第151話 ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ⑳「THINK TOO MUCH (a)」Ⅴ~『深読み ライフ・オブ・パイ&読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
少年にとって、ちょっと年上のおねーさんは永遠の憧れ…
オトナになっても、心の中にしまっておきたい特別な存在じゃ…
そうじゃな、男子諸君。
異議なし。
おとなもこどもも、おねーさん大好き。
そ、そうです… よね…
(どうした岡江君? こんな当たり前のことに、なぜそこまで動揺する?)
♫だ~れかさんと~ だ~れかさんが~ 中二階~♫
♫こっそりチュウした、い~じゃないか~♫
・・・・・
・・・・・
(まただ… この空気… あの老人が何かを言うと… なぜ?)
ふぉーっふぉっふぉ。
いいわね、男子は結束力が強くて(笑)
ところでさ、みんなの初キッスって、いつだった?
忘れもしません。
あれは昭和34年6月25日、木曜日、21時12分のこと。
村山みのりちゃんと後楽園で、別れ際にサヨナラのキッスを…
すごい、しげしげさん…
そこまで事細かに覚えてるの?
わが初キッスの記憶は、永久に不滅です。
ジョーは?
わたしは、16歳の時に、アンコールワットの裏で…
へえ~。おもしろ~い。
大林少年君は?
わ、私は… 2年前…
深読み探偵学校の先輩と… 校舎の屋上で…
あらあら(笑)
岡江クンは?
だ、誰だったかな… 思い出せないや…
え~?嘘でしょ~? どうでもいいことはたくさん覚えてるくせに~!
なんで隠すのよ?
いや… 隠してるとか… そういうことじゃなくて…
もしかして、あたしが会ったことある子?
同級生で仲のいい女の子、何人か家に遊びに来てたじゃん。
あ、あの中には… いないけど…
こういうことは… あまり人に言うことじゃ…
あたしは高校1年の時よ。
追っかけてた竹の子の人と代々木公園で。
タケノコの人? 何ですかそれ?
今時の若い子は知らないのね。
「竹の子族」って言ってね、原宿のホコ天でパフォーマンスをするチームが80年代にはたくさんいたの。
そこから有名になった人もいっぱいいるのよ。
沖田のヒロくんとか、清水宏次朗とか…
あ、これか… 何かのテレビ番組で見たことあります…
だけど、まさか深代ママさんが、竹の子族の追っかけだったとは…
まあ、追っかけというか…
チームに入ってたんだけどね(笑)
えっ!?
あたしの家や学校は竹の子禁止だったから、家族にも友達にも絶対に内緒にしてたの…
岡江クンも気付かなかったでしょ?
う、うん… 全然…
父には代々木の予備校に行くって嘘をついて、西武線と国鉄を乗り継ぎ原宿まで行って、あの衣装に着替えて踊ってたのよね…
楽しかったなあ…
というか、この話、初めて誰かに言ったかも。
うふふ。そうだったんだ(笑)
文代さんは?
あたし?
えーと、いつだったかな…
遠い昔のことだから、忘れちゃったかも…
・・・・・
(え…? 岡江クン? あたし… 覚えてる… )
文代さん、どうしたの?
ううん。なんでもない。
(そっか… しくじったのね T-NK800… プランAを…)
まさか忘れるわけはなかろう…
はじめてのチュウを…
ふぉーっふぉっふぉ。
うふふ。そうよね。
はじめてのチュウは、誰にとっても特別なもの…
(というか… 岡江クンはまだ深読み探偵のままだし… T-NK800はプランBも失敗したってわけね…)
思い出した? いついつ?
たしかあれは… 中3の時…
で、相手は? どんな人?
たぶん…
年下の男の子… だったかな…
え? その年で年下と?
でも文代さん、中学生の頃からきっと、大人っぽい女の子だったんだろうなあ…
そして、ちょっと小悪魔的な感じもあって…
年下の男の子たちはメロメロよね…
わ、私もそう思います!
わしもそう思うぞ。
というか、間違いなくそうじゃったはずじゃ。
・・・・・
あたしの通ってた学校にもいたわ。下級生からラブレターもらったり告白される子。
女子校だから、下級生の女子からコクられる女子だけど。
それ、あたしもあった…
やっぱりね。うちの妹とおんなじ。
男子にモテる子って、女子からもモテるのよね。
放課後の教室で妹が下級生の女子とキスしてるのを見ちゃったときはマジで驚いたけど(笑)
・・・・・
ところで、年下の男の子とは、その後どうなったの?
初キッスの後は、付き合ったりしたの?
・・・・・
1983年xx月xx日
狭山丘陵
坂本博士の屋敷 中二階
岡江の部屋
はぁ…
どうなされました、もん坊ちゃま? ため息ばかりついて
ううん。なんでもない…
なにか御座いましたら、この沢尻になんでもお申し付けください。
なんでも?
はい。なんでも。
じゃあ… 聞くけど…
エリカさんは… 好きな人とか、いる?
好きな人、で御座いますか?
うん…
休みの日はデートとかするの?
そのような殿方は、今はいません。
でも以前はよくデートに出かけました…
たとえば原宿に行ったり…
原宿?
サンマといえば目黒のように、デートといえば原宿でしょう。
いろんなお店を見て回って、クレープ食べて、関帝廟にお参りして…
関帝廟? それは横浜中華街ですよ。
原宿にそんなものはないです。
だけどやっぱり…
この沢尻イチオシは、ホコ天で御座いますわ…
あそこにいると、時が経つのを忘れてしまいます…
ホコ天かあ…
でも、あんなところは絶対に行ってはダメだと、坂本博士は言っていました。
坂本博士が?
男が化粧して歌って踊る姿を見て何が楽しいんだ、と…
あんなものは邪道、言語道断だって…
でも歌舞伎だってそうでしょう。梅沢富美男も。
だよね? ボーイ・ジョージだって、YMOだってそうだし。
だからエリカさんから坂本博士に言ってよ。
化粧した男が歌って踊ってもいいじゃないか、歌舞伎も梅沢富美男もボーイ・ジョージもYMOもそうだって…
わ、わかりました… 考えておきます…
(かわいそうに… 佳世実お嬢様とのデートを想像して、毎晩眠れぬ夜を過ごしているんだわ… もん坊ちゃまだけに、悶々と…)
お願いだからね…
この家で頼りになるのは、エリカさんだけなんだから…
(次の満月の夜… 二人は はじめてのチュウをする… そしてそれを坂本博士に目撃され、この館から追い出されてしまう… )
はぁ… 原宿か…
(というか、あと一週間しかないじゃない! どうやったら未来を変えられるの? 考えるのよアタシ… 考えるのよ… )
ふふふ。無駄なことだ…
すべては、このわたしのシナリオ通り…
これで深読み探偵 岡江門は、未来永劫、存在しなくなる…
ハッ! ユーリカ!
ユーリカ?
い、いえ… エーリカ!なんちゃって…
とにかく、この沢尻エリカにお任せください。
約束だよ。絶対に坂本博士に言ってくれるって。
はい。それではわたくしはこのへんで失礼いたします。
今夜中にやらねばならないことを思い出しましたので…
もん坊ちゃまも、早くおやすみになられてくださいまし…
あまり遅くまで起きてますと、明日の朝、寝坊してしまいますから…
うん、わかった。おやすみなさい。
沢尻の部屋
歴史をちょっぴり変えてしまうことになるかもしれないけど、そんなこと構っていられない…
作業小屋にあった農薬散布用の防護服を見た時、なんですぐに思いつかなかったんだろう…
この手があったじゃない…
深夜0時
岡江の部屋
「ふぉーっふぉっふぉ…」
ん…?だ、誰…?
ふぉーっふぉっふぉ…
ヒィィィ!
ワタシワ… エヴァンゲリオン ダ…
え、え、えゔぁん… げりおん…?
オマエノ イノチヲ ウバウタメニ ヤッテキタ…
ぼ、僕の命を? どうして?
ユルシテ ホシケレバ…
ニジュウヨジカンデ コノウタヲ…
カンペキニ ウタエルヨウニシロ…
え? 歌?
コレダ…
?????
ワタシハ マタ アス コノジカンニ クル…
ソノトキニ コノウタヲ カンペキニ ウタエナカッタラ…
オマエノイノチハ ナイトオモエ…
ちょっと待ってください…
なぜ、歌なのですか?
サラバ… ラバンバ…
バタン!
(ドアの閉まる音)
ど、どうなってんだ…
明日の夜までに、この歌を完璧に歌う?
そんなの無理だよ…
ケツヤめ… あいつ…
いったい何をしているのだ?
翌朝
ヤッタ… ヤッタ… ヤッタヨ…
おはよう。岡江クン。
あっ、おはようございます… 深代さん…
何を「やった」の?
い、いえ… なんでもありません…
変なの。目の下に隈なんか作っちゃってるし。
ちょっと… 眠れなかっただけです…
眠れなかった? 悩み事でもあるの?
いえ… あの… その… ちょっと練習を…
練習? 何の?
は、早く朝御飯食べて、学校に行かなきゃ…
あ、ホントだ!もうこんな時間!
佳世実ちゃんも起こさなきゃ!
(頑張ってね岡江ッチ… 未来の自分を守るために… あなたなら出来る… 奇跡はきっと起こる!)
その夜
佳世実の部屋
♫カ~マカマカマカマカマ カミ~リア~ン♫
サッ
ん?何?
(手に取って読む)
「大切な話があります。今夜12時きっかりに僕の部屋に来てください。 岡江」
岡江クンから?
大切な話? いったい何かしら?
(頼むわよ… 絶対に12時きっかりに来てね…)
あいつ…
昨夜からいったい何をしてるんだ?
(ふふふ… ヒロくんもいつもの場所に居る… いつものように下半身は、くまのプーさん状態で… )
23時55分
岡江の部屋
「ふぉーっふぉっふぉ…」
え、えゔぁんげりおん!
ドウダ? アノウタハ ウタエルカナ?
は、はい。今日は一日中、これを練習していました…
シカシ… ウタエレバイイッテモンジャナイ…
ココロヲ コメテ ウタウノダ…
心を?
カシニ コメラレタ オモイ…
オマエニモ ワカルダロウ… イタイホドニ…
は、はい…
では歌います…
マテ。
ワタシヲ ミナガラデハ シュウチュウ デキヌダロウ…
デマドニコシカケ… コチラヲ ミナイヨウニ ウタエ…
わかりました… こうですね…
よいしょ…
ソウダ…
ソレデハ メヲトジテ 10カゾエテカラ ウタイハジメロ…
ココロヲ コメテナ…
ケッシテ コチラヲ ミルデナイゾ…
はい…
1、2、3…
(さ、あたしは隠れなきゃ! お願いだから、ちゃんと来てよ。佳世実お嬢様…)
パタ…パタ…パタ…
(あ、あの足音!タイミングばっちりじゃん! ステップ1、クリア!)
7、8、9、10…
では、歌います…
うふふ。何かと思ったら(笑)
か、佳世実さん!? えゔぁんげりおんは?
なにそれ?
だって… さっきまで、そこに…
うふふ。夢でも見たんじゃない?
ゆめ…?
それにしても…
おもしろい歌だった(笑)
き、聴いてたんですか?
ええ。ぜんぶ。
・・・・・
そっち、行っていい?
え?
(よっしゃ! ステップ2、クリア!)
ここ、あたしもよく座ってたな…
この部屋、あたしの大好きだった家政婦さんの部屋だったから、いつも夜にこっそり遊びに来てたの…
おしゃべりして、そのまま一緒に寝ちゃったり…
そ、そうなんですか…
この窓から見る夜空も、好きだったなあ…
あの木越しに見える月が大好きで…
(マズい!)
あれ? 満月だ!岡江クン見て!満月!
え? 今夜はまだ満月では…
ほら!あの枝が分かれてるところ!
葉の隙間からお月様が見える!
見て見て!
・・・・・
(ス、ステップ3、クリア! あとは… 神様、お願い!)
見てと… 言われても…
そんなふうに窓に押し付けられたら…
身動きが… とれません…
あ、ごめんごめん(笑)
いえ… いいんです…
岡江クン…
え?
キス… したことある?
は、はい?
してみる? あたしと…
・・・・・
・・・・・
(YES!)
か、か、か、佳世実さん…
・・・・・
ぼ、ぼく…
佳世実さんのことが…
だめ。それ以上言っちゃ。
え?
はぁ…
やっぱりダメみたい…
あたし、男の子が…
?????
何にも感じないのよね、男の子に…
キスしても全然ドキドキしないの…
やっぱ岡江クンでもダメか…
・・・・・
あ、ごめん…
別に岡江クンで実験したとか、そういうんじゃないから…
で、出て行ってください…
今すぐ…
う、うん…
ホントごめんね。今日のことは全部忘れて頂戴…
・・・・・
そ、それじゃあ…
おやすみ… 岡江クン…
バタン
(ドアの閉まる音)
(そうだったのね、佳世実お嬢様… だけど、これはこれでマズいことになっちゃったわ… )
翌朝
食堂にて
・・・・・
もん坊ちゃま、ご飯は召し上がらないのですか?
うん。いらない。
どうした? 朝御飯を食べないと、一日、いい深読みができないぞ。
今日は食欲がありません。
岡江クン、ちゃんと食べた方がいいわよ…
午前の授業中に、お腹いちゃうから…
ほ、ほっといてください!
・・・・・
ごちそうさま。行ってきます。
・・・・・
その日の夕方
岡江の部屋
もん坊ちゃま…
何?
差し出がましいことを申すようですが…
何かが思い通りにならなかったといって、苛立ってはいけません…
・・・・・
何があったのかはわかりませんが、今朝のような態度は、人を傷つけてしまいます…
佳世実お嬢様の、あの悲しそうな顔… ご覧になったでしょう?
だって… 僕だって…
よかったら、この沢尻にお聞かせください…
お二人の間に… 何があったのかを…
…と、いうわけです…
そうでしたか… 昨夜そのようなことが…
ひどいと思うんだ…
本当は女の子が好きなくせに…
僕にあんなこと… するなんて…
もん坊ちゃまは、佳世実お嬢様が女の子を好きなことが許せないのですか?
・・・・・
自分の思い描いていたようにならないから、苛立っておられるのですか?
僕は… 僕はただ…
誰かに自分の理想を押し付けてはいけません…
自分の思い通りにしようなんて、考えてはいけないのです…
・・・・・
佳世実お嬢様には、佳世実お嬢様の生き方がある…
それは誰にも変えられないこと…
じゃあなぜ僕にキスを…
もん坊ちゃまのことを好きだからですよ…
え? 僕のことを好き?
好きじゃなかったら、そんなことをしないでしょう…
ただそれは、男女の恋愛に発展するものではなく…
人として、好きだということ…
人として、愛しているということ…
人として…
佳世実お嬢様も、苦しんでいるんです…
自分の心や、体のことに…
今は1983年… まだまだLGBTが認知されるには…
えるじーびーてぃ?
いえ… 何でもありません。こっちのこと…
?
とにかく…
この現実を、あるがままに受け入れるのです…
あるがままの形で… すべてをあるがままに…
あるがままに…
考えるな、感じろ… で御座います。
考えるのではなく… 感じろ…
うん… わかった…
ありがとう。エリカさん…
その夜
佳世実の部屋
はぁ… どうしよう…
岡江クンのこと、すっごく傷つけちゃった…
そんなつもりじゃ、なかったのに…
スッ
ん? 岡江クン?
(紙を手に取り読む)
「あの練習していた歌は、その後どうなりましたか? もしよければ、また僕に聴かせてください。 岡江」
岡江クン…
岡江の部屋
コンコン♫
はい、どうぞ…
岡江クン… あのさ…
はい…
昨日の夜は…
・・・・・
ううん。なんでもない…
え?
今度の日曜日なんだけどさ…
あいてる?
え? 日曜日ですか?
あたしと…
原宿、行かない?
はら…じゅく…
ちょっと… 買い物に… 付き合ってほしくて…
はい。僕でよければ。
ありがと。
ふぅ…
あ~よかったぁ…
変なの。佳世実さん(笑)
あっ、そうそう!
あの歌、最後まで弾けるようになったのよ。聴いてくれる?
もちろん。
それじゃあ… 歌うね…
https://www.youtube.com/watch?v=K0slLzn8oJY
・・・・・
(ふ、文代さんが… な、泣いてる…)
あ… もしかしてあたし…
よけいなこと聞いちゃったかしら…
ごめんなさい…
ううん。そんなんじゃない…
考え過ぎよ、考え過ぎ(笑)
それならいいんだけど…
初キッスした年下の男の子と、その後に何かあったのかと思った…
うふふ。何もなかったわ…
残念ながら(笑)
ふぉーっふぉっふぉ。
・・・・・
(考えろ… 考えるんだ… この微妙な空気… いったい何なんだ? もしや過去で何か起きているのか? あの金色の男のせいで…)
さてと。
それじゃあ次の曲に行きましょ。
よろしく。深読み探偵さん…
あ、はい…
7曲目は… 過ぎ去りし日々を歌った曲…
『Train In The Distance』です…
つづく
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