深読み生活のたのしみ展：にわか篇
2019年４月19日 (金) 深夜
スナックふかよみ にて
あーあ…
金曜の夜なのに全然だったわ…
改元やら10連休やらで、この時期いろいろ忙しいんじゃない？
僕としては深代ママを独り占めにできて嬉しいけど。
あたしの人生も、誰か独り占めにしてくれないかなー
え？
冗談冗談（笑）
暇だし、なんか歌っちゃお。
誰の歌？
そうねえ…
・・・・・
ごめんね。あたしだってたまには歌詞を間違うわよ。
そうじゃなくて…
もう…そんなマジな顔で見ないで…
変な深読みとかしないでちょうだい。
でも、これって…
「自分のこと歌ってる」って言いたいんでしょ？
はいはい。その通りよ名探偵さん。
どーせあたしは深読みのし過ぎで幸せになれなかった女ですから！
そんな言い方は…
ふぅ…
この歌の歌詞じゃないけどさ…
いっそ誰かに「深読みのない国」へ連れて行ってほしい…
そしたら…
誰かを好きになるのも…どれだけ楽なことか…
違う。
え？
深代ママは臆病なんだよ。
幸せが深代ママから逃げているんじゃない…
深代ママが幸せから逃げているんだ…
「深読み」を言い訳にして。
・・・・・
傷つくのが怖いから、いつも深読みして予防線を張る…
自分が知らないことが怖いから、無理して何でも知ろうとして、どんどん息苦しくなって行くんだ…
相手も自分も…
あなた、あたしの何を…
知らないことで不安にならなくていい…
知らないことがたくさんあるから、人は夢中になれるんだと思う…
岡江クン…
その呼び方、懐かしいな。
学生時代を思い出す。
もう25年も前か…
そうね…
そんな昔のことだなんて信じられない…
深代ママにはね…
「にわか」が必要なんだよ。
にわか？
そう。にわか。
どうゆうこと？
この週末の一日を俺にくれないか？
え！？なによ急に…
浜田省吾みたいなこと言い出して…
どうしても連れて行きたいところがあるんだ。
いやとは言わせないよ。
そんなこと言われても…
あたしにだって予定とか…
あるの？
特に…ないけどさ…
じゃあ決定。
明日11時に東京駅で待ち合わせだ。
ちょっと待って！東京駅って…
いきなり二人で熱海旅行とか、そういうのってもう少し…
え？なんのこと？
あら、やだ…
あたし…また深読みしちゃったみたい…
明日は寝坊しないでよ。
それじゃあ11時に東京駅丸の内口前の広場で。
翌日
東京駅丸の内口前広場
しまった…
まさか僕が寝坊してしまうとは…
深代ママ、電話に出ないけど…怒ってるのかな…
どこだろう…深代ママ…
（うわ…なんか変なおばさんがこっち見てる…怖いな…）
ここよ～！
え！？
あたしよ、あ・た・し…
深代ママ！？
なんでそんな…アイマスクしてるの？
え？やだこれアイマスクじゃないわよ。
に・わ・か！
あなたが「にわかが必要」って言ったんじゃない。
それが「にわか」？
知らないの？
父の大好物だったから、うちではしょっちゅう食べてたけど…
確かに坂本先生が好きそうなテイストだ…
東京では流れてなかったのかしらね、このCM。
深代ママ…
僕が言いたかった「にわか」は、その「にわか」じゃないんだ。
とりあえず外してもらえるかな？
さすがにそれで丸ビルに入るのは恥ずかしいから…
よかった…
あたしもホントは恥ずかしかったんだ。
で、丸ビルに何しに行くの？
僕らは今から「生活のたのしみ展」へ行くんだよ。
生活の…たのしみ展？
詳しくはコレを見て頂戴。
へえー。糸井重里の「ほぼ日」がやってるイベントなんだ…
なんか楽しそう…
本人にも会えるのかしら？
そんなに暇な人じゃないから、ウロウロはしてないだろうね。
居たとしても大勢の業界人やファンに取り囲まれてて、見ず知らずの僕らみたいな人間は話しかけられないと思うよ。
そうよね…
糸井重里って言ったら超有名人だもん…
で、あなたはなぜあたしを「生活のたのしみ展」に連れて来たかったの？
だから「にわか」だって言ってるでしょ。
さあ、行こうか！
丸ビル内
うわー！すごい人出！
こんなに混んでるとは思わなかったな…
早めに来て正解だった…
どのブースに行くの？
その前にトイレ行って来てもいいかな…
どうぞ。あたしエスカレーター降りたところで待ってる。
深代ママは行かなくていいの？
これからもっと混むだろうから、今のうちに行っておいたほうがいいよ。
ご心配なく。
それじゃあ…ちょっと待っててね…
しかしすごい人出よね…
ｷｮﾛｷｮﾛ…ｷｮﾛｷｮﾛ…
ドン！
きゃあ！
トイレも激混みだった…
また深代ママを待たせちゃったな…
あれ？
深代ママ、誰と話してるんだろ…
お待たせ！
あら、お帰り…
今、誰と話してたの？知り合い？
まさか。
あたしここで立ってたら、向こうからぶつかって来たの。
盲目の老人だったわ。
盲目の老人？
でもあっちへ一人でスタスタ歩いていったじゃんか…
でも確かに盲目だったわ。
だってずっと目を閉じたままだったもの。
ずっと目を閉じたまま…？
さあ、目的の場所へ行きましょ！
うん。目印は「リフト」なんだ。
えーと…
あった！ここ、ここ！
うわー！すごい！
これラグビーでしょ？
深代ママ、ラグビー知ってるんだ。
知ってるわよ。
何度も早明戦に行ってるし。
ええ？そうなの？
スナックのママやってると、早稲田出身のお客さんに誘われるのよね。
「早明戦のチケット取れるから一緒に行こうよ」って。
なるほど…
確かに早明戦とか早慶戦に行くと、明らかに夫婦っぽくない熟年カップルを見かけるよな…
女性のほうが、年の割に妙に色っぽいんだ…
大学ラグビーあるある、ね。
ラグビー知ってて話が早い。
実はこの店に深代ママを連れて来たかったんだ。
NIWAKA？
これがあなたの言ってた「にわか」ってこと？
その通り。
これ「にわかＴシャツ」っていうんだよ。
なんかオールブラックスみたいじゃん。
すごいね。そんなことまで知ってるんだ。
だけど…
これを着てラグビー観に行く勇気ないわ…
どうして？こんなクールなデザインなのに？
だってさ、これ着て外苑前界隈をウロウロできないじゃん…
伊藤忠の人たちにジロジロ見られちゃう…
伊藤忠？
「丹羽か」って。
え？
冗談よ、冗談。
丹羽宇一郎のダ～ジャ～レ。
こいつは一本とられたな。
だけど、なんで「NIWAKAシャツ」を黒にしたんだろね？
日本を応援するなら、赤とか白とか桜カラーじゃないの？
確かにそうだな。
オールブラックスのブランド力に便乗したとか？
おそらくそうよね…
ニュージーランド代表が試合前にやるやつ、なんだったっけ？
呪文みたいなの唱えながら踊るやつ。
「ハカ」のこと？
そうそうそれそれ。
きっとその「ハカ」にかけてあると思うの…
え？
だって「にわか」を昔風に書いたら「にはか」でしょ？
だから「NIWAKA DE GOMEN」は…
「似ハカでゴメン」の駄洒落なのよ。
なるほど、確かにそうも読めるな…
どう？昼間のあたしも凄いでしょ（笑）
うん…
でも深代ママ…
今日は深読みしないって約束だったのに…
ああ！あたしったら…
僕もずっと深読みを我慢してたんだけどな。
ゴメンね。なんか違うハナシにしましょ…
そう！
なんで日本代表はハカをしないのかしら？
だってハカはニュージーランドの先住民族マオリの戦いのダンスだからね。
でもオールブラックスだけズルくない？
日本も何かすればいいのに。
そういうわけにはいかないんだよ。
それに日本には「ハカ」に相当するものがない。
「ソワカ」があるじゃない。
そわか？
サンボリチ・バラダノウ・キャリ・ダラ・ダラ・ダラヤ・ダラヤ・サラバン・バキャバチ・アキャラバチ・サンマエイ・ソワカ…
真言？
今のはどういう意味なの？
念と力を所有する者よ。保持せよ。保持せよ。一切を保持せよ。保持せよ。形相をそなえた世尊よ。本誓ある者よ。ソワカ…
なんてこった…
ラグビーにピッタリだな…
ソワカに踊りをつければいいわ。
こんなふうに…
カッコいいけど…
あの動きはラグビー選手には無理じゃないかな…
リーチマイケルに不可能は無い…
リーチマイケルまで知ってるとは…
深代ママ…かなり詳しかったんだね…
なんで店ではラグビーの話とかしないの？
でもルールは全然わからないの。
だからあたしみたいのが話題にするのも悪いかなーって思って…
試合観てても、みんなが「わー」って騒いだら、一緒に騒ぐだけだから（笑）
スタジアムではそんなもんだよ。昔の国立なんて特に。
だけど見てるだけで何だかワクワクするのよね…
男の人たちが必死で何かやってて…
よくわからないけど、こっちまで熱くなってくるっていうか…
それでいいんだよ。
だから糸井重里も「にわかＴシャツ」を作ったんだと思う。
スポーツ観戦も恋愛も「にわか」の心を忘れないようにね。
え？
だって「にわか」の時が一番楽しいんだよ。
見ること聞くこと新鮮なことばかりでね。
いちいち意味なんか考えないし、先の展開なんかも気にしない。
目の前のことだけに夢中になれるんだ。
確かに…そうかも…
それにね、糸井重里は「にわかでゴメン」と、ただ謝ってるだけじゃないんだ。
よくロゴを見てごらん。
「ＧＯＭＥＮ」のところで何か気付かない？
あ…
「ＧＯ ＭＥＮ」だ…
そう。
「にわかでごめん」じゃないんだよね。
「にわかで行こう！」なんだよ。
にわかで…行こう…
今日僕がここに深代ママを連れて来たのは、この「にわかで行こう」シャツをプレゼントしたかったからなんだ。
これを着て、何も知らない自分に自信をもってほしい。
もし好きな人が出来たら、これを着て初デートに行っちゃうくらいの勢いでね（笑）
岡江クン…
深代ママだったらＳサイズかな…
すいません。これ１枚ください。
・・・・・
はい、どうぞ。深代ママ…
今日は僕の無理に付き合ってくれてありがとう。
こ、こちらこそ…
だけど…
あたしみたいなおばさんが着ても大丈夫かな…
50歳で「にわか」なんて、恥ずかしくないかな…
全然。
ワクワクドキドキするのに年なんて関係ない。
たまには深読みを忘れて、余計ことなんて何にも知らないまっさらな自分でいるのもいいもんだよ。
・・・・・
どしたの？
ちょっと待ってて！すぐ戻るから！
え？
１５分後
深代ママ…
今日、暑いから…
さっそく着ちゃった…
え…
ねえ、他のブースも見て歩こうよ。
それから外の遊歩道も…
今日はいっぱいいっぱい、楽しんじゃお！
うん。
「恩返し篇」につづく
P.S.「生活のたのしみ展」のたのしみ方は、コチラが便利かも。
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