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お前らは現実とゲームの区別がつかない

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現実を舞台にポイントを競うゲームにハマっていく少年たち。「こんなことになるなら、友だちなんて作らなければよかった……」
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#物語

1-6.「いまどきパソコン部? お疲れさま」

「いまどきパソコン部? お疲れさま」

「それで、さっきの解答を見て思ったんだよ。きみはパソコン部に入部するべきだ」

 全身で会話を断ち切っているのに、対馬はまったく動じない。鉄の心臓かよ。

「アルティメット・ミッションのことは知っているよね?」

「クラスのみんながハマってるゲームだっけ。それしか知らない」

「アルミは現実をゲームの舞台にするんだ。『ルール』があるから詳しいことは説明できな

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1-5. 地味で平穏な日常生活と地下アイドルへの葛藤に極限まで追い込まれていた俺は、先生の声で我に返った。

 地味で平穏な日常生活と地下アイドルへの葛藤に極限まで追い込まれていた俺は、先生の声で我に返った。

 クラスメイト全員が俺を見ている。

 正確には一分間に一一〇回転の勢いで高速回転し続けるシャープペンシルを見ている。

「い、いや。これは―」

 やってしまった。クラスメイトの「なんだ、こいつ(笑)」的な視線が痛すぎる。

「まあいい。とにかく時間だ。だがな、わたしも鬼ではない。難波、おまえに

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1-4. シイナ先生の目線に、みんなが下を向く。

 シイナ先生の目線に、みんなが下を向く。誰も答えにたどり着けていないことは明らかだ。

 ……しかたない。保険をかけておくか。

 俺は、いつもの積極的な消極策に取りかかる。まず、ライブを逃すわけにはいかないので答えは考える。でも、無闇に答えて、今のいい感じに目立たないポジションを失うことは避けたい。だから、許される限りヒーローの登場を待つ。たいていはヒーローが現れて、なんとかしてくれる。

「残

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1-3. 一問目は「2A+30=50 A=?」。

 一問目は「2A+30=50 A=?」。

 これは悩むレベルの問題じゃない。すぐに名も知らぬクラスメイトが手を挙げた。学園の自由な校風を象徴したみたいな長い髪が、ふわりと揺れる。

「一問目の答え。Aは10ですね」

「対馬、正解だ。さあ、あと一問。残り時間は四分四七秒だ」

 教室にシイナ先生の声が響いた。

 俺はちらっと黒板を見て、次の問題を確認する。

 二問目は「(1-C)×(2-E)

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1-1. 六月の昼休み。俺の前にベーグルが詰め込まれた弁当箱があった。

 六月の昼休み。俺の前にベーグルが詰め込まれた弁当箱があった。

 もっと正確に言えば、毒々しいレインボーカラーに彩られたベーグルが、弁当箱をみっしりと埋めていた。母親からのメモには、ただひとこと「NYで大流行」と書かれている。普通ならネタキャラ扱いされてもおかしくない状況だが、幸か不幸か、俺はひとりだった。

 私立囲町学園一年C組。これが今、俺が所属しているコミュニティだ。各学年に五クラス、一

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0.手の震えを抑えるために、ひとつ息を吸った。

 手の震えを抑えるために、ひとつ息を吸った。

 水曜日の午後六時。ターミナル駅のホームは、帰宅する人たちでごった返していた。電車を待つ人たちはスマホの小さな画面に目を奪われて、隣に立つ他人の顔には見向きもしない。今、この場で「ゲームをしている人は手を挙げてください」と叫んだら、どのぐらいの人が手を挙げるだろう。

 少なくとも目の前で背を向けている男子高校生は、そのうちのひとりだ。さっきから左手

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