帯が腰に優しくいつもよ

          「(K)not」第三十五話

          「(K)not」第三十四話

           魑之と沖崎は、ソファから移動し、観測所内のテーブルに各々ノートパソコンをセッティングし始めた。二人は向かい合ってイヤホンを装着し、パソコンの画面に頭を下げたり手を振ったりしている。「お父上」が参加したようだった。  WEB会議が始まった。  「どうもお疲れ様です。」  「お疲れさま。」  「こんちの〜。」  繋がって、それぞれの冒頭の挨拶が済んだところで、雑談などは挟まずHN「お父上」がすかさず議題について述べた。 「親権者の承諾なく、無断で未成年の家族と同衾した場

          「(K)not」第三十四話

          「(K)not」 憂し満〜忌還

           深淵のほとりに佇んでいた彼女に一報を告げたのは一羽の鴉だった。三本の脚を持つ鴉に導かれ深淵から奈落へ潜ると、光る緑地に鳥籠の様な硝子のテラスが在るだけの、まるで作られた中庭の様な世界が広がった。  そこから先の記憶が無い。  誰が為に在る世界なのか不明だが、奈落にこんな静かで穏やかな場所があるとは。この世界を生んだ神がいるとすれば、余程大切な何かを隠しておきたいのであろうことが窺えた。  目覚めた魑之は、そこが堕ちてきた奈落の底であることを認識した。ひとつ欠伸をして全

          「(K)not」 憂し満〜忌還

          「(K)not」 聖名③

           気付くと自分の部屋のベッドに横たわっていた。  何だか頭がぼーっとして気だるい感じがする。見慣れた天井を見上げたままそのままゴロゴロしているうち、寝起きだと言うことに気付く。枕元のスマホを見ると朝の9時過ぎだった。少し寝過ごしたと思い、寝巻きのまま部屋を出て僕は鼻を鳴らした。何だか焦げ臭いような、煙たいような。階段を降りる脚の違和感の正体、脹脛と太腿の軽い筋肉痛に既視感を感じる。 8月最後の日曜日。この日行われる地元のお祭りに、大好きな先輩にが誘ってくれたことが

          「(K)not」 聖名③

          「(K)not」 聖名②

           初めて袖を通す浴衣は母が縫ってくれた。    浴衣と同じ薄紅梅の生地で作った細いリボンで、少しウェーブのかかった柔らかい猫っ毛を結ぶ。日焼けを嫌って、日傘と敏感肌用の日焼け止めで守っている白い頸に、後毛が揺れている。いつもは下げている前髪も捻ってピンで止め、形の良い額が愛らしく、弧を描く美しい眉と伏せた瞼にすれ違う人は皆見惚れた。薔薇色の頬に落ちるふわふわの睫毛と薄い唇から覗く白い貝の様な小さな歯。  ゆめふわな美少女の僕は、気付くと自分の部屋のベッドに横たわっていた。

          「(K)not」 聖名②

          「(K)not」 深淵

           魑之は麻酔本を広げた。   禁書と一言で言っても様々ある。多くはその内容が人に対し有害であると認定されたが故の書物の禁錮であるが、麻酔本は所謂魔導書の類でないので、その発禁の理由が釈然としない。  使用するにあたり魔術とは異なり面倒な詠唱等は必要なく、寝つきの悪い時などその頁を繰ればたちまち睡魔に襲われ眠りに落ちる。またその眠りは深く、医療用吸引麻酔等と同じくレム睡眠を抑制する。しかし入眠から一気にノンレム睡眠に急降下するため、しばしば一種の記憶障害の様な症状に陥る。こ

          「(K)not」 深淵

          「(K)not」 彼は誰

           黄昏時に鳴いた八咫の鴉が夕闇を連れて来た。辺りは一層暗くなり、濃密な憂いに満ちた夜帷は忽ち彼に纏わり付き、混ざり込んでくる。悲しみや恐怖という感情は既に奪われ、チカチカと明滅する魂が、千切られた魂の切れ端と契ろうとする。自分以外のモノを拒絶する為の手は握り締めて動かない。  今まで何度も味わってきた気持ちとは何だったのだろう。  そう思わざるを得ない絶望。今際の際の喪失感。  その刹那、確かにそれは彼を彼として照らした。  突然、夜帷から切り離されて個となった彼は、

          「(K)not」 彼は誰

          「(K)not」 聖名①

           初めて袖を通す浴衣は母が縫ってくれた。    浴衣と同じ薄紅梅の生地で作った細いリボンで、少しウェーブのかかった柔らかい猫っ毛を結ぶ。日焼けを嫌って、日傘と敏感肌用の日焼け止めで守っている白い頸に、後毛が揺れている。いつもは下げている前髪も捻ってピンで止め、形の良い額が愛らしく、弧を描く美しい眉と伏せた瞼にすれ違う人は皆見惚れた。薔薇色の頬に落ちるふわふわの睫毛と薄い唇から覗く白い貝の様な小さな歯。  ゆめふわな美少女の僕は、気付くと自分の部屋のベッドに横たわっていた。

          「(K)not」 聖名①

          「(K)not」第三十三話

           鉄鼠の浴衣に黄金の帯を締めた強面のボスを先頭に、続く二人の利発そうな青年らは、それぞれ紫紺色と浅葱色の浴衣に身を包み談笑している。渋茶色の浴衣を飄々と着流している男性は、大変疲れている様子で、無精髭と目下に濃いクマを作っており、背には子供を背負っていた。子供は眠っている様で、萌葱色の浴衣の袖から伸びた白く細い両腕が男性の肩からだらりと垂れていた。集団の中で一番背が高く体格の良い青年が、濃藍色の浴衣の袖から覗く陽に焼けた逞しい腕を組んで、のっしのっしと殿を行く。  そんな何

          「(K)not」第三十三話

          「(K)not」第三十二話

           午後の講義がオンラインに変更になったので、自室で受講していた襟人は、突然の轟音にPCが落ちて、一人溜息を吐いた。     全くこの辺りは雷が落ち過ぎる。家族が多人数だからか、ブレーカーが落ちることもしばしばある。ゲームを趣味とする理紀や瞬が、プレイ中に何度もこの世の終わりの様な悲鳴を上げているのを知っている。後日、録画した講義を再受講すればいいかと早々に諦めた襟人は、慣れた足取りで部屋を出て、壁に手を這わせながら階下へ降りていった。  つま先の感覚が一階の床を感じたその時

          「(K)not」第三十二話