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SNSとしてVRChatを分析する:メタバースとは何なのか?一般層へ普及する可能性と課題についての考察

こんばんは、思惟かねです。

メタバース」がバズワードになったのち、そのブームも一山過ぎたと言われる昨今。現実的にはむしろこうしてブームが過ぎた後こそが勝負で、このブーム後の谷(幻滅期)をどう乗り越え、実用的なものとして世の中に受け入れられていくかが重要なのですが…それはさておき。
(くわしくはガードナーのハイプ・サイクルをどうぞ)

Jeremykemp at English Wikipedia, CC BY-SA 3.0を改変し作成

さて、こうしたメタバースブームの中で、俗にメタバース原住民といわれる現に今VRChatなどのメタバースで遊んでいる方々は、時代が追いついたことへの期待の一方で、警戒心をあらわにしていた方も多いように思います(実態を無視したバズワードとしての消費本来無関係なWeb3やNFTをセットにしたビジネス煽り一般層の殺到によるカルチャーの破壊、etc…)。
ただ実際には多少注目度が上がったくらいで(仮想通貨関連のいざこざで大ダメージを負ったNeosVRの悲劇を除けば)大きな変化は訪れませんでした。ブームの収束を見て原住民の皆さんは胸をなでおろしていることかと思います。


ただ逆にいえば、注目度の割には変化が起きなかったともいえます。大多数の一般層がメタバースを実際にプレイするようなムーブメントもないままブームが終息した今、メタバースの行く末はどうなるか? 現在のコアな趣味としてではなく、一般層に広く受け入れられる日は来るのか?という疑問について考えるべき時が来ていると思います。
そのためにはとりもなおさず、現在のユーザ層(原住民)ではなく、一般層がメタバースをどう見るか、どう使おうとするかを考えねばなりません。

というわけで、今回はマジョリティの一般層、特に新しいものへの受容性が高く、流行を左右するであろう20代以下の若者(Z世代)に焦点を当てて考察してみたいと思います。

また彼らのリアクションを予測するため、「メタバース」というふわっとした新語のベールを剥ぎ取りますVRChatのような具体的サービスを、現代人に広く受け入れられているSNSの一つとして捉え直し、比較対照することで「メタバースとは何なのか?」「マス層がそれをどう使うだろうか?」という疑問について明らかにします。

その上で、そこから導かれる今後5年以内のメタバースの現実的な動向予想についてお話できればと思います。

今までの私の考察は「バーチャルの可能性」に注目し、時代の先駆者的なレアケース、悪くいえばちょっと現実感のない方向性へ考察を深めていました。
その点、今回はかなり毛色の違う現実的な考察になりますが、お楽しみいただければ幸いです。


◆VRChatとはSNSである

今回はメタバースというものが実態として何であるかを考えるため、その代表であるVRChatを例にとって考察します。
以前、私がリアルサウンドテックに寄稿させていただいたこちらの記事でお話したのですが、VRChatやclusterといったメタバースは本質的にはSNSです。

VRUGC(User Generated Contents: アバターやワールドなどユーザが作成するコンテンツ)は重要ではありますが、大多数の人にとっては副次的な要素です。そもそもユーザの半分ほどは非VR環境ですし、UGCを作っているのは(改変アバターなどの小規模なものを除けば)ごく一部で、大半のユーザは消費者側です。
そしてそういった大半のユーザにとって、VRChatの用途は空間的コミュニケーション…「同じ空間を共有して、お互いの姿を見ながら会話する」というコミュニケーションです。

いわばやや特殊な通話アプリであり、それを根幹とするVRChatはまぎれもなくSNSというわけです。

前置きはここまでにましょう。ここからは比較対象として現在の主要SNSを選び出し、VRChatと比較するべく分析していきます。今回はこちらの調査結果を参考に「LINE」「Instagram」「Twitter」「TikTok」というZ世代で利用率が最も高い4つのSNSを対象にします。


◆Z世代のニーズとは:主要SNSの要素から

さて、こうした分析を行うにあたって、内容を整理するためのフレームワークが必要です。今回はSNSとしての魅力度と可能性を考えるわけなので、SNSでのユーザの「ニーズ」に焦点を当てたものとします。

SNSの利用目的は、大きく「情報収集」「娯楽」「交流」「発信」の4つに分類できると思います。皆さんもご自分のSNSの用途を思い浮かべていただければ、きっとこのどれかに当てはまるはずです。
さらにこのニーズを「グローバル」「ローカル」という2軸で分けましょう。これは対象の範囲がSNS上で不特定多数に向けた広がりを持つ(グローバル)か、友人など限られた範囲に留まる(ローカル)かという分類です。平たくいえば「ウチとソト」です。
この8分類を表にして、具体的な内容例を示したのがこちらです。

フレームワーク:SNSの用途の8分類

ここでグローバル/ローカルという軸を用意したのは、Z世代ではこの切り分けがはっきりしているためです。Z世代はSNS上で他人からどう見られているかに上の世代より敏感といわれ、Instagramでは90%近くが複垢以上であることや、Twitterでも鍵垢が多いことにそれが現れています。
なお本稿でいうグローバル/ローカルは、表/裏のような二項対立ではなく、例えばリアル垢⇒サブ垢⇒趣味垢⇒裏垢⇒NSFW垢…のように、発信・受信する範囲の広さに応じたグラデーション的な概念です。
またRTによる拡散があるTwitterはInstagramよりグローバル寄りであるといえますし、様々なクラスタと繋がるアカウントと比べれば、特定の趣味クラスタのみと繋がっているアカウントはローカル寄りといえます。

グローバル・ローカルの概念図

これが顕著なのが「発信」です。Z世代では、写真を特定のユーザーだけに送り、それも見た後にすぐに消えてしまうSnapchatや、24時間で投稿が消えるInstagramのストーリーズの人気が高いです。
この背景には、ずっと自分のアカウントに残り、先々知り合う人、見てほしくない人に見られたり、他の優れたもの見比べられてしまう「グローバル」なコンテンツへの抵抗感があります。
そうではなく、限られた親しい人に向けたちょっとした、長く残すほどでもない「ローカル」なコンテンツを気軽に発信したい…こうしたニーズが、SnapchatやInstagramストーリーズの人気の源泉です。

またこれは、友達同士(ローカル)での「交流」と連動しています。誰かのちょっとした発信に、友達が気軽に反応する。するとそこで交流が生まれて…と、ループが回るのです。ローカルの気軽さがコミュニケーションを活性化しているわけです。
その代わり、グローバルになるほど人目を意識して「交流」「発信」とも控えめになります。実際私もTwitterというグローバルな場での発信はやや気が重く感じます(なのでDiscordに引きこもりがちなわけですが…)。
この点が、グローバルなインターネットに慣れた(鈍感な)Y世代以上とZ世代が異なる点でしょう。

また「情報収集」や「娯楽」については、サジェストやハッシュタグをフル活用してグローバルに、効率的に収集していくのもZ世代の傾向です。グローバルとローカルの切り分けがはっきりしているとはこういった点を踏まえてのことです。

さて、このニーズの8分類フレームワークを用いて、先に上げた4つの主要SNSについて、Z世代での使われ方を様々な調査結果を元に私なりに表にしたのがこちらです。
(◎:コアな用途 ◯:比較的多い用途 空欄:少数ないし非対応の用途)

主要SNSのZ世代での使われ方の分析

特徴的なのは、LINEを除く3つのSNSが幅広いニーズをカバーしていることです。

特にInstagramは情報収集を中心に最も幅広く使われており、主機能のハッシュタグでの写真検索がグローバルな情報収集を。24時間限定のストーリーズがローカルな発信・交流を。そしてDMがよりローカルな交流・情報収集を担い、これらが1個のアプリで可能なことが魅力を高めています。

また、Instagramでは複垢が基本であることは既に触れたとおりですが、こうした交流・情報収集のため、リアル垢、裏垢だけでなく、トピックごとに別のアカウントを使い分けるという運用も少なくないようです。こうした複垢がセットになってInstagramというアプリの用途は成立しているともいえ、先ほど説明したグローバル/ローカルの概念は、このアカウントの使い分けと密接に繋がっています。

一方でLINEは普及率が高い上に複垢不可なため、自然とプライベートな連絡先(一昔前でいう電話番号にあたるでしょうか)になっており、それが価値になっていると想像できます。

ほぼ同水準の使用率のTwitterも、同じくTLやDM、ハッシュタグなどで情報収取・交流に使われています。ただ全体としてInstagramは友人との交流寄り、Twitterは情報収集寄りの傾向があります。ポイントは「InstagramかTwitterか」ではなく、どちらも用途に応じて使い分けている人が多いということです。

またInstagramとTwitterとも投稿する人は全体のわずか30%なのに対し、24時間で消えるInstagramストーリーズはアクティブユーザの70%が利用しているということで「見て欲しいけど、ずっと残したくない」という心理が強いようです。

そしてもっとも注目したいのがTikTokです。
1動画15秒という短時間の(=タイパのいい)娯楽として圧倒的な人気を集める一方で、TikTokは実は単なる動画閲覧・投稿サイトではなく、強力な動画作成機能がセットになったアプリです。TikTokで動画を作り、Instagramのストーリーズに投稿する…という流れも多いらしく、手軽な発信という点でかなりの影響を与えています。

またこれら主要なSNSには含まれていませんが、DiscordHouseparty、国産だとパラレルのような「ながら通話」に向いたアプリが多くヒットしている点は見逃せないポイントなので、Z世代の特徴の欄に注記しています。この他も、特化型のSNSが主要なSNSやゲームと併用される傾向が強いようです。


◆Z世代のSNSトレンドとSNSとしてのVRChat

以上のような情報を総合すると、Z世代のSNS利用についてこのようなトレンドが見えてきます。

  1. 親しい友人との交流(ローカル)の重視

  2. 複垢によるグローバル/ローカルの使い分け

  3. ローカルでの気軽な発信による交流の活発化

  4. 効率重視・受動的な利用傾向

  5. 機能別での複数SNS併用

最も大きいのは①の、グローバルで開けたインターネットから、ローカルな…言い方を変えれば(SNSの本義である)友人との交流重視への回帰です。常に人に見られている意識があり、オープンな場での発信は控えめになります。これは世間の多文化主義への反動と分断の時代というトレンドとも関係していると思います(あるいは単にグローバルなSNSでの無為なクラスタ間の争いや炎上を見すぎたことによる厭世傾向でしょうか)。

②はこれと関連していて、単なる知り合いレベルの繋がり(グローバル)と気軽にやれる仲のいい友達との関係(ローカル)を別のアカウントとして切り分けることにより、SNS上でのリスク回避と、活発な交流を両立しているわけです。

③の気軽な発信も、①②と繋がっています。TikTokやストーリーズは、制作の難易度を下げるのに加え、受け手側を時間的に(=ローカル側に)限ることで発信のハードルを下げました。これがさらに友人との交流を活発化させてSNSへ人を引き込んでいるわけで、注目すべき点です。

④の効率重視はハッシュタグを活用した情報収集、TikTokから見るタイパ重視の傾向、ながら作業が多いなどから見て取れます。またサジェストなどSNSのアルゴリズムを所与のものとして収集よりも消費に時間を割いている向きもあり、コンテンツを「探す・見つける」ものではなく「流れてくる」ものと見る受動性を感じます。

⑤はすでに見た通り、特定のアプリ・サービスではなく、様々なSNSやアプリを機能ごとに連携して使い分けるという傾向です。複垢もある意味、この一環と見ることができるでしょう。これはスマホという洗練された単一デバイスで全てが完結するという背景もあると考えられ、裏を返せばスマホ以外のデバイスに対するハードルの高さをはらんでいます。

では、これらを踏まえた上で、はたしてVRChatとはZ世代のトレンドに合致した、マス層にとって魅力的な「SNS」になりえるでしょうか?
先ほどのニーズの8分類フレームワークで、VRChatの機能を分析してみましょう。

ニーズの8分類フレームワーク

①情報収集(グローバル) ×
 ほぼ皆無。トレンドのワールドのサジェスト等はあるが、実用性は低い。補完としてTwitterがほとんどを担う。

②情報収集(ローカル) ◯
 ボイスチャットソフトなので相応に可能。アバターやワールド技術など、VRCに関する話題は豊富。

③娯楽(グローバル) ◎
 ワールドの形で、面白いUGCが豊富に供給。ゲームワールド、ホラーワールド、観光ワールドなど。アバターやギミックの制作、販売も盛ん。ただしBoothやTwitterなど外部のプラットフォームに依っている。

④娯楽(ローカル) ◎
 ⑥と重なる。フレンドとの交流、ゲームワールドで遊ぶなど豊富。用途の中心。

⑤交流(グローバル) ◯
 Publicワールドで広く交流できるが、JPユーザではやや忌避傾向がある。VRChat内でのイベントによるフレンド以外との交流はそれなりに盛ん。

⑥交流(ローカル) ◎
 ④と重なる。フレンドとの交流、ゲームワールドで遊ぶなど豊富。用途の中心。

⑦発信(グローバル) ◯
 UGCであるワールド、Publicアバターは全ユーザに向けて発信される。またイベントの開催などもこれにあたり、ユーザ間で盛ん。

⑧発信(ローカル) ◯
 UGCであるワールドはCommunity Labsや限定公開の形でフレンドへ公開できる。アバター改変などもこの一種といえる。クローズドなイベントなどもこれにあたる。

VRChatの既存ユーザの使い方

…と、一見するとかなり高評価に見えます。が、これはあくまでVRChatが今コアユーザーにどう使われているかの話です。
問題は、これがZ世代のニーズと事情に合致するか。その上でどの機能が主に使われるかです。では、いよいよ本稿のキモになる結論をみてみましょう。


◆惜しいが肝心な所が足りないVRChat

結論からいうと、VRChatは部分的にマス層のニーズに合致しているが、様々な問題から用途が限られ、一定の普及はしてもメジャーにはなりえないのではないか。これが私の予想です。

Z世代のマス層にとってのVRChat娯楽(ローカル)と交流(ローカル)のニーズにはよくマッチするものの、その他の機能には課題が多く、ボイスチャット付きでアバターを使って友達と(やや洗練不足だが)色々なゲームができるアプリ、という凡庸な立ち位置にしかならないであろう、と。

Z世代マス層でのVRChatの使われ方(予想)

大前提として、これはVRChatのスマホアプリ版が正式リリースされ、マス層はこのスマホアプリでプレイする想定です。
そも30代以下でのPCの普及率は60%以下、デスクトップPCの所有率は18%しかありません。ゲーミングPCは全世代で普及率6%ニーズが高いPCを差し置いてVRゴーグルを買うなんていうのは非現実的です。先に述べた⑤のトレンドも考えれば、マス層に受容されるにはスマホアプリ以外の選択肢はないでしょう。

さて、では以下根拠についてです。こちらは先に述べたZ世代のSNSにおけるトレンドです。これをどれだけVRChatはマッチしているか?

  1. 親しい友人との交流(ローカル)の重視

  2. 複垢によるグローバル/ローカルの使い分け

  3. ローカルでの気軽な発信による交流の活発化

  4. 効率重視・受動的な利用傾向

  5. 機能別での複数SNS併用

①はVRChatがトレンドによくマッチしている点です。
こちらの記事が詳しいのですが、実はメタバースの本丸たるMetaは、「People First」…親しい友達と同じ空間を共有し、本当の意味でソーシャルなアプリを作るという思想の下、VRメタバースに取り組んでいます。おなじくメタバースとして「同じ空間を共有して、お互いの姿を見ながら会話する」VRChatは、親しい人とローカルに交流するのにもっとも適している形態といえます。
アバター+ボイスチャット+ゲームワールドという形で、VRChatが受容される可能性があると考える根拠はこれに尽きます。

②は、そもそもVRChatは交流がボイスチャット=ローカルしかないサービスのため、あまり関係のない部分でしょう。オンラインのフレンドリストが唯一のグローバル要素です。複垢には対応していますが、切り替えについては手軽とは言えないのはマイナスです。

ただ、③のローカルでの気軽な発信による交流の活発化には致命的に難ありです。
VRChatにおける発信は主に2つ。1つはUGC(ワールド、アバター)、もうひとつはイベントの開催です。ただしUGC作成には、3D制作ソフトのUnityが必須となります。この時点でスマホが中心のマス層がUGCを作る可能性はゼロです。そも、PCがあっても相当に難易度が高いソフトなのです。
一方イベントの開催も現実的ではありません。イベント自体がグローバル志向であり、ローカル志向というトレンドに逆行している上、そもそもこれは単なるコアユーザのカルチャーで、VRChatに実装された「機能」ではないからです。Twitterなどの外部メディアや有形無形のノウハウが必要であり、それを促しアシストする仕組みがない以上、期待はできません。

効率重視・受動的な利用傾向についても、相性ははっきり悪いです。VRChat自体がお互いのアバターを見てコミュニケーションするという没入度の高い設計…いいかえれば「ながら」に全く向いていないためです。
また、たとえ一人でコンテンツを消費する(ワールド巡りなど)にしても、全体的に検索機能が弱く、パーソナライズやサジェストもない、そもそもスキマ時間で消費できるようなものではないため、相性はバツです。

機能別での複数SNS併用に関してはVRChat内部での撮影機能が充実しており、InstagramTikTokとはすでに広く連携して使われている様子が見受けられます。ここはトレンドにマッチしているといえるでしょう。
ただし繰り返しになりますが、VRChatがスマホでスムーズに使えることが大前提です。Metaが目論むようなVR-HMDがZ世代のマス層に普及することは当面ありえないでしょう。

最後に、より根本的な課題として、VRChatに限らずメタバース、仮想には現実とのリンクが薄いという致命的な課題があります。

動画にしろ写真にしろテキストにしろ、SNSにおけるコンテンツの大半は現実世界のモノとリンクしているから意味を持ちます。前提として、誰かが現実世界で作った料理があるから料理の写真や動画が撮れます。さらに他の人が気になる人がその写真や動画を検索し、イイネを押し、そのお店に行き、また料理の写真を撮り、それにお互いにコメントをして…。
つまりSNSとは、現実にあるモノ・コトを起点としてあらゆるアクションが発生しているのです(例外はイラストなど創作物や、思索の類くらいでしょう)。

SNSとして見た時、VRChatは仮想世界であるがゆえに現実世界のものとリンクすることが難しく、VRChatの中のモノ・コトばかりを起点にせざるをえません。よくVRChatユーザがいう「VRCの定番の話題はアバターとワールド」というのは、そもそも起点になる(ネタにできる)ものがVRChatの中には原則それしかないからです。
そしてマス層の中で、VRChatの中にあるモノ・コトに興味を持つ人はごくごく一部でしかないでしょう。大半の人はファッションやグルメ、インフルエンサーや自分の趣味といったジェネラルなモノ・コトにしか興味がなく、そしてそれらは現実世界にしか存在しないのです。

よってグローバルな交流というニーズで見た時でも、VRChatには交流しようとする原動力…起点となる共通の話題が存在せず、それをマッチングする手段もないため、そのニーズはどうやっても満たし得ないということになります。ゆえにマス層がVRChat上で交流を活発化させるということはありえないでしょう。

Z世代マス層の視点から見たVRChat

つまり、マス層にとってのVRChatというメタバースアプリは「ボイスチャット付きでアバターを使って友達と色々なゲームができるアプリ」以上のものにはなりえないのです。


◆平穏な日常が続くVRChat、一方clusterは…?

さて、もし仮にVRChatがZ世代のマス層においてゲーム+チャットアプリとしてささやかな立ち位置を獲得し、数十万人ほどの(それでも日本のユーザ数が100万人ほどのVRChatからすれば莫大な)ユーザが流入した時、VRChatには何が起こるでしょうか?

これまた肩透かしですが、既存ユーザには何も変化は起こらないと私は考えています。というのは、VRChatの既存ユーザとマス層ユーザで行動の様態が違いすぎるからです。

そもそもマス層のユーザにとって、この場合VRChatとは「友達と遊びに行く場所」です。彼らはVRChatの中でフレンドを作るのではなく、外から友達を連れてくるのです。つまり双方が接触すること事態がレアケースです。
上の表を見ても分かるように、VRCの既存のカルチャーに彼らの大多数は興味を持たず、さながら観光地に来た観光客が、地元の神社や土着の風習には目もくれずパーティをして帰っていくように、何事もなく両者はすれ違うでしょう。

たまに覗くpublicが微妙ににぎやかだったり、ゲームワールドのインスタンスが多かったり、あるいはそういったマス層をターゲットにしたイベントや商業化の動きが加速したり…その程度かと思います。
当面、既存のVRChatの世界は平穏無事に続いていくと私は考えています。


一方で、カンのいい方はお気づきでしょうか。
先ほど私が「VRChatはZ世代マス層のトレンドにマッチしてない」といった点のうち、結構な数をクリアしている別のメタバースがあるということを。

そう、clusterです。

まずclusterのスマホ対応はVRChatに先駆けること2年。機能面の洗練は随分進んでいます。①②についてはVRChatと大きな違いはなく、概ね優れています。

大きな違いはそして③ローカルでの気軽な発信による交流の活発化です。VRChatが増えてだった、UGCの手軽な作成イベント機能。どちらもclusterにはとっくに実装されているのです。

ワールドクラフトは、マインクラフトにおける建築のような感覚でワールドが作れます。イベントの実施も手軽で、スマホひとつでちょっとコンテンツを作って友達の間で話題にする、ということが現にできてしまう環境です。Z世代のトレンドにしっかりハマっています。

また④効率重視の利用傾向についても、さすがに「ながら」には同じく不得手ですが、検索性という点ではサジェスト機能がしっかり作られており、ワールドイベントをブラウザやcluster内で確認できます。

機能別での複数SNS併用についても、アップデートによりすでにVRChatに見劣りしないカメラ機能を備えており、写真の共有などもスムーズ。なんならcluster公式もTikTokに動画を投稿していたりします。

なにより、clusterはマス層ユーザのメインストリームとなるであろうゲームによる交流に対して、オフィシャルにコンテストイベントを開催して後押ししているのです。しかも48時間という短期間であり「手軽な発信」という要点を押さえています。

このように(私も書いていて驚いたほど)clusterはZ世代のトレンドにマッチした「SNS」化の戦略を取っています
もちろん、VRChatと同じく「仮想」であるがゆえにマス層ユーザの興味のあるトピックが少ないという根本的課題はありますが、スマホひとつでUGCが作れるclusterは、うまく転がり始めればそのハンデをひっくり返すポテンシャルがあるのではないか…と私は思います。

clusterのZ世代での使われ方(予想)


◆まとめ

どうもここまで長文、お疲れ様でしたm(__)m
私自身がZ世代のSNSについて調べ、まとめながら書いたため、想像以上に長くなってしまいました。

今回は「メタバース」という言葉に隠されたその実態を、今現に流行しているSNSと比較することで明らかにし、Z世代のマジョリティのトレンドを踏まえて、現実的なメタバースの未来像を考えました。
まず4つのニーズ ✕ Z世代にとって重要な「グローバル」「ローカル」の2つのドメインという8象限のフレームワークで「LINE」「Instagram」「Twitter」「TikTok」という主要4SNSの特徴を整理しました。結果、Z世代に刺さっているトレンドとして、以下の5つのポイントが見えてきました。

  1. 親しい友人との交流(ローカル)の重視

  2. 複垢によるグローバル/ローカルの使い分け

  3. ローカルでの気軽な発信による交流の活発化

  4. 効率重視・受動的な利用傾向

  5. 機能別での複数SNS併用

これをもとにVRChatを分析し、VRChatを含むメタバースの弱点や、特徴を掴み、Z世代マス層がどうVRChatを利用するか?を考察した…という流れでしたね。

結果として、VRChatは質・量ともに充実したUGCを持ちながら、大多数のユーザにとっては(トレンドや時代精神にマッチしてはいるが)単なるチャット+アバター+ゲームアプリにしかなりえないという結論を得ました。
一方でよく似ているはずのclusterは、仮想ゆえの弱点はあるにしろ、手軽なUGCの作成というTikTok/Instagram的なポイントを押さえており、より広いユーザが魅力を感じる可能性があり、人の交流を生み出すSNSとして進化・浸透する可能性はあると考えています。
繰り返しになりますが、今は主要SNSとマイナーなSNSを組み合わせて複合的に使うというのがトレンドであり、clusterはそこにハマるピースとなりうるということです。

一方、今までもメタバースとして比較的成功しているRec Roomや、バトルロワイヤルゲームからメタバースへの転身を果たしつつあるフォートナイトなど、メタバースの成功にはゲームが切っても切れない関係であることは薄々察せられていたことでした。
独自の分析の結果、VRChatもまたゲームアプリとして受容されるのが現実的だろうという、それを裏付けるような結論に図らずしもたどり着けたことは私としても嬉しく思います。

Fotnite

また、今まで「世の中のマス層に受けるとは思えない」と思っていたVRChatの何が不足していて、何が受け入れられる可能性があるのか、言語化できたことも大きな成果だと思います。
(ここでいまさらながら、VRChatについて短所ばかり触れたことをお詫びしておきます。VRChat自体、私を含め仮想に心惹かれる人にとっては素晴らしいプラットフォームであることは疑いありません。願わくばそうした同志が増えていきますように…)

最後に、メタバースというのはまだまだ未完成な概念です。今回は具体的な考察のためにVRChatを例に取りましたが、決してそれは完成形ではなく、こうした本稿の結論も新たなサービスや既存サービスのアップデートで変わっていくでしょう。

ただメタバースというものを、バーチャル美少女ねむさんの『メタバース進化論』に倣って「空間性」「自己同一性」「大規模同時接続性」「創造性」「経済性」「アクセス性」「没入性」の7要件で定義するなら、やはりメタバースが持つ本質的な課題というものは今回の考察で把握できたのではないかと思います。

その課題とは、ねむさんが『メタバース進化論』で「メタバースは荒野のフロンティア」と評したように、とクリエイティビティの代償として「作らなければ何もない」仮想世界に、どうやって世の中のマジョリティを呼び込むかという点にほかならないでしょう。

その鍵になるものもまた、やはりクリエイティビティであり、それを活性化するにはclusterがやってみせたような「手軽な発信」を可能にするプラットフォーム設計、そして他のSNSとの連携こそが突破口になる…これが私なりの今の結論です。

今回は触れませんでしたが、私の別のnoteで解説したNeosVRの中にも、こうしたメタバースの「完成形」の萌芽はあると思います。

ぜひこうした試行錯誤の果てに、世の中を広く飲み込むような素晴らしいメタバースのサービスが遠からず現れてくれますように、と願いつつ、筆を置こうと思います。
ご精読、ありがとうございました。

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今回もお付き合いいただきありがとうございました。
引用RT、リプライ等でのコメントも喜んでお待ちしています。

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