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優秀な社員、特別扱いすべきか?ーー「I-deals」という新しい経営学のコンセプト

人材争奪戦が激化する昨今、優秀な社員を採用するのも引き留めるのも容易ではありません。

しかし、これらの社員を特別扱いし過ぎると、他の社員が不満を抱き、最悪、組織全体の雰囲気が悪化する可能性もあります。

人事の皆さんも近しい状況に置かれ、悩ましく思ったことはありませんか?




2000年代から本格的に始まった「社員の特別扱い」研究とは?


優秀な社員を特別扱いすべきかーーこうした問題が今、経営学の世界で注目されています。

このテーマは、2005年にアメリカの経営学者、デニス・M・ルソー(Denise M.Rousseau)氏が提唱した「I-deals」という概念から始まります。「特別扱い」を意味するidiosyncratic dealと「理想的」を意味するidealを合わせた造語で、社員の個別事情に留意するだけでなく、組織全体に良い影響をもたらすことを目指したものです*1。

身近な事例をもとに考えてみましょう。たとえば、皆さんの会社に非常に優れたエンジニアがいるとしましょう。

このエンジニアは他のエンジニアよりも3倍の成果を上げられる能力を持っていますが、午前中のパフォーマンスが高まらず、毎日、午後1時からの勤務を希望しています。なお、皆さんの会社の勤務時間は午前9時半から午後6時までとし、午前10時から午後14時まではコアタイムになっているとしましょう。

他のエンジニアも、実は大半が朝が苦手で、それでも9時半から働いている中、このエンジニアだけ特別な対応をするべきかどうか──皆さんが人事ならこうした状況にどう対応するでしょうか?


リスクを冒してまで、優秀な社員を特別扱いすべき?


さて、こうした問題を考える前に、改めて人事の役割を考え直してみましょう。

人事の仕事のひとつに「リソースの調達と配分」があります。具体的には、企業が戦略を実現するために必要な人材を採用し、事業の成功によって生じた利益を、各従業員に公正に配分するなどです。

こうした「リソースの調達と配分」では、ある程度、特別扱いも行われてきました。たとえば、配分においてはその人材の経験や業績に基づいて給与を設定したり、ポジションに応じて教育機会や特別手当を提供するなどです。「特別扱い」と言葉だけ聞くと違和感を覚えますが、冷静に見れば、特別扱いに近いことはやってきているのです。

ただ「I-deals」は、これまでの特別扱いとはその内容は異なります。これまでのアプローチでは、全ての従業員に均等な条件が適用され、特定の基準に基づいて評価され、配分が行われるという考え方が主流でした。しかし、I-dealsはこの考え方から逸脱し、従業員一人ひとりに個別の配慮をしようとするものです。そのため、はっきりと目に見える形で特別な扱いをした場合、組織に対する一定のリスクが生じる可能性があるのです。

すなわち、優秀な社員に特別扱いすべきか、という論点は、こうしたリスクを負ってまで取り組むべきものなのかどうかを冷静に見極めなければならないのです。

また、リスクを伴いつつも、特別扱いすることに十分なメリットがあると判断されるならば、組織として次に取り組むべき課題は、その特別扱いが周囲で受け入れられるようにアプローチすることです。そのとき、たとえば「特別扱いを受ける人が友人であること」「観察する人が、向組織的な志向を持っていること」「特別扱いの提供者である上司と観察者との関係が良好であること」「条件さえ満たせば、その特別扱いが観察者自身にも提供されうること」などが既知の条件として浮かび上がっていますが、今後の研究により新たな条件が明らかになる可能性があります*1。

いずれにせよ、我々実務家として心に留めておくべきは、特別扱いが必要な人材が現れた場合、自分なりの判断基準を備えていることでしょう。将来、このような状況に直面した際、皆さんはどのように対処しますか?

(参考文献)
*1 神戸大学「特別扱い(I-deals)」https://mba.kobe-u.ac.jp/business_keyword/18989/(2024年1月14日閲覧)

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