コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖24「箱」
さて、リプニック邸訪問の次のシーンを解説しようか。
その前に、前回を未読の方はコチラ!
ユダヤ人のリプニックが「我々の先祖は、ひとりの幼な子から教えられた」と言ったので、バートンの頭の中で妄想がさらに膨らみだした。
この「幼な子」という表現は『マタイによる福音書』第11章25節に対応しているんだね。
11:25 そのときイエスは声をあげて言われた、「天地の主なる父よ。あなたをほめたたえます。これらの事を知恵のある者や賢い者に隠して、幼な子にあらわしてくださいました。
いま気付いたんやけど、「W.P.メイヒュー」の「Mayhew」っちゅうのは「マタイ(Matthew)」とよう似とるよな。
あ、ホントだ。
きっとマタイを想起させるためなのかもしれないね。
いろんな仕掛けが施されてるなあ!
ところで『マタイによる福音書』第11章って、どんな章なの?
洗礼者ヨハネとイエスの関係について語られている章だよ。
獄中のヨハネの言葉を弟子がイエスに届けるシーンから始まって、「洗礼者ヨハネは預言者エリヤの再来である」ということが語られ、最後に「重い荷物と軽い荷物」の逸話で幕を閉じるんだ…
これって…
そう。今から解説するリプニック邸訪問の次のシーン「チャーリーとバートンの別れ」そのまんまだね。
そしてリプニックの秘書ルーが「クビ」にされたことで、バートンの頭の中に『マタイによる福音書』第14章で描かれる「ヨハネの首」のイメージが湧いてきたんだ。
その「クビ」って「fire」でしょ…
「クビ」と「首」って日本人にしかわからない駄洒落…
この映画が作られたのは、日本がバブル真っ盛りの頃だ。NTT1社の時価総額が、ドイツ株式市場と香港株式市場を足した額より大きくて、皇居の地価がカリフォルニア州全体の地価より高かった時代だ。
今の映画が中国市場を意識して作られるように、当時の映画が日本市場を意識して作られていても何もおかしくない。
特にコーエン兄弟はデビュー作の『ブラッド・シンプル』から日本語の駄洒落を使ってるくらいだからね。
まあ確かに外国のアーティストが日本に関するネタを使ってくれると僕らは大喜びするもんな…
さて、「チャーリーとバートンの別れ」シーンは、途方に暮れるバートンの姿から始まる。
オードリーの血痕が残されたベッドに向かって、バートンは首をうなだれていた…
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