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企画小説第2弾『母から母へ』

企画小説第2弾
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――パチン――
部屋の灯りが消されると、目の前に大人の灯り3つと子供の灯り5つが灯された。
『ねぇ、ママ、早く消してよ』
私の人生は35周年を迎えた。平均寿命まで50年以上残っている。再び灯りが点る日は来るのだろうか。
幼少期、母のようにはなりたくないと心に決めたものだ。私は四姉妹の次女として産まれた。お世辞にも裕福とは言えない家庭で、母と父は日々戦争状態だった。父が投げつけた灰皿が窓ガラスに穴を開けた。その穴から別の世界へ抜け出せないかと思ったが、初雪の便りが届いただけであった。

そんな父は私が中学三年生の大寒に他界した。
アルツハイマー認知症を発症していた父は、自宅療養の道を選んだ。いや、経済的にその道しか残されていなかった。当然、母はその看病に追われ、みるみるうちに痩せていった。この時の母は憑依されているようであった。何ら灯りのない部屋で凍てつく隙間風に身をさらしながら一点を見つめている母に掛ける言葉はなかった。父が亡くなった時、悲しみより安堵の表情であった母の顔は今でも忘れられない。

高校生姿を父に見せることが出来なかった私は、荒れていた。この時の母の表情は全く覚えていない。いや、見ようとすらしてなかった。高校に通学せず、街のコンビニエンスストアに通学することが日課となっていた。そこである男性と出会う。
19歳になった年、私は彼と結婚した。父が生きていたら猛反対したであろう。しかし、これで私は幸せになれる、母とは違う世界に行けると浮かれていた。マイホームも手に入れ、順風満帆であった。

ニュートンが発見した万有引力のように、人生も頂点に留まることが出来ず、引き寄せられるように底地へと落ちていく。

春の斜陽が主人公の私を照らしていたある日、何かが崩れ落ちる音がした。あるはずの物がないのである。そう、私の下着、服、靴、化粧品が減っているのである。悪寒と同時に恐怖を覚えたが確かめざるを得なかった。そうであって欲しくないと思ったが…そうであった。夫の車の中にそれはあった。
そんなことぐらい…と思えなかった。私は母とは違う世界にいる人間なのだ。母とは違うのだ。
許せなかった。

続く?

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