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ばーちゃんと私

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家族であり他人だった。
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お迎えタクシー

お迎えタクシー

2007年6月

授業が終わり下校の準備をする。
今日は全生徒一斉下校の日だ。慌ただしく終わりの会をしてグラウンドへ向かう。地区ごとに1列に並び班長が点呼をとる。

梅雨の時期だが今日は雨は降っていなかった。
傘も持ってきていない。きっと帰り道30分の間ももつだろう。

早く帰りたいのに生活指導の先生が出てきて挨拶をする。いらないのに、と内心思う生徒が9割であろう。明らかにマイノリティの先生の立場

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雪の日

雪の日

2006年12月

私の住む地域にも雪が降る。
関門海峡を雪雲が抜けて雪を降らせにやって来る。
それをいつも嬉しそうにしていたのは祖母だった。

朝起きて朝食を食べて皆が一息つく中で、ひとり祖母の姿がない。廊下に面する窓から積もりそうな雪が降っているのを、ぼーっと眺めていた。
すると、玄関の外から祖母の声がする。

母と一緒に戸を開けてみると、左手にスコップ、右手にバケツを持った祖母が満面の笑みで

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夜中

夜中

2005年7月

母の実家は古い2階建ての木造の家で、私は両親と弟と2階の寝室で寝ていた。
でも、なぜだか夜中の3時頃に私は起きて、1階の祖母の寝ているリビングに行く。すると、祖母は私が来るのを分かっていたかのように同じタイミングで目を覚ましていた。

「起きたんかね。」
「うん」
「ほら、布団に入り。」

祖母の寝ているリビングは和室でいつも家族で食事をする部屋だ。大きなアップライトピアノとTV

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お母さんじゃなくて

2004年4月

私は祖母に慣れた。敵じゃない認識が持てたようだ。

心をすっかり許した。これには祖母も喜んでいる様子だった。孫の取り合い合戦で祖父に勝ったのだから。祖父より孫に好かれる優越感が、あんなに穏やかな祖母にもあったのだろう。

ばあちゃんっ子になった。幼稚園の参観日にも母でなく祖母が来た。

お母さんがよかった、と思うことはあった。でもさほど気にしていなかった。

「なんでお母さんじゃ

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初めて会う

初めて会う

2003年12月

クリスマスでも大晦日でもない、なんでもない日に私たち6人家族は1つの家で暮らすようになった。

まだ3才になりたてほやほやの私は、これから共に暮らす祖父母のことなど赤の他人だと思い込み、持前の人見知りも発揮し、ずっと母の後ろに隠れていた。

弟が今年5月に生まれ、タイミングもよく皆で暮らすことが決まったのだ。どうせ引っ越してくる前は記憶に残るような仲の良い友達はいなかったし、こ

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