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年末の私と表参道と伊藤病院

今、頭の日記帳を昨年に戻している。

2020年12月26日。バセドウ病の検診に伊藤病院に行った日だ。

なぜこんなに時が経ってしまったかって?

それは12月から復帰した仕事が要因であることは明らかだった。

忙しかったというのは表面上の言い訳。それよりもむしろ、入院と療養、そして傷病手当を受給して休職という過程において、これまでの有給休暇をすべて消化してしまったことにより、多少の体調不良や年末年始を少し長くと例年付加して取得していた休暇が取れなくなってしまったのだ。もちろん休むことに対して会社がNGを出しているわけではない。有給ではなく欠勤になるというだけだ。でもやはり認められた休みじゃない感は強く、気軽に休むということができなくなった。ゆえに、どれだけ疲れていようとも、ちょっと怠かろうとも、毎日働き仕事をこなさざる負えない状況が続いていた。

7月の入院から約5か月ぶりに復帰した会社は、慣れるまで違和感があった。簡単なことを忘れている自分、もっと動けたはずなのに息切れしている自分に気づく瞬間にも遭遇した。しかしそれも時とともに取り戻した勘が拭い去ってくれたことは幸運だったかもしれない。ただ、勘さえも持ち得ない状況があった。

コロナのさらなる流行だ。

復帰を決めたのは11月初旬。あの頃はウイルスの束の間の休息だったのかもしれない。仕事復帰した12月1日から、ふたたび感染が拡大していったからだ。

今思えば、緊急事態宣言が出る前の12月に復職していてよかったという思いも強いが、12月中はとにかく怖かった。

ステロイドの服用が、このウイルスに対する抵抗力にどう影響しているのかもわからなかったし、もしかしたら無敵であるのかもわからなかった。ひとつ言えることは、ひたすら罹らないように気を付けるということだけだった。

とはいえ、復帰までほぼ家から出ていなかった私は、復職し外出が増えるにしたがって、心にゆるみが出てきてしまうのも感じていた。やはり昼食は外で食べる必要があるし、マスクをしているとはいえ、一日誰とも話さないなんてことは無理だ。休職期間にくらべたら、明らかに感染リスクが高まっていることは認識していた。

きっとみんなそうなんだろう。テレワークも盛んに活用できる環境ではあるが、どうしても出社せざる負えない日々が続くと、STAY HOMEの意識が弱まってしまう。外出自粛に対する意味を、仕事なのかプライべートなのかで線びくのはおかしな話だし、仕事で外にでているなら、プライベートでも少しくらい出てしまいたくなる気持ちもわからなくなかった。

表参道の中心に位置する伊藤病院。クリスマスシーズンはイルミネーションに囲まれ、例年多くの賑わいを見せる。

今年は少し人も減るかと思っていたが、夏の頃のあの人の少なさは想像もできない人が集まっている様子がテレビのニュースで流れていた。

12月18日、ちょうどクリスマス前の一番盛り上がるタイミングに予定していた通院を迷う私。出勤しているから行ってしまおうかと思いつつも、やはり襲ってくる恐怖感。そして眺める薬の在庫。

よし、クリスマス過ぎたら少しは空くかもしれない。

2020年12月26日。サンタクロースが帰路についただろうタイミングに、私は年内最後の通院に向かった。少しは空いているかなって期待を持ちながら。

しかしその思いもむなしく、表参道の駅はかつての賑わいを取り戻していた。改札は人でごった返し、歩く速度も自分のペースでというより、前の人にぶつからないように足を動かしているようだった。

期間限定でオープンしているらしき高級ブランドの名前を飾ったカフェには行列、天気がよかったせいか道を歩く人も多く見受けられた。

そうだよね。

今まで自分が自粛していたのって何だったんだろう。一人孤独と向き合おうとしていたのは、私だけだったのかもしれない。そんな思いすらよぎる。もし私がステロイドを飲んでいなかったら、この病気にかかっていなかったら、このコロナ禍でも今のこの寂しさはなかったのではないだろうか、考えると涙が出そうになった。

街の様子とは裏腹に、伊藤病院自体はそこまでの混雑ではなかった。採血もスムーズ。採血後から午後の診療開始14時まで時間をつぶす必要はあれども、待っている人自体は少なかった。

あっという間に診察室から呼ばれる。

そして検査結果が良好だったことを告げられる。

AST: 16
ALT: 16
γ-GTP: 16
TSH: 2.69
FT3: 2.7
FT4: 1.2

自己免疫性肝炎もバセドウ病もどちらも免疫疾患。ステロイドがいい具合に作用しているのかもしれない。先生はそう言う。私もそう思う。

合わせて確認する肝臓の数値も良好だ。復職したからと言って悪い影響が出てないことも確認できた。それはそうだろう。体力的な負担はあれど、幸いなことに精神的な苦痛はない状況で復職できたから。

なんとなく自分でわかってる。心の痛みが体に現れたんだろうなってこと。

薬も現在のママ、副作用の少ないヨウ化カリウムを継続して続けるということで処方してもらい、本日の診察が終わる。

街はまだ明るくて、イルミネーションの時間ではなかった。

そういえばバセドウ病の再燃がわかり、伊藤病院に再通院はじめたのは去年のこの時期。とっても混んでた病院から帰るとき、きれいな光に包まれていた街に目を奪われたことを思い出す。

クリスマスは前日に終わっていた。でもまだちょっと残るムード。いつもなら人々の心が躍り楽しい年末のこのタイミングが、今年はなんだかむなしい。明るい時間だったことだけが救いなのか。

街と心に電気をつけて。そう願って私は、iTunesから「Turn On The Lights」を再生した。


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