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コーエン兄弟・徹底解剖

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#音楽

「シドニー・ポラック」『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』徹底解剖17 (最終回)

さて、引き続きコーエン兄弟『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』に隠されたベートーヴェン交響曲第9番『歓喜の歌(ODE TO JOY)』を見ていこう。 前回を未読の人はコチラをどうぞ! 今回もラストシーンに関する解説やさかい、ネタバレが気になるお友達は、ここまでにしといたほうがええ。 さて、『歓喜の歌』の4分から5分にかけてからやな。リズムが威勢のいいマーチ風になる部分や。 ここはわかりやすいね。 ハイの夢の中でネイサン・ジュニアがアメリカンフットボ

「ODE TO JOY(第9:歓喜の歌)」『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』徹底解剖16

コーエン兄弟は『WAY OUT THERE』の歌詞を元に映画『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』のストーリーを構築した… せやけど、そこには「大事なこと」が欠けとったんや… 『WAY OUT THERE』は典型的な「孤独な放浪者」の歌… 淋しさを隠し、強がってみせる「痩せ我慢」の歌や… 肝心のハッピーエンド要素がゼロやった… 詳しくは前回をどうぞ。 その欠けていた「大事なこと」を補うのが、ベートーヴェンの交響曲第9番なんだよね。 だからコーエン

「WAY OUT THERE」『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』徹底解剖15

さて、最後にこの映画のテーマソング『WAY OUT THERE』について解説しよう! めっちゃ張り切ってるやんけ。 僕、やっぱり歌解説が一番好きなんだ。 音楽が好きなんだね。何だかウキウキしてくるんだよ。 まあ確かにこの曲は楽しいよね。一緒にヨーデルしたくなる(笑) せやけど歌詞も無いのに解説のしようがないやろ。 っつうか、なんでコーエン兄弟はヨーデルと口笛だけのインストにしたんや? 元々この曲には歌詞ついとったやんけ。 歌詞を入れたら、映画を観てる人たち

「ROSE CONNELLY a.k.a. DOWN IN THE WILLOW GARDEN」『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』徹底解剖13

さて、映画『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』で子守唄として歌われ、ラストシーンでもBGMとして流れる曲『DOWN IN THE WILLOW GARDEN (ROSE CONNELLY)』について解説しよう。 『DOWN IN THE WILLOW GARDEN』VANDAVEER 愛する女性を殺してしまった男と、息子の死刑を悲しむ父の歌だなんて、ホントなの…? 女に毒を飲ませ、ナイフでめった刺しにして川に捨てた男が、処刑台に向かう男の歌やで… ハ

「失われた息子たち」『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』徹底解剖12

さて今回は脱獄兄弟ゲイルとエヴェルについて解説しよう。 前回を未読の人はコチラをどうぞ! あの脱獄シーンは迫力あったな。富田林署の間抜けな逃走劇とは大違いや。泥の中から現れるんやで。 そんで地上に這い上がって、雨の中、雄叫びをあげる… 全身ドロドロの姿と、おドロドロしい音楽が相まって、すっごくカッコよかった! そして弟のエヴェルを泥の中から引っこ抜くんだ(笑) もうタイトルの時点でバレバレやけど、この兄弟のモデルはアダムとイブの息子「カインとアベル」やな。

『ブラッド・シンプル』徹底解剖1「フォーエバーヤング映画保存協会」

さて、コーエン兄弟のデビュー作『BLOOD SIMPLE(ブラッド・シンプル)』を解説するよ。 この自主製作映画でコーエン兄弟は一躍名を上げたんだけど、それもうなずける。実に脚本が素晴らしいんだ。 ざっくりと映画の概要をまとめたプロローグ編を未読の人は、まずそちらからどうぞ。 ポイントは、この映画が旧約聖書『士師記』の「デボラの歌」をベースにした物語になっとる…っちゅうところやったな。 映画の予告編動画も一応見ておこうね! まずは主な登場人物を紹介しよう。 ジ

『バートン・フィンク』徹底解剖~エピローグ前篇~「大淫婦バビロン」

前回の「Qの証明」は面白かったな。 さあ♪かき鳴らせ♪証明の歌~♬ 第30回「BARTON FIN”Q”」 よう発見したわ、マジで。 なにげに映画解説史に名を残すんとちゃうか、このシリーズ。 『Q資料』で全てのピースが収まったよね。 最初っからバートンは、ゴーストライターになる運命だったんだ。『Q資料』の作者みたいに… 人類史上最も有名な聖典に、あんな隠された経緯があったなんて驚いたな! そこ重要だよ。 コーエン兄弟は、エピローグに「そのネタ」を引用した

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖30(最終回)「BARTON FIN”Q”」

やっほ~!やっと最終回だ! 「やっと」は可哀想やろ。 せめて「とうとう」とか「ついに」にしとけ。 前回を未読の人は、まずコチラからどうぞ… 第29話「The Life of the Mind」 『ウエストワールド』を引き合いに出しての解説は面白かったよ。 ドイツ語のアナグラムもな。 オッサン、何気に教養や洞察力があるのに、こんなアホなもん書いとるから損しとるんとちゃうか? 僕って「照れ屋さん」だから、まじめなこと書こうとしても、ついついこうなっちゃうんだよ

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖26「アナグラム」

さて、今回は「ロス市警の刑事」のシーンからだね。 前回を未読の方はコチラ! 第25回「あんたらマンハッタンに何しはったん?」 あのシーンは、めっちゃ不吉な予感をさせるシーンやったな。 この日の朝リプニックが発した「ユダヤ人への侮辱発言」と、直前に露見した「LAでの出来事=聖書の内容」という衝撃的事実が、バートンの精神不安に拍車をかけたんだ。 だから新しい「妄想キャラ」として、あの「二人のロス市警刑事」が登場したというわけだね。 やっぱり刑事もバートンの妄想キャ

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖24「箱」

さて、リプニック邸訪問の次のシーンを解説しようか。 その前に、前回を未読の方はコチラ! 第23回「Lower East Side」 ユダヤ人のリプニックが「我々の先祖は、ひとりの幼な子から教えられた」と言ったので、バートンの頭の中で妄想がさらに膨らみだした。 この「幼な子」という表現は『マタイによる福音書』第11章25節に対応しているんだね。 11:25 そのときイエスは声をあげて言われた、「天地の主なる父よ。あなたをほめたたえます。これらの事を知恵のある者や賢

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖23「Lower East Sideってどこ?」

さて、今回は「8時台」の解説だね。 その前に、前回を未読の方はコチラ! 第22回「7時台」 さあ、何が書いてあるんや! 『ローマ人への手紙』第8章には! まあ、そんなに焦りなさんな。 第8章は39節まであるんだけど、その全部が使われるわけではない。 「15~29節」が重要なんだね。 なんで特定できんねん? あ、そっか! ガイズラーのメモだ! その通り。 あの時刻と番地は「ネタに使われる範囲」を表していたんだね。 コーエン兄弟が「ここテストに出ます

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖22「7時台」

さて、今回は「7時59分」の解説からだね。 その前に、前回を未読の方はコチラ! 第21回「蚊」 もう無駄話ナシでガンガン進めようや。 OK。僕もそろそろ次の作品に移りたいと思ってたところだ。 noteで中断してるシリーズも、こっちに引っ越しして再開させなきゃいけないしね。 カズオ・イシグロ… クリストファー・ノーラン… ルネ・クレマン… 他にもまだあったような気がするな… しかしこれじゃあ、体がいくつあっても足りないね(笑) ようやるわホンマ。1円に

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖14「妄想ピクニック後編~オールド・ブラック・ジョー」

さあ、いよいよ映画『バートン・フィンク』の山場ともいえる重要なシーンだ! 「妄想ピクニック」の後半、W.P.メイヒューが歌う『オールド・ブラック・ジョー』の徹底解説だよ! 日本語字幕や吹替えではなぜかコーエン兄弟の意図が完全にスルーされてしまった「問題の場面」なので、日本の映画ファンは必見だぞ! その前に、前回を未読の方はコチラをどうぞ。 第13回「預言者たちの午後」 さて、秘書兼愛人のオードリーに「汚物」扱いされたW.P.は、ムキになって強がりを言った… 「

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖12「妄想ピクニック前編~オードリーの秘密」

さて、今回は映画『バートン・フィンク』の最重要シーン「バートン、W.P.メイヒュー、オードリーによる妄想ピクニック」を徹底解説しちゃうよ! シーンの冒頭3秒間で行われるクロスフェードをこれでもかと解説した前回はコチラ! 第11回『The Bathing Beauty』 シーンの「つなぎ目」をここまで語るやつ初めて見たわ。 しかもテクニカルな話は一切なしで。 ふふふ。 さて、バートンの部屋に飾ってある『The Bathing Beauty(水浴をする美女)』がフ