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我々は14歳のころに聴いていた音楽のキメラである

ふと、人生ではじめて人にCDを借りたときのことを思い出した。
14歳のころだった。

家から5分ほど歩いたところに、酒屋の息子で体を鍛えるのが好きだった、雄太くんという同い年の友達が住んでいた。
彼の家はCS放送に契約をしていて、休みの日になると何かと遊びにいっては、アニメや海外ドラマを観ていた。

彼にはお姉さんがいて、居間で遊んでいるとお姉さんがひょっこりと顔を出して、流行りの漫画やアニメの話なんかをしていた。
ある日、いつもみたいに幽遊白書の再放送を観ていると、お姉さんがやってきて、音楽の話になった。

「おいちゃん(当時のあだ名)、これを聴きなさい」とお姉さんが3枚のCDを貸してくれた。

・Mr.Children / 1992-1995
・Mr.Children / 1996-2000
・BUMP OF CHICKEN / ユグドラシル

有名曲くらいしか知らなかったミスチルの2枚のベストと、当時「車輪の唄」をきっかけに、最も気になる存在だったバンプの最新アルバムだった。

この日、なんとなく借りた3枚のアルバムが僕の人生に大きく影響を与えることになる。

ミスチルとバンプのCDを借りたことで、音楽の樹形図をたどるようになった

思春期になると、何かと人間関係がレイヤー分けされるもので、元気のいい体育会やらしっとりした文化系やら、そういう集団が岐阜の田舎の僕の学校でも生まれるようになった。

2000年代にもかかわらず、ボンタン(やたら太いズボン)とボタンを3つ開けた学ランのマイルドヤンキーがウヨウヨいる田舎の学校に通っていた僕は、窮屈な教室よりも、自分の居場所を音楽や漫画の世界に求めるようになっていた。

そしていつしか、人の知らない音楽を知っていることが自分の価値だと思うようになった。思春期150kmど真ん中ストレートである。

2バンドの音楽にハマったことをきっかけに、レンタルCD屋に毎週通っては10枚ほどCDを借りて、さまざまな音楽を聴くのが趣味であり生きがいになった。

アジカンにELLEGARDENにRADWIMPS、BEAT CRUSADERSにDOPING PANDAにフジファブリック、Base Ball Bearにチャットモンチーにサカナクション、SUPERCARにくるりにナンバーガール、オアシスにビートルズにウィーザー、はっぴいえんどにクラプトンにビリー・ジョエル…

ロックに偏ってはいたけど、好きなバンドの仲の良いバンド、そのバンドが影響を受けたバンド、横に縦に音楽の樹形図をたどっていった。

そして、おすすめの曲をMDにまとめて、友達に布教活動をするようになった。その人のために、とっておきのプレイリストを考えて、プレゼントするようになった。

今思うと、この「①人のまだ知らないイケてる音楽を探す」「②そしてそれを紹介して相手にとって最適なプレイリストを作ってプレゼントする」
という行為は、今やっている編集者としての仕事の原体験なのかもしれない。

14歳のころに影響をうけたものと、今どう繋がっているか

この記事でも書いたけど、人間は14歳のころに聴いていた音楽に生涯に渡って影響を受け続ける傾向があるらしい。

14歳のころに影響を受けたもの、好きだったものによる影響について振り返ってみる。

・Mr.Childrenの影響
「今悩みながらやっていることもどこかできっと未来につながるんだ」的ポジティブ発想法。これは完全にミスチルに教えてもらった考え方だと思う。

ビデオに撮った『ショーシャンクの空に』見てからは もっと もっと 確信に近いな 暗闇で振り回す両手もやがて上昇気流を生むんだ
  
「It's a Wonderful World」収録 「one two three」 より
今 僕のいる場所が 探してたのと違っても 間違いじゃない きっと答えは一つじゃない
何度も手を加えた 汚れた自画像に ほら また12色の心で 好きな背景を描きたして行く

「シフクノオト」収録 「Any」より

ミスチルの歌詞は、すべてがすべてではないけど、最後は希望を見いだして歩きだす描写で終わることが多い気がする。

漠然としてても毎日は過ぎるし、やるせなさと向き合って、どうせなら自分なりの前方へ今から進もうぜ的な男気を感じる。

拙者アラサー、この発想の重要性は、社会人としての経験を積むごとに日に日に感じている。

・BUMP OF CHICKENの影響
BUMP OF CHICKENに教わったことはこのあたり。

「なんでもない日こそ記念日にしようぜ」的発想法。

小鳥が夜明けを唄であいず とっておきの声でリズムとって
何でもない日にも小さなドラマがあるって気付いたんだ
単純な僕の単純な唄 ナミダを止める為にある唄
不安のつのる夜は思い出して欲しい

「FLAME VEIN」収録 「とっておきの唄」より

「さみしさがあるからこそ、他の人とわかりあえたときは嬉しいんだぜ」的哲学。

ひとりがふたつだったから 見られる怖さが生まれたよ
ひとりがふたつだったから 見つめる強さも生まれたよ

「涙のふるさと」収録 「真っ赤な空を見ただろうか」

バンプの影響で、人のさみしさみたいなものにはけっこう敏感な人間になったと思う。集団の飲み会で一人だけ話についていけない人がいたら話しかけたくなるのも多分バンプの影響。

今後も、自分が関わる場所では「一人ぼっちをつくらない」ことをできるだけ大事にしていきたいと思う。

似たような話は👇の記事にて語っております。

・アジカンの影響
少なからず20回はライブに行ったアジカンの影響もまた、とても大きい。

「落胆するような出来事ばかり、しんどいことも多いけど、月が綺麗だしそれでもやってこうぜ」的な、社会性と心象風景が絡み合った歌詞は、平成生まれにはかなり響く。

必ずしも希望が盛り込まれているわけじゃなくて、基本ローテンションで静かな熱がこもっているあたりがちょうどいい。
たぶん、自分の地のテンションも、当時聴いていたSCHOOL OF LOCK!のアジカンの影響は大きいはず。

明日はどんなことしようかなんてこと 何時しか僕らは失くして 随分濁った 世界の広さを心の狭さを それすら見えずに曇った2枚のレンズ

「ソルファ」収録 「24時」より

大袈裟なニュースもいつか消えてしまうだろう
そうさ 公転の合間に散り散りになる
現在 此処に在る僕らを そうだ 未だ見ぬ明日を
どんな悲しい最期が待ち受けていようとも
それを「希望」と呼ぼう

「未だ見ぬ明日に」収録 「未だ見ぬ明日に」

ちなみに、アジカンに関しては、ファッションとか見た目もけっこう影響を受けたんじゃないかと思う。

我々は14歳のころに聴いていた音楽のキメラである

肉ばかり食べている人とベジタリアンの体格が違うように、人間は食べたものの栄養素によって身体が構築される。

これと同じように、人の心もまた、出会った人や読んだ本、見た映画や漫画、取り入れた栄養素によって大きく形を変えると思う。

特に、自分と他者との距離の取り方に敏感で、外の世界との向き合い方について嫌が上にも考えまくる思春期、14歳のころに取り入れたコンテンツの影響は大きい。もはや教育に近い。乾いたスポンジにどんな液体を垂らすかの世界だ。

誰かの言葉が自分の言葉をつくり、自分の言葉が自分の世界をつくる。

音楽は、ファッションや時代性、セクシュアリティや宗教性なんかの踏み込んだ領域の要素も取り入れて、あらゆる感情をパックしてリスナーへと届けられる。

極論ではあるが、近くの両親よりも、遠く海外のロックバンドの方が与える影響力が大きいなんてこともあり得る話だ。

28歳になって、14歳のあのころから倍生きて、さまざまな音楽に出会ってきたわけだが、何かと寂しい帰り道や嬉しかったとき、心が動いた瞬間に頭の中に流れるのは14歳のころに聴いていた「あの曲」だったりする。

仕事や恋愛に対する考え方や自分なりの哲学、それらの判断軸の形成にはやはり「彼ら」のワンフレーズの影響にあるように思う。

もし、14歳のころ、周囲のマイルドヤンキーたちに混じって景気のいいレゲエを聴いていたらどうなっていたのだろう。東京ではない場所にいて、もう少し日焼けした友人たちと海でタオルを回していたのだろうか。もし、黒人音楽にハマっていたら、バキバキにファンキーで陽気なやつになっていたのだろうか。どんな道であっても「それはそれで楽しそうだ」なんて思うのは、ミスチルの影響だろうか。

いろんな可能性があったのは確かだろうけど、今を一緒に過ごす人たちとの縁に感謝をしている。
IFの世界に思いを馳せてもさほど意味がないと考えるのは、現実主義なアジカンの影響だろうか。

ゾンビみたいに10代の後悔ややり残したことについて考えることはなくなったけど、未だに当時好きだったロックバンドのメンバーは、まるで長年付き添った友達のように夢に出てくる。

こないだは向井秀徳とノエル・ギャラガーと一緒に焼きそばを食べる夢を見た。Base Ball Bearの小出くんやサカナクションの山口くんには割と夢の中で仕事の相談をする。

そんなこんなで、出会ったことはなかったり、ライブに行ったことはなくても、思春期に大きく影響を受けた人たちは自分にとって、師匠であり友達、大切な我が人生の登場人物である。

そして、彼らの音楽や思想をまっすぐ受けて、吸収して生きてきた自分は、もはやロックンロール合成獣、キメラである。

それはきっと、僕だけじゃなくて、多くの音楽を愛する人にも同じことが言えると思う。

我々は、14歳のころに聴いていた音楽のキメラである。

今日も素敵な音楽とミュージシャンにリスペクトをしながら、前を向いていこうと思う。

ちょっとした告知

今回この記事を書いた理由として、Wasei Salonのみなさんにお声掛けいただいて、ミスチルについての偏愛を語る番組に出演することが決まったからというのがあります。

本日 8/19の19:30ごろから放送予定なので、よかったらどうぞ〜!
たぶんアーカイブもありますのであとからこちらの記事を見た方もぜひ!👇



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