見出し画像

映画「Love latter」から26年後のお元気ですか~?

おはようございます。アルキメデス岡本です。

さて、本日はだいぶ前に録画してあった映画「Love latter」を観たので感想を書きたいと思います。

画像1

■あらすじ

神戸に住む渡辺博子は、山で遭難した婚約者の藤井樹の三回忌の帰り道、彼の母・安代に誘われ、彼の中学時代の卒業アルバムを見せてもらう。忘れられない彼への思いから、そのアルバムに載っていた、彼が昔住んでいたという小樽の住所へとあてもなく手紙を出す。すると数日後、来るはずのない返事がきた。その手紙の主は、亡くなった婚約者の藤井樹と同姓同名で、彼と同級生だった、女性の藤井樹。やがて博子と樹の奇妙な文通が始まる。

■解説

1995年公開。スマホも携帯もまだ無かった時代。恋文から始まる、雪の小樽と神戸を舞台にしたラブストーリー。

第19回日本アカデミー賞にて、作品が優秀作品賞を、秋葉茂を演じた豊川悦司が優秀助演男優賞と話題賞を、少年時代の藤井樹を演じた柏原崇と、少女時代の藤井樹を演じた酒井美紀が新人俳優賞を、REMEDIOSが優秀音楽賞を受賞した。

一人二役を演じた中山美穂は、ブルーリボン賞、報知映画賞、ヨコハマ映画祭、高崎映画祭などで主演女優賞を受賞した。

日本映画が韓国で公式に解禁されたのが1998年。当時は北野武監督の『HANA-BI』、岩井俊二監督の『Love Letter』が公開され大ヒット。140万人の観客を動員する興行記録。

舞台となった小樽には韓国人観光客が大勢訪れた(韓国ドラマ『甘い人生』は、序盤、本作の影響で主人公が小樽に行く設定)。

『Love Letter』に至っては、韓国ドラマでリメイクされたり、再上映されたりと、いまだに日本映画の代表作となっている。劇中、主人公の中山美穂が叫ぶ「お元気ですか~!」のセリフは、韓国では余りにも有名だそうだ。

■感想

という訳で、この映画の感想まとめます。

ちなみに私は学生時代、レンタルビデオ屋でバイトしていた事があり、毎日2本ぐらい映画を観ていた事がある。ちょうどこの映画が公開されレンタル屋に並んだ時を覚えている。だけどその時は完全にスルーしていてこの作品は観ていない。なので公開から26年経った今、初めて観ました。笑

冒頭、雪景色のロングカットから始まる。90年代の日本とフィルムの質感がノスタルジックな香りを漂わせている。

画像6

そして、まだ若かった頃の中山美穂(当時25歳)が登場する。とても美しい。声も品がいい。(私が一番好きな中山美穂はアイドル全盛期の頃だが)

画像2

序盤、手紙を送った相手が何者なのか謎を追っていく展開が面白い。

スマホも携帯もない時代だから、手紙でのやり取りでアナログな感覚が懐かしくもありロマンティックな世界観を作り出している。

中山美穂が一人二役だが、見た目がそのまんま同じなのとキャラクターの年齢設定もほぼ同じなので、個性の違いがあまりないように見えるが微妙に違う。何回か観ないと見分けがつかないかも。

文通する中で死んでしまった恋人藤井樹の中学時代を回想していくのだが、中山美穂の中学時代役が何故か酒井美紀になっていて笑った。でも酒井美紀も純朴で美しかった。この時代の女優の美しさとロマンティックな作風は韓流ドラマに通ずるものがある。(そのルーツになっているのはこの映画だろう)

画像3

その後、直接本人の家まで行って会おうとするが途中で辞めて帰ってくる。結局、2人は会わないまま終わるのだが、最後には意識が繋がって亡くなった恋人「藤井樹」の想いを共有する。

表面上はシンプルなストーリーだが、実は複雑に交錯する二重構造になっていて時空を超えたラストは感動した。タイトルの「Love latter」の伏せ線もきちんと回収できている。(あの映画とは違って)

映画の中で「藤井樹」が読んでいた本のタイトル、『失われた時を求めて 第7篇 見出されたに込められた想いが最後にピタリと噛み合う。ここまで脚本が緻密に作り込まれている作品は中々ない。スマホやグーグルマップがある現代では通用しない、1990年代半ばだからこそ成立する設定でこんな美しい物語は今後できないだろう。現代のCG全盛でマーケティング重視の作品とは比較にならない完成度だ。(あの映画の悪夢を早く忘れたい自分がいる)

緻密に練り上げられたシナリオ、計算し尽くしたかの様な映像美、人物の心情を饒舌に語る映像表現など、とても密度の濃い作品です。ですので、拙速にストーリーを理解しようとせず、時間を掛けて作品を味わいながら視聴するといいと思います。

■作品のテーマ「記憶と時間」

この映画のモチーフになっている『失われた時を求めて 第7篇 見出された』は記憶をめぐる物語であり、その全体は語り手が回想しつつ書くというふうに記憶に基づく形式で書かれている。

画像5

作品の冒頭で、語り手は紅茶に浸った一片のマドレーヌの味覚をきっかけに、コンブレーに滞在していた頃にまったく同じ体験をしたことを不意に思い出し、そこから強烈な幸福感とともに鮮明な記憶と印象が次々に甦ってくる。

プルーストは、意志や知性を働かせて引き出される想起(「意志的記憶」)に対して、ふとした瞬間にわれしらず甦る鮮明な記憶を「無意志的記憶」と呼んで区別した。

「無意志的記憶」の要素は、それ以降物語の中にしばしば類似の例がちりばめられている。岩井俊二の「Love latter」では、それが一通の手紙を通して過去の「無意志的記憶」を引き出していく構成となっており、『失われた時を求めて』へのオマージュとしてこの本がギミックとして登場している。

そして最後に、藤井樹(男)と藤井樹(女)の失われた「記憶と時間」が蘇る構成になっています。

どういうラストなのかは伏せておきます。

■君の名は。との関係

途中、この映画はなんか『君の名は。』に設定とストーリーが似ているなと思いながら観ていました。

奇しくも、『君の名は。』のエンドクレジットの中に、スペシャルサンクスとして岩井俊二監督の名前が出ている。

『新海誠、その作品と人』(スペースシャワーネットワーク出版)の中に、新海誠監督と岩井俊二監督の対談が掲載されているが、新海監督によれば、『君の名は。』の中に、いくつも岩井監督作品のオマージュがちりばめられているとの事。

画像4

ちょうど『君の名は。』の絵コンテを書いている最中に、岩井監督のアニメ版『花とアリス殺人事件』が公開され、その影響をかなり受けたと新海監督自身が明かしているし、劇中のいくつかのアングルも、岩井監督作品のアングルを、オマージュとしてそのまま使っているとコメントしている。

ここでも「記憶と時間」が「失われた時を求めて」繋がったようだ。

映画やアニメの世界では二次創作は当たり前にあるものだが、モチーフになった作品へのオマージュの仕方も美しい。

■最後に

お互いに完璧に重なり合う人生は不可能。思い出を意識あるいは無意識に抱きながら、その時々、今を重ね合うことができる人に視線を戻すことを繰り返して、人は結局一人で生きていく。初恋の人の面影を足場に新たに人を愛することも、二度と会えない婚約者を思いつつ新たに人を愛することも程なく許容するほど、時は懐が深い。

壮大な物語ではなく、このくらいのささやかさが、繊細さを損なわず、心地いい。大人になって人生の儚さと現実を知った今の自分には岩井俊二の映像美がなんだか心地いい。

奇しくも、1995年に公開された映画「Love latter」を2021年に初めて観た私も、この映画によって「失われた時を求めて」何かが繋がったような気がした。

次はあなたかもしれない。。。

ほなまたお会いしましょう。バイバイ~♪

画像7





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?