深読み米津玄師_第1楽章_第10節A

米津K師殺人事件 第1楽章『アイネクライネ』第10節「FALL」



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2019年4月某日

熱海サンビーチ



やっぱ俺たち、似たもん同士だな。

能力も趣味嗜好も、お互いアンナチュラルだ。

うん…

こんなに誰かとわかりあえたのって初めて…

私…あなたに会えて本当に嬉しい…

お?

どうしたの?

なんか今、遠くの方で雷の音が聞こえたような気がした。

ひと雨くるかもしれねえな…

あ!大変!

私、傘もってくるの忘れちゃった…

まあ、まだ大丈夫だろ。

それによ、雨雲がこっちに来るとは限らねえべ。

そうね。

ところでさ、Kクン…

なに?

なんで…

あなたの中の「もうひとりの自分」は…

消えていなくなってしまったの?

そーゆーヘビーなこと聞く?

ごめん…

言いたくなかったら…無理には…

戻って来なかったんだ…

あの満月の夜…

え?

俺の中に戻ることなく、そのまま昇って行っちまった…

天高く…

そんな…

もし奴が…あの哀れなるイカルスのように…

翼を焼かれて地上へ堕ちてたら…

明日の満月の夜…

また影となって俺の前に現れるかもしれない…

でも、もし…

イカルスと違って...

翼を焼かれて…いなかったら…

もう二度と戻って来ないだろうな…

俺は永遠にひとりぼっちだ…

この胸に…

ポッカリと穴があいたまま…

Kクン…

でもよ…

もうひとりの自分を取り戻すどころか…

この俺自身までフラフラと月に向かって飛んで行っちまったりしてな…

飛んで火にいる夏の虫みてーに(笑)

そんなことさせない!

もしそんなふうになったら私が力ずくでKクンを止めるから!

へへ。そいつは頼もしい(笑)

ちなみに止め方は知ってんの?

止め方?

持っていかれそうになった奴を正気に戻すのは…

愛する人の熱い口づけだけらしいぜ。

え!?

ばーか。

騙されてやんの~

もう!

ハハハハハ…

あれ?急に暗くなってきたな…

ホントだ…

なんか夜みたい…

風もひんやりとしてきた…


ゴロゴロゴロ…


やべえ。来るぞ、一雨。

あ!もう来た!

ギター濡れるぞ!早く仕舞え!

ピカッ!
ゴロゴロゴロ…


きゃーーー!

向こうに見えるカフェへ行こう!

さあ、走るぞ!

うん!




サンビーチ沿いのカフェ



いや~参った参った。

急に来たもんね…

あんなに天気よかったのに…

春の嵐ってやつだな。

いらっしゃいませ。

お一人様ですか?

え?

二人…ですけど…

あ、ギター…

今日のライブの…

奥の部屋へどうぞ!相方さんがお待ちです!

ライブ?相方?

なんのことかしら?

知らんけど、まあ言われた通り奥の部屋行こうぜ。

俺、トイレ行ってくるから先に頼んどいて。

コーヒー。




サンビーチ沿いのカフェ
奥の部屋



ふぅ…凄い雨だった…

髪の毛も、びしょ濡れ…

よかったら…

このタオル…どうぞ…

え…?いいんですか?

風邪ひいちゃいますよ。

ありがとうございます…

じゃあ、お言葉に甘えて…

ギター…?

もしかしてキミ…

ミュージシャンとか?

い、いえ…

ミュージシャンってほどの…ものでは…

そうか…

ハァ…

どうしたんですか?

あ、ありがとうございます、タオル…

今日ここでライブする予定だったんだけど…

相方がトラブっちゃって…

トラブル?

こっちへ向かってる途中に、ヤンキーのバイクと接触しちゃったらしくて…

ヤンキーと?

それは大変…

俺、歌うたえないから…

ギターひとりじゃライブにならないし…

誰か歌える人がいてくれたらなあって思ってたら…

ギター持ったキミが現れたもんだから、ひょっとしたらと…

そうだったんですか…

あー。この人、歌めっちゃ上手いですよ。

ちょ、ちょっと!

Kクンいつの間に…

私、お客さんの前で歌うなんて…

え!?

歌ってくれるんですか!?

ありがとうございます!

ぇ…?

お店のスタッフに10分後に始めるって言ってきます!

この中から歌えそうなやつ5、6曲ほど選んどいてください!

マジ助かった~!

あなたは俺の天使…いや救世主だ!


そんな…

とんだことになったな。

あなたのせいでしょ、Kクン!

ええやんけ。そんなおっかねえ顔すんなよ。

てか、その髪型キュート。マジ惚れる(笑)

もう…



10分後


え~!お待たせしました~!

今からライブが始まりま~す!

無料ですので、ぜひ奥の部屋にどうぞ~



それじゃあ、いっちょ行きますか。

まずはオリジナルラブの『接吻』から…

ふぅ…





サンビーチへ向かう道



だけどさ…

なんで米津玄師は『アイネクライネ』にウルトラマンAの第13・14話を落とし込んだのかしら?

何がしたかったわけ?

『アイネクライネ』はモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』の略だったよね。

「ある小さな夜の曲」という意味だった。

そうだったけど…

それがどうしたの?

米津玄師は「ある小さな夜」を描くために、ウルトラマンAの第13・14話を引用したんだ。

ある小さな夜を?

なにそれ?

実は『アイネクライネ』の歌詞とイラストは…

うんうん!


ゴロゴロゴロ…


きゃーーーー!


ちょ、ちょっと…

深代ママ…

ご、ごめん…

でもほら…あたし言ったじゃない…

雷が…怖いんだって…

でもホントにあんな少女漫画みたいなリアクションするとは…

そういえば、急に暗くなってきたような…

あれ?

降ってきた…

やだ…

傘、借りて来て正解だったね…

うん…

だけど海辺で雷とか怖いなあ…

落ちて来たらどうしよう…

そんな怖いこと言わないでよ!

きっと、海の見えるカフェとかあるだろうから…

お茶でもしながら雨雲が過ぎるのを待とうか…

そのほうがよさそう…

本降りになってきちゃったし…


ピカッ!
ゴロゴロゴロ…


きゃーーーーー!


急ごう!走るよ!



つづく




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