スクリーンショット_2019-02-10_22

TikTokは「SNSデパート化」の夢を見るか

TikTokは結局、何のアプリなのか?新しいYouTubeなのか?それともインスタに匹敵するSNSなのか?TikTokはこれからどこに向かおうとしてるのか?TikTok運営元のByteDanceの戦略を理解するには、これまでの数々のSNSの歴史を辿っていく必要がある。

ところで、そもそも「SNS」とは何を指すのだろうか?

LINEやInstagram、YouTubeでさえも、「SNS」と一括りにできてしまうように、SNSという言葉は非常に便利だ。(海外ではあまりSNSという言葉は多用せず、「Social Media」という言葉を使う。)

まず最初に、いろんなSNSを並べたプロット図を眺めてみよう。

画像1

 横軸が「友人」か、「他人」か。縦軸が、「1:1」か、「1:n」か。

左下は、「①チャット」と言える。これはイメージしやすいでしょう。LINEは基本的には「1:1」で「友達」とやりとりをする、連絡ツールの一つです。

右下は、「②マッチング」の領域だ。「知らない人」と「1:1」のコミュニケーションが行われる場合だ。マッチングアプリのTinderが代表例だろう。知らない他人と繋がるというのは、何か明確なインセンティブがないと成立しづらい。「趣味が同じ」、「一緒に仕事がしたい」などなど。中でも、「恋愛」や「出会い」というのは強力なインセンティブになりうるので、右下の象限はマッチングアプリが最も相性が良い。もちろんTinderは出会いのイメージが強いが、それだけが目的ではなく、TinderのCEOも、新しい人と繋がるハードルを下げることをミッションに掲げている。

左上に移ろう。個人的には、この3つ目の領域こそが、日本人が頭の中でイメージしている「SNS」の典型であるように感じる。複数人以上(n人)の友だちに向けて、テキスト、画像、動画などを発信する媒体だ。インスタもツイッターもこの枠にピッタリおさまる。

最後に、右上の④だ。投稿をする側は、不特定多数の「他人」に向けて発信することが多く、見る側も、友人ではなく、おすすめされた「他人」の投稿を見ることが多い。この領域は見る側からすれば、「メディア」に近しい領域だ。

「メディア」というと、「テレビ」が思い浮かぶ。だが、ソーシャルメディアはあくまでコンテンツを一般ユーザーが作る媒体である。いわゆる、UGC (User Generated Contents)とかCGM (Consumer Generated Media)とか言われてるやつだ。なので、コンテンツを企業側が製作する、NetflixやAbema TV、C CHANNELのような媒体はソーシャルメディアとは言い難く、ここでは除外する。

画像2

 さて、ここまでが基本フレームワークだ。この基本フレームワークを使って、これから実世界の複雑な現象を分析していく。

Snapchatの「領域ジャンプ」

まずはSnapchatの話からしよう。Snapchatは最初、「友達に送った画像が消える」という場所からスタートした。自分の変顔などを送り、相手はそれを2回開いたら消える。さらにその後に、Stories機能をローンチした。繋がっている友だち全員に向けて動画を公開して、24時間経つとその動画が消えるという機能だ。今のインスタのStoriesと同じだ。

画像3

このように、スナップチャットは、「チャット」からスタートしたが、「SNS」領域にも踏み込んでいった。ちなみに、ここで注意しないといけないのは、プロット図の縦軸が、「オープン」か「クローズド」かのカットではなく、「1:1」か「1:n」のカットである点だ。前者である場合は、スナチャはチャット機能も、新しく導入したStories機能も、どちらも友人に向けて発信するものであるため、両者とも「クローズド」に分類されてしまう。

LINE vs インスタ

次にLINE vs インスタの話をしよう。LINE vs インスタというのは本来成立しない構図だ。それぞれチャットとSNSであり、住処が違うので、お互いに侵食しない。Instagramがどれだけ拡大しても、LINEにとってはそこまで脅威にはならないはずだ。(もちろん、ユーザーのスマホでの可処分時間は固定されているので、可処分時間の奪い合いという意味では、全スマホアプリは競合することになるが。)

だが、InstagramがDM (ダイレクトメッセージ) 機能を付けた瞬間に、それまでの構図が一変した。インスタでは消えるStories動画投稿に対して、DMという形で返信が気軽にできるようになった。

画像4

Storiesにアップした動画が、コミュニケーションをはじめるエサとなる。LINEだと、「今なにしてるのー?」「元気?」「最近どうよ」だったのが、インスタだと、「めっちゃ美味しそう!どこのお店?」となる。聞かなくても、相手の日常が目に入ってくるわけだね。それに相手の投稿を見てから、わざわざインスタを閉じて、LINEに移行するインセンティブも働かない。この話は以下の記事がビジュアル付きで分かりやすい。 

インスタ女子が語る「LINE衰退説」 ストーリー起点からの「脱線おしゃべりDM」がチャットアプリの入る隙間を潰している話。

もちろんLINEにもSNS的要素があるタイムラインが存在し、そこに画像や文章を投稿することも可能だが、使用する人は少ない。

このように巷では、「若者LINE離れ」と囁かれた。個人的にも、2017年頃からLINEではなくインスタのDMを使用することが多くなった。LINEは数ヶ月やりとりしてないけど、インスタのDMでは定期的にやり取りしている人なんかも結構いる。なので、相手がインスタのStoriesに、「LINE初期化されてしまったので、追加お願いします。。。!」とQRコードを載せていても、追加しない。そうゆう人とはこれまでも、これからも、インスタのDMでやり取りするからね。ただこれは一部の話であり、LINEでしかやりとりしない人も大勢いる。中高生ももちろんまだ毎日LINEを使っている。 なので、「LINE離れ」はそこまで進んでいないように思う。

 また、インスタはDM内にビデオ通話機能も追加してきたりして、インスタ内でソーシャルな活動は全て完結してしまうというレベルになってきていた。著名投資家であるMark Andreesenの「Software is eating the world」という有名な言葉があるが、これらの現象は、「Instagram is eating the social world.」と形容できる。まさに、ソーシャル世界を「食らい尽くそう」としている。

 インスタが守備範囲を広げていることは、LINEももちろん警戒していたはずだ。LINEは2017年に、友達一覧画面に「最近更新されたプロフィール」欄を追加してきた。24時間以内にプロフィールを変更した人が一覧で出てくる。プロフ写真、ホーム写真、名前、ひとこと(ステータスメッセージ)、紐づけているLINEミュージックの曲。これらのいずれか一つでも更新したら、一覧に出てくるようになっている。

画像5

この機能が追加された当時は、「この機能いるかな...?」という声もちらほら聞いたが、これはLINEの生存戦略に匹敵するほど重要に感じる。彼氏彼女でもない限り、友達に改まってLINEを送ることはあまりない。というより、ネタがない。上述のとおり、コミュニケーションには必ず、きっかけが必要だ。例えば最近ぼくはLINEのプロフ画像をByteDance関連の画像に変えたが、すぐに次のようなLINEが来た。

画像6

画像7

これがきっかけでLINEのラリーが続き、久しぶりに飲みに行ったし、最近もやりとりが続いている。「最近更新されたプロフィール」欄は、タイムラインを見るような感覚で毎日見ているのだ。(プロフィール画像を変えると、実際のタイムラインにもその旨が写真付きで投稿される仕組みは昔からあった。)

また、LINEは2016年に誕生日を設定できるようにした。画像8

2017年には、上記で設定した誕生日を迎えると友達に通知がいくような仕組みも追加してきた。

画像9

通知のみならず、タイムラインにも以下のような投稿が自動で投下される。

画像10

これを見た人が誕生日カードを作成して送ると、それもタイムラインに表示される。

 僕は今まで誕生日を設定したことがなかったが、本記事に、上記の誕生日設定画面の参考画像を載せるために、誤まって本日の日にちで誕生日を設定してしまった。するとその後、誕生日おめでとうLINEが結構きてしまった。不覚ながら、通知が行ってしまったようだ。

画像11

画像12

画像13

全く意図していなかったが、結果的にコミュニケーションが始まる良い例となってしまった。要はそうゆうことだ。今日誕生日という情報がコミュニケーションをスタートさせるエサとなり、「誕生日おめでとう!」から、会話が続いていく。プロフ更新と同じ原理だ。

誕生日通知のみならず、友達がタイムラインに何かアップすると、「◯◯が久しぶりに投稿しました。」という通知も来るようになった。

他にもLINEは、タイムラインをにぎやかすための企画を次々と導入している。

画像14

画像15

中国のメッセージングアプリ、WeChatの位置付け

 次に、中国のWeChat(微信)の話をしよう。WeChatは、中国版のLINEと考えてもらえればよい。Tencent社が運営している。このWeChatは、アプリ内のタイムライン(WeChatではモーメンツと呼ぶ)が絶大な人気を誇る。日・欧米の人がインスタを熱心に更新するように、中国の人はモーメンツを更新する。インスタやフェースブックが中国国内では規制されているというのも大きい要因だろう。

画像16

日本ではチャットはLINE、SNSはインスタやツイッターという風に分断されているが、中国のWeChatは最初からチャットとSNSが垂直統合されているということだ。

画像17

また余談であるが、WeChatでは距離が近い人を友達追加できる機能もある。

画像18

 ここまでの話を全て反映したソーシャルメディアのカオスマップが以下の図だ。Facebookが所有しているWhatsapp、Messengerなども含めた。また、インスタやツイッターでも有名人をフォローしたり、ハッシュタグ検索したりするのは、メディア的要素もあるので、加えておく。

画像19

 TikTokのポジショニング戦略

さて、歴史がひと通り頭に入ったとして、ここからは、みなさんがお待ちかねの(?)、本題、TikTokの話に舞い戻ろう。

「アガる思い出つくっとく?」

2017年の夏頃、都内のあちこちで、TikTokの広告が出現した。

画像引用先画像20

「ショート動画アプリ」、「リップシンクアプリ」、「ミュージックソーシャルアプリ」、「ダンス動画アプリ」など、呼び方は様々考えられる中で、あえて、「アガる思い出つくっとく?、みんなの思い出エンタメアプリ、TikTok。」という表現を採択した。

画像:公式サイトより画像21

思い出を作る。 

ただ見るだけじゃなくて、投稿するアプリだということだ。

YouTubeやVineのように、オススメされたコンテンツをただ見るだけの媒体ではなく、普通の人が仲間同士で、インスタに動画をアップするように、TikTokで思い出となる動画を撮り、それをTikTokにアップするということだ。

「友達といる時に、動画を撮る」となった時に、スマホを出して最初に開くのが、インスタのStories撮影画面ではなく、TikTokの撮影画面を開くことが当たり前になったら、ByteDanceにとっては勝ちなのだ。

かのSnapchatもできたてのころ、スマートフォンで、iPhoneのプリインストールされているカメラアプリや、その他のどのカメラアプリよりも、速く、良質な写真が取れるアプリになることを目指した。「スマホで写真をとる=スナチャで写真をとる。」になるように仕向けた。

どの動画アプリよりも面白くて、盛れて、楽しい動画が撮れれば、TikTokもそうなっていく。実際TikTokは友達に、「TikTok動画撮ってみようよw」と勧めやすい。「TikTok普通に楽しいよ、面白い動画撮れるんよ」って提案して、曲を選んで、ポーズを一緒に練習して、撮ってみる。一緒に撮るとこまでが遊びになる。プリクラのような感覚だろうか。僕も友達と撮ったTikTok動画や、友達単独を映したTikTok動画が、たくさん下書きに入っている。

友達とのTikTok動画が出来上がるまでの過程は、上戸彩さんが出演している以下のCMが非常にイメージしやすい。

後輩にTikTok撮ろうって誘われて逃げるシーンは、初めてのTikTok撮影との出会いをリアルに表していてとてもよかった。最初は恥ずかしさや抵抗があるが、気付いたら思い出の動画が出来上がっている。あれ、悪くないじゃん... みたいな。「TikTokあるある」だろう。また、このCMも、見るだけのアプリじゃなくて、撮って投稿をするアプリなんだよというメッセージを如実に示している。

ちなみに藤田ニコルさんなどではなく、上戸彩さんを登用したところには、「若年層」だけでなく、上の世代もターゲティングしているという戦略も見え隠れしているが、話がそれるのでそれはまた別の記事で書くとしよう。

上記のように、「動画を撮る=TikTokで撮る」ことが当たり前になっても、一つ目の壁を突破したに過ぎない。SNS領域で地位を確立するための二つ目の壁として立ちはだかるのが、撮った動画を、TikTok上にアップすることだ。今は自分の周りの友人知人とはインスタ上では繋がっているが、TikTok上でその人たちと繋がっていないことが多い。そのため、TikTokで撮った動画は、インスタのStoriesでシェアすることが多い。インスタでJC/JKを100人フォローしていて、彼女たちのStoriesを勝手に覗き見させてもらっているが、やはりTikTokで撮った動画がよく出てくる。若者の「インスタやってる?フォローさせて!」が「TikTokやってる?フォローさせて!」に変わり、TikTokで撮った動画を、専らTikTok上でだけ公開するようになった時。これは非常にハードルが高いことだと思うが、もしそうなった時、TikTokは、既に④の「メディア」領域で築き上げたポジションのみならず、③領域の「SNS」でも勝つことができる。

モデルやインフルエンサーのTikTokの使い方も見てみよう。Abema TVで人気の涼海花音さんによる昨日の投稿が次の画像です。

画像22

実はこれは、TikTokではなく、インスタのStoriesの画面だ。TikTokで撮った動画をインスタでシェアしている。上述のJKの例と同じだ。注目してほしいのは、「鍵マーク:Private」の文言だ。TikTok上では動画をアップロードする直前に、公開範囲を選ぶことがき、「非公開」を選んでアップすると、上記のように、「Private」と出てくる。

画像23

すなわち、TikTokで撮った動画を、TikTok上では誰からも見られないような設定にしている。あくまで専らインスタで公開するための動画を撮るために、「動画撮影ツール」のTikTokを使ったということだ。このように、SNS化への道のりはまだ時間がかかりそうだが、可能性はちらほら見える。

というのも、自分も定期的に大学生にTikTokについてヒアリングしているが、「友達の投稿を見るために入れてる」という人にちょくちょく出くわす。有名なTikTokerやおすすめコンテンツを見るためじゃなくて、友達同士の投稿を見るために入れているということだ。今後、そのような、SNS的使い方は増えていくかもしれない。

また、TikTokが言う、「思い出」というのは、なにも文化祭、ディズニー、旅行先、結婚式など特別なケースだけをさすわけではない。

世界一TikTokを愛する男として有名な、toricagoさんの記事で、

日常をわざわざ切り取ろうというモチベーションが湧いてこないところに切り込み、音楽と動画の力で日常を吸収し始めたTikTokはすごいな、と改めて思わされる。

とある。本来動画におさめるほどのイベントがない日常をも、音楽を載せたり、ダンスをさせたり、様々なテンプレの企画によって、思い出として仕上げてしまう。

そしてByteDanceは最近、Duoshanという新しいアプリをローンチしてきた。これはSnapchatとほぼ同じアプリだ。もちろんSnapchatは中国には上陸していないので、完コピアプリであっても、巨人WeChatに対抗する一つの武器になりうる。

ここまでのTikTokの動きを図にまとめると以下のようになる。

画像24

 このように、ByteDanceは既にレッドオーシャン化していたSNSの世界に、AIや音楽を武器に果敢に切り込み、全てのソーシャル領域でのナンバーワンの座を築こうとしているようにみえる。すなわち、いろんなソーシャルメディア要素を全て取り扱う、総合デパート化だ。

TikTokは本当に思い出のど真ん中をおさえて、「SNS」界にも侵食していけるのか、それともその戦いは後続のDuoshanに任せて、TikTokは「メディア」領域に引き続きフォーカスして拡大していくのか。はたまた第3の勢力が誕生し、TikTokは古いものになってしまうのか。どうなるかはまだ分からないが、SNSの歴史が動く過渡期の真っ只中に、いま僕らがいることは間違いない。

⬇️⬇️ツイッターでも毎日インターネット、スタートアップ、SNSなどについて発信しています。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?