コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖12「妄想ピクニック前編~オードリーの秘密」
さて、今回は映画『バートン・フィンク』の最重要シーン「バートン、W.P.メイヒュー、オードリーによる妄想ピクニック」を徹底解説しちゃうよ!
シーンの冒頭3秒間で行われるクロスフェードをこれでもかと解説した前回はコチラ!
シーンの「つなぎ目」をここまで語るやつ初めて見たわ。
しかもテクニカルな話は一切なしで。
ふふふ。
さて、バートンの部屋に飾ってある『The Bathing Beauty(水浴をする美女)』がフェードアウトし、重なるようにW.P.メイヒューの著作『NEBUCHADNEZZAR(ネブカドネザル)』がフェードインする。
自著をバートンにプレゼントするため、W.P.が直筆メッセージを書いているシーンだったね。
どんなことが書かれているんだっけ?
訳すとこんな感じだね。
「ペリシテ人に囲まれての滞在において、拙書があなたの慰めとならんことを」
ペリシテ人?
カリフォルニア人とかロサンゼルス人じゃなくて?
ペリシテ人っちゅうのは、聖書に出て来る異民族や。ユダヤ人の宿敵やな。
その通り。旧約聖書では毎回ユダヤ人や神ヤハウェにボコボコにされるんだ。
『サムエル記』ではユダヤの至宝「アーク(聖櫃)」を奪ったがために、恐ろしい疫病に延々と襲われる。
ダビデは恋に落ちたプリンセスと結婚するために、100人のペリシテ人の陰茎の皮を剥ぎ取った。
またダビデはペリシテ人最強のゴリアテに丸腰で立ち向かい、落ちていた石を投げつけて倒し、その首を切り落としたんだよね。
『士師記』に登場するユダヤ最強の戦士サムソンに至っては、ロバの骨1本だけで1000人のペリシテ人を倒し、最後は3000人のペリシテ人を道連れに自爆した。
ああ、今年の2月にアメリカで公開されてた映画『SAMSON』で、虫けらのように殺されまくってた人たちか!
聖書でのこんな扱いもあってか、欧米社会では「芸術や文学などに関心を持たず無教養で即物的な人」のことを「ペリシテ人」と呼ぶんだね。今風に言うと「反知性主義者」のことだ。
つまりW.P.はこう言ってるんだよ。
「ハリウッドは低俗な人間ばかりでウンザリするだろう。私の高尚な文学でも読んで気を紛らわせるといい」
せやけどW.P.はバートンの妄想キャラやさかい、こう考えてるのは…
そう、バートン自身だ。
ホームグラウンドだったニューヨークのブロードウェイ界隈の人たちと違い、ハリウッドの人間はまさに「ペリシテ人」だったんだね…
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