「超国家主義の論理と心理」丸山眞男(著)
「1945年8月15日の敗戦した大日本帝国。そしてGHQの占領下で戦後民主主義と平和憲法を手にして新生日本として出発した」
戦前の日本の反省としてよく語られるのが上記のようなことです。
では日本はなぜ戦争を引き起こしたのか?
著者である丸山眞男氏はこの「新生日本」を迎えるにあたって、戦争を引き起こした原因をこの論文で論じ社会的に大きな反響を呼びました。
この論文は「バズって」大きな影響を日本社会に与え、著者自身もインフルエンサーとして戦後の進歩的知識人なる括りの中に加わることになりました。
著者の研究は丸山政治学と呼ばれ、戦後日本政治学の代表的な存在となりました。そして今なお賛否両論である著者のこの論文は大変興味深いものとして読まれています。
・日本人は変わってない
著者である丸山眞男が本書を書いた目的は「なぜ日本人は戦争を起こしたのか」を解明することにあります。
そして、その理由の1つにセクショナリズムがあると著者は言います。
セクショナリズム=縦割り行政
こう聞くと聞いたことありませんか?
菅前首相も「縦割り行政の打破」を訴えていました。この「横のつながり」よりも「縦のつながり」を重視するのは戦前の日本も戦後の日本も変わっていません。
お役所仕事で戦争をした戦前と、お役所仕事で行政が非効率になり、コロナ対策も無駄だらけの今の日本。
著者のこの意見は、これだけ当時「バズった」論文であるにも関わらず、その本質は忘れられ、この問題は解決されないまま今に至ります。
私もこのコロナ禍でつくづく感じたことですが、日本人の「お上信仰」は見事なものです。
結局、戦後の進歩的知識人が再三戦前を批判しても何も変わらないし、21世紀以降徐々に右派言論人が左派言論人に対抗できるようになっても日本人は戦争の反省など微塵も出来てないというのは致命的です。
左派陣営はよく安全保障関係の話になると「いつか来た道」といいますが、私からすれば戦後約76年、ずっと「いつか来た道」をなぞり続けているだけです。
著者の指摘が今にも通じるうちは、日本人は本質的には今も昔も変わってないことを意味していると言えます。
・日本人は権威に弱い
著者はこれまた今にも通じる日本人の本質の1つを言い当てています。それは「権威=正当性」への信仰です。
政府というのは権力者ですから、やろうと思えば何でもできます。それをさせない為の憲法ですし、民主主義のような制度があります。
ですが、日本人は政府の自己弁護に正当性を感じてしまうと、途端に抵抗を辞めて受け入れてしまう傾向にあるようです(ようは押しに弱い)。
著者はこれを指摘します。戦前の日本は「国体」の1文字を出せばたちまちに議論が封殺され、思考停止に陥ると。
故に著者はそのまま「だから皇室のような権威の集約されるような存在は無くしてしまえ」くらいに言うのですが、これは飛躍が過ぎます。
ですが、こと「権威=正当性」に弱いのは事実です。レジ袋有料化や太陽光パネルも「環境のために」と正当性を与えると途端に日本人は容認してしまいます。
「増税」についても「財政再建のため」となれば途端に「仕方がない」で済ませてしまいます。
これは日本人が「合法性=やってることが法的に正しいですか?」ということより、「正当性=権力者のそれっぽい自己弁護」の方を大切にしてしまうということです。
このような方針は今の岸田政権にもはっきりと見られます。オミクロン株発見当初、日本は突如として移動の自由を全面的に制限しました。
また、財政法の特例措置はもはや常套手段で目も当てられません。
財政法の第四条と五条には特例公債(=借金)は原則しないようにという但し書きがあります。
財政法第四条
① 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
② 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。
③ 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。
財政法第五条
すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
「要は借金は原則としてしてはいけない。基本的には歳入に見合った歳出をしてください。だけど、本当にどうしようもなかったらいいよ」という内容です。これももはや形骸化した条文になってしまいました。
他にも官僚の越権行為も見られます。
官僚は政治家の方針に則って職務を遂行するのが基本ですので、このような政治的発言は行ってはいけません。あまつさえ「税金を取れ」というのは官僚が発言してはいけない大問題です。
これらのことから日本人は「法」についての理解が薄いことがわかります。政府はそれっぽい理由をつけて正当性をかもし出せば、何でもできる状況にあるということです。
・まとめ
著者は戦後政治学の大家であるので政治学(特に政治思想)を学ぶ上では避けては通れない学者です。
進歩的知識人として戦後日本をリードしてきたオピニオンリーダーである著者の基本的な関心かつ思想は本論文に凝縮されているように思えます。
今回は著者の指摘の中で共感できる部分をピックアップして紹介しました。ですが、賛同できない主張も多々ありますし、今となっては批判や反証されていることも大変多いです。
特に「超国家主義」の定義は曖昧で正直笑ってしまいます。皇室への極端なら意見も個人的なものを感じます。
ですが、紹介したようなところは確かに批判にあたる事実だと言えるのは確かです。
日本全体の課題というのが戦前と変わってないのは皮肉なことですが、政府の危険性がますます増していることは事実です。
政治に無関心という全体主義のようなものが蔓延る中、著者は確かにその問題点をあぶりだした点でやはり評価される人だと思います。
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