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深読み 米津玄師の『さよーならまたいつか!(『虎に翼』主題歌)』第22話


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2024年3月中旬
東京都渋谷区神南
NHK放送センター



NHK放送総局・幹部室



放送総局長、特別班KAGEも地下通路へ到達しました…

あと数分もあれば米津の身柄を確保できるかと…


そうか… くれぐれも手荒い真似は控えるように…

傷ひとつ付けずに確保するのだ…


ほ、放送総局長… 会長からテレビ電話が…


やれやれ… またか…

つなぎたまえ…



財前君、いつになったら米津の身柄を確保できるのだね?


会長… もう間もなくのことかと…

現在、特別班KAGEが…


まったく君たちに毎年どれだけの予算をかけてるのかわかっているのかね?

こういう時に役に立たなかったら何のために食わせているのか…


わかっております会長…

必ずや米津玄師の身柄を…


主題歌の歌詞とミュージックビデオの解析はどうなっているのかね?

いつになったら報告が上がってくるのだ?


そちらの方も解析班が総力を挙げて取り組んでいるところ…

間もなく詳細なレポートが出てくるかと…


間もなく間もなくと言うが、ちっとも間もなくだった試しががない…

何のために大金をかけて「あの男」を招聘したのだ…

聞けば、なかなか本題に入らずに、ダラダラと無駄話ばかりしているというではないか…


あの男は、あえて無駄話をしているように見受けられます…

おそらくあの男の無駄話は、無駄話ではないのです…


どういうことだ?


私にもよくはわかりません…

ただ、すでに「あの男」の中には明確な「答え」が出ているように思えます…


は? すでに答えが出ている?

それならなぜすぐに報告しない?


その答えの「答え合わせ」をするためでしょう…

そのために、わざと時間をかけている…

つまり、あえて米津玄師を泳がせているとしか…


何だと?




NHK放送センター
秘密の地下通路


カプローニさんもあっという間に見えなくなった…

まあ、新郎が結婚式に遅刻したら大変だから、急ぐのも無理はないか…


「うっ… うう…」


ん? すすり泣くようなこの呻き声は?

誰かがとても不幸な人がいるようだ…

いったいどこから聞こえてくるんだろう…


「ここだよ… お前さんの足もと…」


俺の足元? あっ…



うっ… うう…


今度はずいぶんと小さい虎か…


トラではない…

私はハチ… スズメバチだ…


あ、ホントだ。よく見ると羽がある。これは失礼しました…

ところで、こんなところにうずくまって、どうかしましたか?

ずいぶんとお困りのようですが、俺に何かお役に立てることがあれば…


私の名はハッチ…

スズメバチのハッチ…


ハッチさん、はじめまして…

俺は米津… 米津玄師といいます…


犬歯?

お前さんのその細い顎で何が嚙みちぎれるというのだ?


いや、その犬歯じゃなくて…

玄人の玄に教師の師と書いて玄師です…


ずいぶんと偉そうな名前だ…

さぞかし頭もいいのだろうな…


いえ、それほどでも…

子供の頃は、お坊さんみたいな名前だって、よくからかわれていました…


移動動物園の?


移動動物園?


ありがたいお経を求めて移動動物園をしていたお坊さんのことだろう?


ああ、そういうことか…

猿と豚と河童を連れて旅をしていたから、確かに移動動物園みたいですね。

その園長さん、玄奘三蔵法師を縮めたら玄師です。


やはり知的な香りのする名前だ…

只者ではない…


ところでハッチさんは、いったいどうしてこんなところに?


偉い坊さんのように頭がいいなら、難しい新聞も読めるのだろうな…


新聞?


0120…468…021…


はい?


新聞といえば「毎日」に決まっとるだろう…

読むは毎日、毎日新聞…



毎日新聞がどうかしたんですか?


そこに置いてある毎日新聞を読めばわかる…

なぜ私がここでこんなにも嘆いているのかが…


あっ、この新聞の切り抜きのことですか?

どれどれ…



読めるか? お前さんにとっては異国の言葉だろうが…


はい… なんとか…

カプローニ伯爵とマーヤ嬢の結婚式がミラノにて行われる…

式を執り仕切るのはミラノ大司教さま…

この世紀の結婚を祝うため世界中から各界の著名人セレブが続々とミラノ入りしている…

すごい。大ニュースになってる。

カプローニさんのお相手はマーヤさんというのか…


私の妹だ…


いもうと?


花嫁のマーヤは、私の妹なのだ…


それじゃあ、ハッチさんにとってカプローニさんは義兄になるんですね…

義理のお兄さんが伯爵なんてすごいなあ…

おめでとうございます…


お、お、おめでたくも何ともないわっ!


え?


私は亡き母に報いるため、妹を女王にしようと努力してきた…

妹マーヤを母のような立派な女王にして、失われた我らの国家を再建しようと命を捧げてきたのだ…


あなたたちの国を再建?


それなのにあいつは… あのカプローニという男は…

たかが伯爵の分際で、我らの希望、プリンセスマーヤを横取りするとは…


カプローニさんが、あなたの妹さんを強奪した?

そんなに悪い人に見えなかったけどなあ…


人は見かけによらないと言うだろう?

お前さんも、すっかり騙されたのだよ…

あいつの自慢の飛行機だって、元はと言えば人殺しの道具…

なぜもっと早くあいつの本性を見抜けなかったのか、悔やんでも悔やみきれん…


だけど、ハッチさんの思い違いかもしれませんよ…

マーヤさんだってカプローニさんと無理やり結婚させられるんじゃなくて、心から愛してるんだと思います…

きっとカプローニさんは、あなたたちの国家再建に手を貸してくれるはずです…


そうなのか?


ええ。きっとそうですよ。

二人を信じましょう…


信じる、か…

大嫌いな言葉だけど、お前さんが言うと違って聞こえてくる…


人を疑って生きるより、人を信じて生きる方が楽しいでしょ?


お前は… いいやつだな…

お前さんの言うことは、すべて正しいように思えてきた…


いや、まあ、責任は持てないですけどね(笑)


しかも何だか他人とは思えない…

特にそのカツラ…


カツラじゃなくて地毛です。


地毛なのか? すごいな…


よくからかわれたりネタにされるんですけどね…

♬ほら長い前髪で前が見えねえ♬って(笑)


お前さんは… 歌を歌えるのか?


ええ、まあ一応…


それじゃあ、詩人なのか?


詩人というほどのものでもないですが、詩はよく書きます…

それが仕事なので…


詩を書くのが仕事なら詩人ではないか!

それならひとつ相談がある!


相談? 何ですか?


ぜひ私の詩を聞いてほしい!


ハッチさんの詩を?


お前さんは詩の玄人、詩の教師、詩の求道者玄奘三蔵法師だ!

ぜひ私の作った詩を吟味してもらいたい!

よろしいか?


ええ、まあ… どうぞ…


では行くぞ…

オッホン… オッホン……


どうしました? 喉の調子でも悪いのですか?


そうじゃない… 合図を…


合図?


出だしのフレーズを… 切り出すタイミングがつかめない…


あ、なるほど…

歌でも最初にカウントとか合図を入れますもんね。

ドラムがスティック4回叩いたり、ギターがカッティングしたり。


そう… 合図をください…


いいですよ。では行きます。

あ、ワン、ツー、スリー、フォー!


ぼくたちはこの街じゃ
夜更かしの好きなチェシャ猫
本当の気持ち隠している そう青芋虫

朝寝坊の帽子屋 徹夜明けの赤目のウサギ
誰とでもうまくやれるコウモリばかりさ

見てごらん よく似ているだろう 誰かさんと
ほらごらん 吠えてばかりいる 素直な君を…


ストップ、ストップ、ストップ!


な、なぜ止める? ここからいいところなのに!


だって… どこかで聞いたことある詩だから…


この私が人の作品をパクったとでも?


そうじゃないですけど、どこかで聞いたような内容だと…


そりゃあ、先生の考え過ぎ、気のせいでしょう。

私と違って先生は博学でいろんな詩を知っているから、ちょっとした共通点にも反応してしまうんですよ。


そうなのかなあ…


ちなみに詩の題名は『ZOOTLEG』というんですがね…


ズートレッグ?


動物園と海賊版の造語ですよ先生。

私が考案しました。先生もどうぞ使ってください。


題名に「海賊版」が入っているなら、やっぱり誰かのパクり…


実はね先生、お恥ずかしい話ですが、この詩が出版される時の表紙絵も考えてあるんですよ。


詩集の表紙絵?


首をはねられた人間の絵です。


え?


先生は親父ギャグもお上手だ。

私の詩集が出版されたあかつきには、ぜひ帯に先生の推薦のお言葉をお願いします。

「全昆虫が泣いた」とか… 「世界を震撼させる禁断の処女作」とか…


なぜ詩集『ZOOTLEG』の表紙絵は「首をはねられた人間」なんですか?

どこからそのアイデアを?


妙なことを聞きますなあ先生は…

なぜって、決まってるでしょうが…


なぜなんですか?


ミラノに行けばわかりますよ…

この道をまっすぐ進んでミラノへ…


ミラノに?


この道を行けばどうなるものか
危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし
踏み出せばその一足が道となり
その一足が道となる
迷わず行けよ 行けばわかるさ


その詩も聞いたことがある…


さすがは先生だ。バレましたか。

今のは『オズの魔法使い』です。


そうだっけ?


それでは先生、お気をつけて…

ミラノで妹にあったら、よろしくお伝えください…

兄はお前の幸せを心から願っていると…


直接言えばいいじゃないですか。妹なんですから。

ハッチさんも行きましょうよ。


いや、私は行けない。


どうして?


我々ハチの世界には、こういう詩があるんです…

真っ当なハタラキバチにはなれず、ずっとフラフラ遊んで暮らしているオスの悲哀を歌った詩が…


俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ
わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前が喜ぶような
偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく
今日も涙の 今日も涙の日が落ちる
日が落ちる


自慢の妹に会いに行きたいけど、肩身が狭くて会いに行けない…

ハチの世界も、いろいろ大変なんですね…


正直な話、先生が羨ましいですよ…

私も今すぐハチをやめて、先生みたいになりたい…


やめたらいいじゃないですか、ハチの人生を。


ハチを、やめる?


俺と一緒にミラノに行きましょう。

そして大司教さまにお願いして、人間にしてもらうんです。


先生… 何かの話と混同してなさる…

大司教さまは聖職者であって魔法使いじゃないんですよ…


あ、そっか…


そもそも大司教さまだって人間じゃ…


え?


いや、なんでもありません…

こっちの話で…


????


さあ、もう油を売ってる時間はありませんよ。

急がないと結婚式に遅刻してしまう。


そうですね…

別に結婚式に行くためにここへ来たわけじゃないけど、何だかもう参列しなければならないように思えてきた…


それじゃあ、くれぐれも大司教さまに粗相のないよう、お気をつけて…

またどこかでお会いしましょう!さよーなら!


ハッチさんも…

さよーなら!またいつか!



つづく




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