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妄想 短編小説 『この町でのルール』

この町は閉鎖的だ。

近所の住民にあいさつを交わすと、皆が俺の事をシカトする。

おまけに漁港で魚のお溢れを頂く三毛猫さえも、そっぽを向いてくれる。

俺はこの海が見渡せる高台の土地に一目惚れをした。

そして、足繁く下見に通う事半年。

雨の日や風の強い日、はたまた日中の日当たり、夕日の入り具合、全ての条件を念入りにチェックして、このマイホームを建てた。

まぁ、人生で3回は家を建てないと「本当に満足する家が建てれない」と聞いた事がある位、何かしら不具合が出ると聞く。

ただ、そんな人生で3回も家を建てれる訳もなく、たとえ何かしら不具合が出て来たとしても、あらかた俺は満足している。

しかし、何故ここの住民は俺をこんなにもシカトする?

よそ者だからか?デカい四駆に乗っているからか?あいさつの声が大きいからか?

考えだしたら哀しくなり、一人ひとり老若男女構わずタックルして海に落としたくなるからやめておこう。

散歩から帰ると玄関前に回覧板が置いてあった。

(ホンジツ、ゴゴ7ジヨリ シュウカイジョウニ オアツマリクダサイ。)

・・・俺は殺されるのかな(笑)


迎えた午後7時、一応だが学生時代に使っていたアメフトのプロテクターを一式車に積み込み集会場に到着した。

玄関の入口には、この町の住民の脱ぎ捨てられた長靴やサンダル、安全靴が散乱している。

「こんばんは、初めまして」

俺は緊張した面持ちで中に入った。

折りたたみの座卓テーブルには、見事な鉢盛りや地酒が並べられており、今にも宴会が始まりそうだった。

しかし、40人〜50人程集まった住民はあぐらをかき何故か皆うつむいていた。

会場がシーンと静まりかえる中、一人の自治会長と思われる人物が

「・・・それでは、舞台にあがり自己紹介をお願い致します」

と淡々と進行をこなしていった。

俺は言われるがまま舞台にあがり自己紹介をした。

「・・・えっと隣の佐世保から引っ越してきた佐々木と申します。年齢は・・・」

すると、間髪入れずに自治会長は人が変わったように、テンションを上げてマイクをラッパーみたいに持ち替えた。

「それでは始まりましたー!令和5年度、今期の自治会長決定戦を行いまぁーーーすっ!それでは、佐々木さん

一発芸をどうぞ!」

「一発芸?」

俺は、今はっきりと聞こえたが思わず聞き返した。

「はい、一発芸をお願い致しますっ!」

すると突然、うつむいていた皆の視線が集まる。

(どうしよう・・・でもやるっきゃない。えぇいどうにでもなれっ)

「デスロール!!!」


俺は学生時代にアメフトでよく冗談でやっていた、ワニが獲物を引き千切る際に身体を回転させる技を舞台の上で全力でやった。

バタバタバタッ!

会場の乾いた空気とは裏腹に、巨体が寝転び舞台に腹打つ音だけが響き渡る。

バタバタバタッ!

何回転したかもわからない位に俺は無我夢中になった。

バタバタバタッ!

最後に俺は、呼吸を整えながらこう言った。

「これで嫁のパンティーをも引き千切ります」

その途端、1人の男性の肩が震えだした。

「んんん、ぷっ(笑)」

すると、すかさず自治会長がその男性を指しながら大声を発した。

「はい!山田さんが最初に笑いました。今期の自治会長は山田さんに決定です」

次の瞬間、会場全体が笑いに包まれ同時に拍手喝采がなり響いた。

「いや~危なかったぁ」

「今年は強烈だったなぁ」

飛び交う雑談の中、俺は座卓テーブルの真ん中に案内された。

「佐々木くん、ごめんね。この町のルールで自治会長を決めるのは、その年に引っ越してきた人物の一発芸なんだ。

それで、笑った人はその年の自治会長をやらなきゃいけないから、皆新しく引っ越してきた人物には先入観を持たないよう無視するんだ。山田さんなんてもう3回目なんだよ」

「そうだったんですね。」

俺は何だよそのルールと思いながらも、目の前の鉢盛りに箸を伸ばす。

『この鉢盛りも「佐々木くんに捕れたて新鮮を食べて欲しい」って漁協の宮本さんが、息巻いて朝早く船で港を出ていったんだよ』

「佐々木!この島で造ったお酒も飲んでくれよ」

住民との宴は深夜まで行われた。

静かな島の夜に、賑やかな声が響き渡る。

その声が心地良く、集会場の明かりに照らされながら、三毛猫は大きなあくびをかいたのだった。


ーーーおわり


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