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人材ポートフォリオ策定、難所はどこにある?

人的資本経営の盛り上がりとともに、人材ポートフォリオ策定に取り組む企業が増えました。

しかし、実際に取り組んでみると、想定外の困難に直面することもしばしば。私もその一人です。

今回は、私自身の過去の失敗経験も踏まえ、人材ポートフォリオ策定における3つの難所を紹介します。




難所① 人材ポートフォリオの軸を定めたものの、それら軸の統合に苦戦する


人材ポートフォリオの策定は、人材をどのように分類するかから始まります。

このとき悩ましいのは「組織の置かれた環境や状況によって、設定する軸が異なる」ことではないでしょうか。単一事業ならまだしも、多角化事業を展開する企業では事業ごとに求める人材像が異なるため、軸も異なってきます。

この軸の違いは、後々、人材ポートフォリオを全社的に統合する際に極めて難しい状況を生むことになります。

例えば、A事業では「能力」や「成果」、B事業では「職種」と「レベル」で人材を分類するとしましょう。これらの軸を用いて人材ポートフォリオを作れたとしても、全社的に人材管理を行う際の軸として、そのまま活用できないかもしれません。

結果的に「全社の人材管理のために、軸を別で用意するか」「それぞれの軸を束ねる軸を新たに設定するか」などを選択することになります。ただ、全社人材管理で最適な軸を見出すのは至難の技です。

特に困難を極めるのは、中長期を見据えた継続的な運用に耐える軸を見出すことです。将来を見据え、事業ポートフォリオと連動した人材ポートフォリオを描くことが重要とわかっていても、それを見出すのは簡単ではありません。

そして、こうした難しさを抱える中で、結果的に陥ってしまうのが、"分類しやすい軸"に飛びついてしまうことです。こうした視点で軸を選択すると、さまざまな場面で不整合が置き、運用面で綻びが出てしまいます。


難所② 根拠なき人材像の定義と、片手落ちな人材の可視化に振り回される


軸を設定した後は、事業ポートフォリオに応じた人材像を定義していきます。例えば、「この事業にはどういう役割の人材が必要か」「どんなスキルを有しているべきか」などを明確にしていくのです。

ただ、ここで再び頭を悩ませるのは、その人材像の根拠づけです。しばしば「内外環境から戦略を作成し、その戦略を実現するために必要な人材を定義することが大切」と言われますが、その中身のロジックは「整合性があるかないか」という、個々の解釈によって幅が生まれるものになりがちです。

加えてそこで陥りがちなのは、その人材像の定義自体が、抽象度が高く、誰にでも当てはまりそうな要素を選んでいることです。例えば、「論理的思考ができる」「納得感のあるコミュニケーションが取れる」などの人材要件は、切り取り方によっては誰にでも当てはまる特性でしょう。

では、どうするのが理想なのでしょうか。ここで重要なのは、安易に抽象度を高めるのではなく、具体性と客観性を追求することです。この具体性と客観性の追求から逃げずに向き合い、それらを兼ね備えた人材要件を導くことができれば、育成や配置などの施策を行う際の明確な指針となりえます。結果、組織全体の人材管理も円滑に進む可能性が高まるでしょう。

また、既存人材の可視化においても、片手落ちな可視化に陥らないよう注意が必要です。

前提として忘れてはいけないのが、人材は動的で全体的な存在であり、静的で部分的なアプローチを用いた可視化は、必ずしも完全ではないということです。したがって、人事としてはその不完全さを理解した上で、可視化の取り組みを進めることが求められます。

例えば、アセスメントを活用する場合を想像してみましょう。適性検査、能力検査など、世の中にはさまざまなアセスメントが存在しますが、それらはその人材の一部分だけ切り取ったものに過ぎません。にも関わらず、そのアセスメントだけを見て、その人材を分かった気になるのは間違いです。

ここで大事なのは、可視化されたものはあくまで一部分であり、見えていない領域にも想像力を働かせ、全体像を捉える努力が必要だということです。これにより、より正確で包括的な人材管理が可能となり、組織の成長に寄与することでしょう。

難所③ 事業部門の声に引きずられ、全体最適の視点を欠いてしまう


さて、ここまで2つの難所を見てきましたが、最大の難所は、現場である事業部門とのすり合わせにあるでしょう。具体的には、「策定した人材ポートフォリオをどのように具現化するか」を考える際、採用、配置、育成といった実行段階で、現場の事業部門との調整が不可欠であり、最も困難を極めるということです。

特に、配置計画はしばしば平行線をたどることになります。たびたび議論になるのは、ハイパフォーマーな人材を抜擢です。将来の経営人材としてチャレンジなアサインメントを付与したい人事部門と、その人材を引き留めたい事業部門との間で、「全体最適」と「部分最適」の戦いが繰り広げられます。

この戦いで陥りがちなのが、人事側が「部分最適」に引っ張られてしまうことです。現場が持つ情報量は人事と比べて圧倒的に多く、かつ、その発言力は時に強いものです。こうした中で「この人材を異動させると事業が回らなくなる」と言われてしまうと、人事としては反論するのが難しいかもしれません。

しかし、人事は個々の事業部門のことも考えながら、それ以上に、組織全体の視点で人材配置を考えなければなりません。その主張に安易に引きずられることなく、真摯に意見を受け止め、全社視点でその人材異動が必要であれば、納得してもらうまでコミュニケーションを続けることが求められます。これは人材ポートフォリオ策定における最もチャレンジングで、胆力を必要とする場面と言えます。

これは一見、精神論のようにも聞こえますが、人を扱い、人を相手にしている以上、最後は胆力がものという世界です。これはある意味、人材管理の本質的な部分であり、このチャレンジを乗り越えさえ出来れば、人と組織の成長を促すことができるものと考えています。

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