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「グリーン・ジャイアント」森川潤(著)

 地球環境に配慮しようという動きが政治において進んでいる。しかし、政治がいくら努力しても限界がある。

さらに言えば、政府が環境配慮の名目で行う政策は国民に強制的に生活変革を求めるものだ。例をあげるなら環境省が進めている政策がわかりやすい。レジ袋の有料化、炭素税の導入模索などは環境配慮が目的とされたものだ。この二つの政策は環境には優しいのかもしれないが、国民にやさしくない。

このような政府は国民を圧迫することをメインに政策を行うことになってしまう。

 しかし、本書は政府ではなく技術革新をメインに企業がどのように環境に優しい価値あるものをつくろうと努力しているかが紹介されている。私は環境への関心が低いほうだと自負しているが、世界の企業が国際社会が「環境に配慮せよ」という価値を追求し始める中でどのようにその潮流に適応しているかという努力が本書から多く学べる。

・世界的な流行に企業と金は動いている

 環境問題が政治問題となったのは意外と古い話で京都議定書などは1997年に締結されたものだ。地球温暖化が進んでいるという研究発表を6年に1回程度発表しているIPCCも1990年前後に誕生したことから冷戦以降の政治問題として環境問題は緩やかに注目されていたように思える。そしてパリ協定によって世界は「脱炭素」の目標に向けて走り出した。

 このような世界的潮流が生まれ、一般市民にこの理念が支持され始めると政府や企業はその支持を味方にするために様々な手段を行う。例えば政府であれば、先に例を挙げた有料化や課税、企業であれば環境に優しい商品を開発して宣伝する。

他にも政府は補助金を出して企業の技術革新を支援している。このような経緯で金が動き、環境ビジネスが巨大化していく。資本主義の方向性が環境配慮である以上、国家として日本もこのビジネスの流行に参加していく他なく、利益の獲得のために世界と渡り合っていかないといけない。

・エネルギーの変革

 石油に依存してる社会を送ってきた時代から進化する目標を掲げ、行動することは極めて難しいが、技術革新は着々と進んでいる。

私は特に空気中から炭素を抽出する技術や水素を鉄にするという技術などの存在に高い関心を持った。このような技術は日本でメディアを見ていても滅多に聞ける話ではない。

他にもアンモニアを火力発電に利用することで炭素を排出しない発電を行うという試みについては火力発電を主とする日本においてもすぐに順応できるのではないだろうか。

 日本でもエネルギー問題は議論されている内容だが、火力発電に重きをおいている日本は今後世界的に攻撃される役回りになるかもしれない。

すでにベトナムに開発予定だった「ブンアン」が非難を浴びた事例がある。日本の火力発電は効率化によって二酸化炭素の排出量を減らして運用できるのだが、この技術は非難され結局、日本よりも効率の悪く二酸化炭素の排出量の多い、中国やインドの火力発電技術が輸出されている。日本はすでに世界の潮流に飲まれる中で国益を失っている。

さらに原子力発電も3.11以降批判され、環境には優しいが危険ということで運用再開の支持を地域によっては得られない状況だ。

 太陽光発電についても一時期ほどの盛り上がりは存在しない。むしろ太陽光パネルの設置をめぐり森林伐採が起きるのではないかという議論や太陽光パネルの廃棄をどうするのか、また太陽光パネルの素材が中国に依存することになるがどうするかなど議論を呼ぶ内容が多く存在している。

 一言に環境に配慮したエネルギー転換と言ってもそれは今の日本には大変難しいものなのだ。イギリスのような洋上風力発電は同じ島国として可能性はあるが、本書によればそれを担うような国内企業が少ないという。

長年の経済停滞の中で日本は着実に世界と競争する力を失っているという事実とその上で今後この世界的潮流と向き合っていくのかその内実を考えるうえで極めて勉強になった本だった。

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