エンドロールのその後にも物語は続いている
カーテン越しに日差しがあたり、うっすらと目を覚ます。
有給消化中の水曜日の朝。休みの日の午前中ほど、こころ穏やかな時間はない。
いつもの休みと違っているのは、僕は休みだが、まわりの友人は仕事をしてるということ。遊び相手もいないし、なんとなく世の中から隔絶されているかのような感覚がやってくる。
まあ、でも悪い気はしない。ひとりの時間を満喫している。独身の一人暮らしは、ひとり遊びスキルを青天井に高めてくれる。独身貴族とでも言うのだろうか。ストレスフリーで快適な生活なのである。
近所のレストランまで出かけて、ビールを飲みながら、ソーセージをつまむ。昼から飲むビールはなんだか味わい深い。悪いことをしているような背徳感と開放感が同時にやってくるのだ。
ビール飲みながらスマホを見ていたら、たまたまTwitterに流れてきた本が気になった。いろんな人の恋愛体験談が収納された短編集みたいだ。
恋愛を主題にした物語はちょっと苦手だ。映画も、アニメも、小説も。なんとなくストーリーに現実味がわかなくて、うまく話に入りこめないのだ。SF作品のサブストーリーに恋愛要素がちょっと混ざっているくらいが丁度いい。
だから、この本もよくあるラブストーリーの類だろう…。そう思い、そっとAmazonページを切り替えようとしたとき、ふとレビューの文字が目に入った。
「独身に人にこそ読んでほしい」
自分の独身のモラトリアム期間は、もうそれほど長くないかもしれない。期間限定とかに弱いので、いまのうちに読んでおいたほうがいいかも…などと思いはじめる。
それに『エンドロールのその後に』というタイトルにも惹かれる。どういう意味なんだろう。
ということで、ポチった。
ビールを一口飲んで、kindleでページをめくりはじめた。そしたら、いきなりはじめの章のタイトルに衝撃を受けた。
「吾輩はおひとり様である」
おお…。いきなり独身モード全開じゃないか。
この章では、本の筆者ウイさんの暮らしぶりが描かれている。驚いたのは、その暮らしぶりは僕のそれにあまりにも酷似していることだ。
違うのは年齢くらいか。彼は38歳だが、僕は28歳。10歳の差がある。おそらく独身男性の暮らしぶりに年齢は関係なくて、みんな似たような生活をしているんじゃないかな。
いまの生活に何ひとつ不自由していないところも同じだ。
独身で30歳を超えたら気をつけなさい…と本書には書かれていた。居心地がよくて、あっという間に時間が過ぎて結婚できなくなるぞって。
たしかになぁ…。たが、結婚したとて幸せになれるかどうかは、その人次第でもある。結婚の末に不幸になっちゃったら、本末転倒。いまの充実したライフスタイルを変えるわけでもあるので、相応の覚悟が必要なのだ。
そんなことを思いつつ読みすすめる。
この後の章では、実話をもとにした恋愛体験談が語られている。20代後半以降くらいの大人の恋愛がテーマ。男女両方の目線のストーリーがあるけれど、うんうん!と頷けるものばかりだった。なんというかリアリティがあるのだ。
現実は小説より奇なりとでも言うのだろうか。
恋愛話のフィクションは苦手だったが、実話はこんなにおもしろいんだ…と考えを改めた。たしかに友達のくだらない話がおもしろくって仕方ないこともあるもんね。
いきなり1章で「私は田中みなみになりたい」というタイトルの章がはじまって、何事かと思った。
この体験の主人公の女性は、同級生の男は幼く見えてしまい恋愛対象として見れなかったそうだ。彼らをぞんざいに扱い、20代のときから年上の男性と付き合った。30代とか40代とか。
でも、いざその自分が30歳をむかえたときにふと気づく。イケてないと思っていた同級生たちが成熟した大人になっていることに。経験を積んで、お金も稼げるようになっていた。
その同級生たちはこぞって20代の女の子に群がっていて、自分は以前ほどはモテなくなっていた。なんということか…。
田中みなみみたいに、美容や健康に気を使って綺麗になるから、同級生の諸君、ぞんざいに扱ってごめん。和解しようでないか…。
…
そういう年齢と男女差の葛藤のお話である。なんの話やねんと思ったが、気持ちはわかる。男性と女性ではモテる年齢が違うのだ。
女性は若さがアドバンテージになるから、20代では特にモテてチヤホヤされる。
逆に社会人になりたての男性は、ビックリするほどモテない。30代40代のお金があって、経験豊富な猛者たちと競争しないといけないから。しかし、歳を重ねるごとに、そんな猛者たちの仲間入りし、女性と入れ替わるようにモテるようになる。
本章の結論は、年齢にあんまり囚われすぎないほうがいいよ…ということ。その囚われが目を曇らせる原因になっていると言うのだ。まあ、たしかに。
この後の章でも、恋愛の葛藤や別れ、浮気などいろいろな形のエピソードが描かれている。
ハッピーエンドになってよかったね…と思うものもあれば、正直うわぁと思うようなバッドエンドっぽいエピソードもあった。僕からしたら、なんでそんな不幸になるようなことするの…?みたいな。
でも、人の数だけエピソードがあるし、正解もある。他人が決めた幸せにのっかって、不幸を感じるくらいなら、自分が信じた道を選んだほうがずっと後悔しなくてすみそうに思う。
最後の最後に自分の納得できる幸せにたどりつければ、それでいいじゃないか。エピソードの後にも僕たちの物語は続いているのだから。
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