227『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』第96話
前回はコチラ
2019年9月19日
スナックふかよみ
2つの物語が鍵? 「227」の読み方のトリック?
なんのことでしょう?
わけわかめ。
うふふ。
ヒントは…
「Route 66」…
ルート66?
これはハイウェイ66号線の歌でしょ?
227と何の関係があるの?
ルート66の「66」は…
「39+27」という意味でもあるのよね…
39足す27?
39とは旧約聖書の39巻…
27とは新約聖書の27巻…
キリスト教プロテスタントでは、この全66巻を正典とし、カノン(canon)と呼ぶ…
つまり「66」とは「聖書」のことなんだ…
マ、マジで!?
ちなみに、Old Testament(旧約聖書)39巻とは…
1:Genesis(創世記)
2:Exodus(出エジプト記)
3:Leviticus(レビ記)
4:Numbers(民数記)
5:Deuteronomy(申命記)
6:Joshua(ヨシュア記)
7:Judges(士師記)
8:Ruth(ルツ記)
9: I Samuel(サムエル記1)
10:II Samuel(サムエル記2)
11:I Kings(列王記1)
12:II Kings(列王記2)
13:I Chronicles(年代記1)
14:II Chronicles(年代記2)
15:Ezra(エズラ記)
16:Nehemiah(ネヘミヤ記)
17:Esther(エステル記)
18:Job(ヨブ記)
19:Psalms(詩篇)
20:Proverbs(箴言)
21:Ecclesiastes(伝道の書)
22:The Song of Songs(雅歌)
23:Isaiah(イザヤ書)
24:Jeremiah(エレミヤ書)
25:Lamentations(哀歌)
26:Ezekiel(エゼキエル書)
27:Daniel(ダニエル書)
28:Hosea(ホセア書)
29:Joel(ヨエル書)
30:Amos(アモス書)
31:Obadiah(オバデヤ書)
32:Jonah(ヨナ記)
33:Micah(ミカ書)
34:Nahum(ナホム書)
35:Habakkuk(ハバクク書)
36:Zephaniah(ゼパニヤ書)
37:Haggai(ハガイ書)
38:Zechariah(ゼカリヤ書)
39:Malachi(マラキ書)
そして、New Testament(新約聖書)27巻とは…
1:Matthew(マタイ)
2:Mark(マルコ)
3:Luke(ルカ)
4:John(ヨハネ)
5:The Acts of the Apostles(使徒行伝)
Paul’s Epistles to
6:the Romans(ローマ人への手紙)
7:the Corinthians I(コリント人への手紙1)
8:the Corinthians II(コリント人への手紙2)
9:the Galatians(ガリテヤ人への手紙)
10:the Epistle(エペソ人への手紙)
11:the Philippians(ピリピ人への手紙)
12:the Colossians(コロサイ人への手紙)
13:the Thessalonians I(テサロニケ人への手紙1)
14:the Thessalonians II(テサロニケ人への手紙2)
15:Timothy I(テモテへの手紙1)
16:Timothy II(テモテへの手紙2)
17:Titus(テトスへの手紙)
18:Philemon(ピレモンへの手紙)
19:The Epistle to the Hebrews(へブル人への手紙)
20:The Epistle of James(ヤコブの手紙)
21:The first Epistle of Peter(ペテロの手紙1)
22:The second Epistle of Peter(ペテロの手紙2)
23:The first Epistle of John(ヨハネの手紙1)
24:The second Epistle of John(ヨハネの手紙2)
25:The third Epistle of John(ヨハネの手紙3)
26:The Epistle of Jude(ユダの手紙)
27:The Revelation of John(ヨハネの黙示録)
になります…
ふぅ、疲れた…
すごいじゃん、ジョー! 暗唱できるなんて!
ピッツバーグ生まれの両親の影響で、聖書は身近な存在でしたから…
日本人が円周率の数字や東海道五十三次を暗記するようなもんですよ…
なるほど。落語でも暗唱系の古典があるもんね。
『寿限無』の名前とか、『黄金餅』の道筋とか…
しかしこれと「パイの物語」の「227」にどういう関係が?
「パイの物語」とは「聴く者が神を信じるようになる物語」だった…
そのためにパイは「奇跡の生還」という物語を語った…
同じ227日間でも内容の異なる2種類の物語をね…
まず最初は「動物が出てくる物語」…
動物の血が流され、食べられてしまい、最後はトラが姿を消す物語だ…
そして次に「人間だけの物語」…
こちらは、人間同士が殺し合い、人間が人間の血を飲み、肉を食べる物語だ…
カニバリズムのようにも聞こえる例え話…
これのことでしたね。
『これは私の肉、私の血』
その通り。
そして、この2つの物語を語った上で、パイは聞き手に「どちらの話がいいか?」と尋ねる。
映画版では作家が選ぶんだけど、原作では二人の日本人オカモトとチバが選ぶ。
そう。
ヤン・マーテルの小説では、日本語で「イエス」と言わせることがゴールになっていた。
英語の「YES」と「JESUS」は発音が違うけど、日本語では一緒…
これが小説のオチになっていたんだね。
だからオノ・ヨーコの「天井のYES」は「天上のイエス」でもある。
そして、小説の冒頭で提示されるパイの伯父ママジの預言「話を聴いた者は神を信じるようになる」は、二人の日本人オカモトとチバが、こう答えたことによって成就する。
「イエス。The story with animals is the better story.」
なぜなら「パイの物語」における「動物」とは「神・主」の喩え…
つまり「イエス。動物と一緒のほうがいい」とは…
「イエス・キリストと一緒のほうがいい」という意味になるというわけだ…
だから「227」なんだよね。
は? なんでそれが227なのよ?
パイは、こう言った。
I told you two stories that account for the 227 days in between.
「2つの物語」は「227」の内容を説明するもの…
つまり「2つの物語」と「227」は等しいとね。
どゆこと?
パイは、荒唐無稽ともいえる「動物と一緒の物語」を、ドン引き必至の「人間だけの物語」を語ることで信じさせた。
パイが語った2つの物語によって、聞き手は、カニバリズムが喩えだった物語「新約」へ導かれたんだ。
これは「動物と一緒の物語」と「人間だけの物語」という2つの手で「新約」を導き出したと言えるよね。
そして先程紹介したように、新約は全27巻で構成される。
これが「227」の答えだ。
つまり「227」は「two hand led 27」と読むというわけ。
two hand led?
two hundred のダジャレってこと?
そう、駄洒落だ。
嘘よ…
そんなこと、ありえない…
「27」は「救世主イエス・キリストの教え、新約」を表す…
これは、その筋の世界では、常識…
そ、そうなの?
ぼくは、ばいなり派。
は?
11011とは二進法の27のことね(笑)
いえーす。
たとえば「27」は…
古典的名作『モンテ・クリスト伯』でも重要な意味を持つ…
ロマン・ロランの?
それは『ジャン・クリストフ』…
『モンテ・クリスト伯』』は、フランスの文豪アレクサンドル・デュマの代表作。
日本では長いこと『巌窟王』と呼ばれていたよね。
『モンテ・クリスト伯』と「27」?
確か「34」じゃなかったっけ?
主人公エドモン・ダンテスの囚人番号のことでしょ?
ケツヤさん、古典文学に詳しいんですね。
良ちゃんが文学少年だったのよ。だからアタシも、その影響で。
確かに主人公エドモン・ダンテスの囚人番号は34だった。
ちなみにダンテスを「モンテ・クリスト伯」に導いたのは誰だったか覚えてる?
ファリア神父でしょ? ダンテスと同じ囚人の。
その通り。
ファリア神父は「世界のすべてに関する知識」を主人公エドモン・ダンテスに教え、モンテクリスト(キリスト山)島に隠されている秘密の財宝を託した…
ファリア神父から全てを伝授されたことにより、ダンテスはモンテ・クリスト伯へと変身できたんだ。
そのファリア神父が囚人番号「27」なんだよね。
つまりダンテスが教わった「世界のすべてに関する知識」が27…
救世主イエス・キリストの物語だったってこと?
その通り。
だからファリア神父は、最初にこんなダジャレを言うんだよ…
ダンテス「でも、あなたはどなたなのです? せめて、お名前を教えてください」
ファリア「わたしは... わたしは... 27号だ」
どこが駄洒落?
ごめんごめん。
これはフランス語でしか伝わらないダジャレだった…
原文ではこうなっている。
- Qui êtes-vous au moins.., dites-moi qui vous êtes ?
- Je suis.., je suis.., le n° 27.
なんてこった…
Je suis 27(私の数は27だ)と…
Jesus 27(イエスの数は27だ)のダジャレですか…
どんだけ!
ちなみにファリア神父は実在の人物ホセ・カストデイオ・デ・ファリアがモデルだ。
インドのポルトガル領ゴアで生まれ育ったファリアは、カトリックの洗礼を受け、海を渡ってローマで神学を学び、その後はポルトガルで女王マリア1世に寵愛された。
当時のファリアに、こんなエピソードがある。
女王の礼拝堂で説教をすることになり壇上に立ったファリアは、会場に居並ぶ錚々たるセレブたちが自分のことを好奇な目で見ていることに気づき、フリーズしてしまった。
その時、壇下にいた父親が、インドの言葉で咄嗟にこう言ったという…
「あれはすべて野菜だ!野菜を料理するんだ!」
それを聞いたファリアは緊張が解け、最後まで流暢に説教をすることが出来たそうだ。
緊張した登壇者へのアドバイス「観衆はジャガイモだと思え」みたいね。
だけど全体的に、どっかで聞いたような話だわ。
インドで生まれ育ち、カトリックの洗礼を受け、海を渡り、父親が「ぜんぶ野菜だ!野菜を料理しろ!」と言う…
まさに『ライフ・オブ・パイ』じゃないですか…
そうなんだよ。ファリア神父は『ライフ・オブ・パイ』の元ネタになっているんだよね。
ちなみにファリア神父は、その後インドで政変に巻き込まれてパリに移住し、人間や動物は磁気力によって動いているという「動物磁気説」(animal magnetism) にハマり、幻覚や催眠の研究をするようになったそうだ。
それも『ライフ・オブ・パイ』っぽい…
何なのコレ…
ちなみに、旧約聖書の「39」もよく物語のネタに使われます…
最も有名なのは、アルフレッド・ヒッチコックの映画『The 39 Steps』でしょうか…
その通り。
ジョン・バカンのベストセラー小説をヒッチコックが大幅に改変して、「39」の意味をよりいっそう際立たせた名作サスペンス…
これって邦題が『三十九夜』だったわよね…
なんで「steps」が「夜」になったのかしら?
そこはわからない。
ただヒッチコック版では、戦争の行方を左右する最終兵器の設計図を狙う秘密組織の暗号名が「39 steps」だから、それが「39階段」でも「39夜」でも特に問題はないんだ。
ヒッチコックにとっては「39」という数字だけが重要だったんだね。
「39」は旧約聖書のことだから。
ホントにそうなの?
そんな話、初耳なんだけど…
ちなみに、秘密の設計図を暗記してるミスター・メモリーの命を狙う「39 steps」のボスの名前は「Professor Jordan」という…
つまり「ヨルダン教授」ね。
そしてその妻の名は「Louise Jordan」…
「Louise」はヘブライ語みたいに左右反対に読むと「イスラエル」とほぼ同じ発音になる…
ボブ・ディランの『VISIONS OF JOHANNA』や、ドゥニ・ヴィルヌーヴの映画『ARRIVAL(邦題:メッセージ)』で使われたのと同じトリック(笑)
J・D・サリンジャーの『THE CATCHER IN THE RYE(ライ麦畑でつかまえて/キャッチャー・イン・ザ・ライ)』にも『The 39 Steps』は登場しますね…
そう。
主人公ホールデンと妹のフィービーは、ヒッチコックの『The 39 Steps』が大好きという設定…
なぜなら『THE CATCHER IN THE RYE』という作品は、イエス・キリストの物語をパロディにしたものだから。
それに作者のサリンジャーはユダヤ人だった。だから「39」は大好き…
それでもまだ疑うかしら?
なんてこった…
それじゃあ…
39+27の『ルート66』も、そういう歌ってことなの?
そうとも言えるし、そうではないとも言える…
どっちなのですか、教官?
少し詳しく話す必要があるね、「ルート66」に関しては…
音楽のみならず、文学や映画などアメリカ文化全般にかかわる重要なことだから…
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?