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「ROSE CONNELLY a.k.a. DOWN IN THE WILLOW GARDEN」『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』徹底解剖13

さて、映画『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』で子守唄として歌われ、ラストシーンでもBGMとして流れる曲『DOWN IN THE WILLOW GARDEN (ROSE CONNELLY)』について解説しよう。

『DOWN IN THE WILLOW GARDEN』VANDAVEER

愛する女性を殺してしまった男と、息子の死刑を悲しむ父の歌だなんて、ホントなの…?

女に毒を飲ませ、ナイフでめった刺しにして川に捨てた男が、処刑台に向かう男の歌やで…

ハイが悪夢にうなされたのも無理ないわ。縁起でもない。

っちゅうか、この歌を赤ん坊に歌うエドはどうゆうセンスしとんねん…

センスは悪くないと思うよ。

だってこの歌って…

イエスの「最後の晩餐」から「ゴルゴダの丘での十字架刑」までの出来事を歌ってるものなんだ…

ハァ!?

だからエドは無意識のうちにこの歌を子守唄として歌っていたんだね。

前にも言った通り、表向きこの映画は「イースター(復活祭)シーズン」の映画として作られている。

誘拐される赤ちゃんネイサンJr.がイエス・キリストの役割になっているんだよ。

ネイサン・アリゾナ氏の家から「水曜の夜」に姿を消し「金曜の深夜」に帰ってきた。

姿を消してから「二日後」、つまり「三日目」に再び現れたということだね。

なるほど…

イエス・キリストの「復活」と同じ構造になっていたのか…

木曜の夜にハイがコンビニ強盗をした際、店員の若者に銃で反撃されるんだけど、1発は頭部に命中したかに見えた。

でもなぜか当たってなかったんだよね。それ以降も銃弾を雨あられのように受けるんだけど、なぜか1発も当たらない。

実はあれ、聖書にあるイエスの言葉によるものなんだ。

最後の晩餐の後のゲッセマネでの祈りの場面で、イエスが天の父に訴えかけるセリフだ…

ルカ17:12
わたしが彼らと一緒にいた間は、あなたからいただいた御名によって彼らを守り、また保護してまいりました。彼らのうち、だれも滅びず、ただ滅びの子だけが滅びました。それは聖書が成就するためでした。

ネイサン・ジュニアのお陰で死ななかったのか!

しかも「ただ滅びの子だけが滅びた」って、賞金稼ぎスモールスのことじゃんか…

コーエン兄弟ってホントに面白いよね…

ということで、歌の解説を始めよう。

まずはあの歌の来歴から。

あの歌が最初に記録されたのは1811年のアイルランドで、タイトルは『ROSE CONNOLLY』といった。

典型的な「Murder Ballad」、殺人事件と犯人の処刑を描いた歌だね。

CONNOLLY?

「CONNELLY」とちゃうんか?

「CONNOLLY」も「CONNELLY」も、どちらも「コノリー」と発音するんだ。

たぶん「CONNOLLY」のほうがアイルランド風で、「CONNELLY」は英語風なんだろうね。

でも、なんでアイルランドではこんな歌が歌われたの?

残虐犯の処刑と、それを悲しむ犯人の父親の歌だなんて…

アイルランドは長い間イギリスの植民地状態に置かれていたからね。

ただでさえ痩せた土地なのに、過酷な年貢に苦しめられていたんだ。領主や地主は絶対的存在で、アイルランドの農民は奴隷同然の扱いだったんだよ。

だから悲惨な事件は後を絶たなかった。貧しさゆえの強盗殺人だったり、義憤からの殺人事件だったり…

そんな悲しい出来事の数々を、人々は歌にして語り継いだんだと思うよ。

だから歌の中で父親は「金さえあれば」って悔やむんだ…

そして19世紀中頃に発生した「ジャガイモ飢饉」で、アイルランドはどん底まで突き落とされる。

20%以上の国民が餓死し、多くの人々が生き残るために海を渡った。アメリカにも数十万人のアイルランド人が移民したんだ。

その中にケネディ大統領の先祖もいたんやったな。

そうだね。

だけどケネディ家にみたいに新天地で大成功したのはごく一部の人たちだ。

多くのアイルランド人は仕事と土地を求めてアパラチア山脈へと向かった。炭鉱や開墾といった厳しい肉体労働に従事したんだね。

そして彼らは故郷の歌「Murder Ballad」をアメリカの地でも歌った。新天地アメリカでの辛さを、アイルランド時代の辛さに重ね合わせたのかもしれない。

それが脈々と歌い継がれ、エヴァリー・ブラザーズやアート・ガーファンクルなど著名な歌手もカバーし、この映画でも使われることになったというわけだ。

なるほどな。

せやけどなんで『DOWN IN THE WILLOW GARDEN』っちゅうタイトルに変わったんや?

それはね…

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