第153話 ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ㉒「Train in the Distance」中篇~『深読み ライフ・オブ・パイ&読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
よく歌詞を読むと、そうじゃないんだよね…
ポール・サイモンは、ちゃんと「書き分けている」んだ…
1番で出会った「カップル」と、2番で結婚した「カップル」は…
別の「カップル」なんだよ…
は? 二組のカップルってこと?
じゃあ全部で「5人」じゃん! 2番のカップルには息子が生まれたから!
いや。全部で「4人」だ。
女性の方は同一人物だからね…
え? 男の方が別人ってこと?
そうなんだけど…
やっぱり「3人」かな…
はぁ?
わけわかめじゃな。
ふぉーっふぉっふぉ。
教官、これはいったい、どういうことなのでしょうか?
では解説しよう…
ポール・サイモンが『Train in the Distance』の歌詞に仕掛けたトリックの秘密を…
その前にもう一度曲を聴いておきましょ。
歌詞はこちらです…
1番は、こんなふうに始まる。
She was beautiful as Southern skies
The night he met her
彼が彼女に会った夜
彼女は南天のように美しかった
「彼」が「彼女」と最初に会ったのは、夜だったんですね…
どこかで行われたパーティ会場での出来事かな…
ちなみに「南天のよう」って、どういう美しさなんでしょうか?
こんな感じじゃない?
ユリア?
まあ確かに「南斗の慈母星」ですけど…
♫時間の中で生きてる~ 孤独なささやき~♫
その歌、あたし、めっちゃ好き!
主題歌のほうより、断然こっち派!
・・・・・
・・・・・・
教官?どうしました?
あっ…いや、なんでもない…
そして歌詞は、こんなふうに続く…
She was married to someone
He was doggedly determined that he would get her
彼女には夫がいたけれど
彼は犬のようにしつこく諦めなかった
彼女を絶対にモノにしようと
ポール・サイモンっぽくないわよね。
そんなガツガツしたタイプに見えないのに…
Paul Simon
1番の締めくくりはこうだ。
He was old, he was young
From time to time he'd tip his heart
But each time she withdrew
彼は年を取っていて、彼は若い
何度か彼は彼女に心をチップしたが
彼女は受けようとしなかった
また謎のフレーズですね…
「old」で「young」って、どっちなのでしょう?
見た目は老けているけど、あっちのほうはヤングってことじゃないの?
人妻にもアタックするくらいだから。
いやいや。まさか。
じゃあ、どういうことなの?
年を取っているけど若いって? メーテルみたいに時間を超越した存在なの?
ふぉーっふぉっふぉ。
うーん。よくわかりません…
その後の「心をチップした」もよくわかりませんが…
ウェイトレスにチップを渡すみたいに気軽に口説いたってことじゃないの?
「tip」には「何かの先についたもの」とか「身を低くして傾ける」という意味がある。
こんなイメージだね。
ふーん。よくわかんない。
1番のポイントをまとめよう。
ある夜に彼が見た彼女は「Southern skies」のようだった…
彼は一目見て彼女しかいないと決め、「dog」のように振る舞った…
彼は「old」で「young」な存在…
彼は何度か「tip」したが、彼女に受け入れてもらえなかった…
ん?「dog」のように振る舞った?
これってまさか…
そう。「dog」は「God」だったよね。
もしかして…
ポール・サイモンはまた、何かの「絵」のことを歌にしてるの?
有名な宗教画を…
その通り。
1番は、これ。
『受胎告知』フラ・アンジェリコ
じゅ、受胎告知!?
「夜」だし、パーティー会場っぽいでしょ?
庭の向こうの方では、会場を後にする男女の姿も見える。
警備員が「お車はあちらです」と言ってるみたいだよね…
「彼女」は「マリア」のことだったの?
確かに美しいけど、「南天のよう」ってどういうこと?
この絵の中のマリアは、胸の前で両手を交差させている…
赤いワンピースの上にネイビーブルーのコートを羽織って…
だからポール・サイモンは「南天」と表現したんだ…
これとよく似ているから…
南軍旗?
アメリカ連合国海軍旗、通称「サザンクロス」…
つまり「南十字星」という意味だね。
南斗の慈母星か…
ちなみに言っとくが…
銀河鉄道999の元ネタ、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の旅の終着駅は、南天に輝くサザンクロス… 南十字星じゃったな…
聖母マリアは「ステラ・マリス」、つまり「海の上に輝く星」と呼ばれますからね…
なるほど…
決して消えることのない永遠の美しさの象徴であり…
母のように懐かしく、恋にも似た思いを抱かせる存在…
・・・・・
・・・・・・
教官? どうしました?
あっ… いや… 何でもない…
そしてマリアには「夫」がいた…
まだ初夜は迎えていなかったけど、婚約中の夫ヨセフがいたんだよね…
そして「God」である「彼」はマリアに決める…
「彼」は「old」であり同時に「young」でもあった…
つまり…
老人の姿をした「父なる神」であると同時に…
「幼子イエス」でもある…
そういうこと。
そして「彼」は、マリアに対して事情を説明した。
神は人間に直接語りかけることは出来ないから、メッセンジャーである天使を使って伝えたんだね。
今から「神の子」がお腹に宿るということを…
あっ!「tip」してる!
身を低く傾けて、口先にセリフをつけてます!
しかも何度かに分けて!
なんてこと…
このアンジェリコの絵は、『ルカによる福音書』の第1章にある「受胎告知」を描いたもの。
マリアの表情が硬直してて、両手を交差させて胸を押さえているのは、あまりの出来事にビックリしたからだ。
自分には婚約中のヨセフがいて、まだ男を知らない処女なのに、いきなり妊娠するって言われたら、誰でも驚くだろう。
しかも、お腹に宿るのは「ただ事ではない子」だから…
1:26 六か月目に、御使ガブリエルが、神からつかわされて、ナザレというガリラヤの町の一処女のもとにきた。1:27 この処女はダビデ家の出であるヨセフという人のいいなづけになっていて、名をマリヤといった。1:28 御使がマリヤのところにきて言った、「恵まれた女よ、おめでとう、主があなたと共におられます」。1:29 この言葉にマリヤはひどく胸騒ぎがして、このあいさつはなんの事であろうかと、思いめぐらしていた。1:30 すると御使が言った、「恐れるな、マリヤよ、あなたは神から恵みをいただいているのです。1:31 見よ、あなたはみごもって男の子を産むでしょう。その子をイエスと名づけなさい。1:32 彼は大いなる者となり、いと高き者の子と、となえられるでしょう。そして、主なる神は彼に父ダビデの王座をお与えになり、1:33 彼はとこしえにヤコブの家を支配し、その支配は限りなく続くでしょう」。1:34 そこでマリヤは御使に言った、「どうして、そんな事があり得ましょうか。わたしにはまだ夫を知りませんのに」。
ポール・サイモン… おそるべし…
そして最終的にマリアは「彼」を受け入れる…
お腹に宿るのが「神の子」だと知らされたから…
1:35 御使が答えて言った、「聖霊があなたに臨み、いと高き者の力があなたをおおうでしょう。それゆえに、生れ出る子は聖なるものであり、神の子と、となえられるでしょう。1:36 あなたの親族エリサベツも老年ながら子を宿しています。不妊の女といわれていたのに、はや六か月になっています。1:37 神には、なんでもできないことはありません」。1:38 そこでマリヤが言った、「わたしは主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますように」。そして御使は彼女から離れて行った。
婚約者マリアの妊娠を知った夫ヨセフは、戒律に従って、彼女を石打ちの刑で殺そうと考えた…
だけど踏みとどまって、この事実を受け入れたのよね…
そして二人は結婚する…
そう。そこからが2番だ。
だけどその前にサビにも触れておこう。
Everybody loves the sound of a train in the distance
Everybody thinks it's true
これもフラ・アンジェリコの『受胎告知』からインスパイアされたもの…
わかるかな?
誰もが愛する
遠くに聴こえる列車の音を
誰もが想う
それは真実だと
「train」は神の姿を表す「brain」であり、主の恵みを意味する「rain」でもある…
その音が聴こえるだから…
天使ガブリエルが代弁した「神の言葉」のことでしょうか…
フラ・アンジェリコの『受胎告知』には、もう1枚、有名なものがあったよね?
これまでの深読みで、何度も紹介した絵が…
このバージョンですか?
あっ!「train」だわ!
え?
光の帯が「線路」で、その上を走る白い鳩が「列車」よ!
天に続く光の線路、その上を走る幼子…
導かれる先は、美しき乙女であると同時に、聖なる母でもある…
まるで… 銀河鉄道999みたい…
考え過ぎじゃぞ。
ぷぅ~♫
もうやだ~
なんでこんなところでオナラするのよ~?
おならは、心の汽笛じゃ…
大切な過去に別れを告げ、前へと進むために鳴らす魂の声…
それを人は「SAY ONARA」という…
んもう。くだらなーい。
ふぉーっふぉっふぉ。
・・・・・
え? 文代さん…?
どうしたの?
ううん。なんでもない…
さっきの駄洒落が、あまりにもくだらなすぎて…
ツボに入っちゃった(笑)
・・・・・
教官。きょーかん。
えっ…?
さっきから変ですよ。突然ボーっとしたりして。
どうしたんですか?
あ、いや… なんでもない…
それじゃあ2番に進もうか…
2番は、婚約者とは別の「男」の子供を宿したマリアと、それを最終的に受け入れて結婚したヨセフの物語だ…
1984年ⅹ月ⅹ日
ニューヨーク
佳世実のアパートメント
ニューヨークのアパートメントは寒いと聞いてたけど…
まさか本当に部屋の中で防寒服を着てなきゃいけないとは…
映画でよくあるシーンは、誇張じゃなかったのね…
だけど…
ここから見える夜景は、本当に綺麗…
まるで…
満天に広がる、銀河のよう…
岡江クン… 元気にしてるかな…
突然のことだったから、ちゃんとお別れも出来なかったけど…
ちゃんとサヨナラも…
言えなかったけど…
でも、きっとわかってくれるはず…
そのほうが、よかったんだって…
だってこれは… 本当のお別れではないから…
いつかまた会う日までの…
ちょっとした別れに… すぎないから…
やだ… あたしったら…
なんで…
ふぅ…
こんな時は… ピアノでも弾こうかな…
あたしの…
何よりも大切な思い出…
SWEET MEMORIES をのせて…
つづく
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