英国放浪記(散策編その3 楽器店巡り)
アビーロードへ行った後は、ロンドン最大の楽器街、デンマークストリートへと向かった。デンマークストリートは、日本で言えば御茶ノ水のような場所で、楽器店がいくつも軒を連ねており、楽器好きにはたまらない場所だ。有名な漫画「BECK」の主人公、コユキくんもここでフェンダー・ムスタングを購入している。
地下鉄を降り、雨上がりの歩道を進んで行くと、あるわあるわ…。
様々な楽器店が古めかしい看板を連ねていた。御茶ノ水ほど建物に高さはないものの、建物一つ一つに歴史を感じ、趣深い町並みとなっていた。
そして気づいたのが、どこのお店も照明があまり強くないのだ。ビンテージギターの塗装が照明焼けしないようにというのもあるだろうが、その他にも理由はあるのではないかと思った。
おそらくイギリスはヨーロッパ系の遺伝子を持つ人が多く、瞳が青や緑、灰色の人が多い。我々アジア人よりも瞳が光を吸収しやすいため、照明が落ち着いているお店が多いのではないだろうか。このようなところでも日本との違いをたくさん感じたのであった。
いくつかの店を巡り、特に目を引いたのが赤塗りの「Hank's guitar shop」であった。ここの店でコユキくんは、ムスタングを購入したのだった。おそるおそるドアノブに手を伸ばそうとすると、店内から怒鳴り声が聞こえてきた。
急いで手を引っ込めて店の中を覗くと、体格の良い店員さんが電話口で何やら揉めている。会話を盗み聞きすると、どうやら約束の品の納品が遅れているらしい。その催促の電話だったようだ。
大まかな状況を理解して店に入ると、さっきの店員さんが受話器をガチャンと置き、にこやかに接客してくれた。私は日本から来ていて、ビートルズやオアシスが好きであることを話すと、店員さんが笑顔で「とっておきの1本を弾かせてやる!」と言って、店の奥に消えていった。すぐに戻ってきて手にしていたのは、日本製のトーカイのレスポールタイプだった。「日本でも散々見てるよ!」とひっくり返りそうになった。(後にジョークだとわかった)
二人で話していると、店の奥からブライアン・メイ似の若い店員さんが顔を出してきて私を物珍しそうに眺めていた。私が日本から来たことを伝えると、「マジかよ!俺、ヤマハのキーボード持ってるぜ!」とやや興奮した様子。
その後、2人の店員さんはいろんなギターを弾かせてくれた。1966年製のギブソンのES330「お前さんの国にビートルズが行った年のやつだよ」と言って手渡してくれた。チェリーレッドの塗装が上品に日焼けして飴色に近い色になり、木材も乾ききっていて、素敵な響きがした。そして、日本では販売されていないグレッチ(日本製)も弾かせてもらった。フェラーリのような真っ赤なボディに1ピックアップのオシャレなギターだった。どちらも写真を撮り忘れたことが悔やまれる。
不思議なほどに2人とも日本製の楽器や機材が好きだった。どんなところが好きか尋ねると、サウンドや丈夫さが好みとのことだ。特にBOSSのエフェクターを絶賛していて「あれでフットボールやっても壊れない!」と話していた。(それはない)
気づいたら1人のアフリカ系の初老のおじさんが、セミアコを抱えてこちらを見ていた。おそらく「セッションしようぜ」のサインだ。
私は、手にしていたグレッチのギターで、稚拙な技術を使って(今も稚拙だが)Aのキーでバッキングをしていた。
おじさんがは、こともなげに様々なリフをスルスルと弾いていく。まるで指が指板の上を滑っていくようだった。
セッションを終えると、「ありがとう よい旅を!」と、握手とウインクをもらった。
ふと時計を見るとお店に1時間半も滞在していた。言葉を多く語らなくとも、共通の好きなものがあるだけで、これだけ盛り上がることができるのであった。