オフィス回帰は不公平の始まり?——「近接びいき」とは
皆さんの会社ではオフィス回帰は進んでいますか?その中で、出社する社員ほど評価されていませんか?
働き方が多様化する昨今、出社する社員をひいき目に見る「近接びいき」という現象が出てきています。
出社とテレワークの分断——「近接びいき」が引き起こす評価の偏り
「近接びいき」とは、オフィス回帰が進む中で、出社している社員がより評価されやすい現象を表現した言葉です。
この新語は、日本経済新聞などのメディアでしばしば取り上げられていますが、実は心理学の概念「近接性バイアス」から派生したものと考えられています*1。
「近接性バイアス」とは、"対面で会う機会が多かったり、接触時間の長い人や自分と関係の近い人、以前からの顔見知りの人などにより好感を持ち、無意識に高く評価する一方、接触機会の少ない人を低く評価してしまう現象"のことを言います(引用:コクヨ 働き方用語辞典)*2。
要するに、近くにいる人ほど無意識に好意を抱きやすいことと捉えても良いでしょう。
この「近接性バイアス」は誰が提唱したものか定かではありませんが、関連する概念や研究は数多く存在します。
その中でも、米国の心理学者ロバート・ザイアンス氏が提唱した「単純接触効果」が有名です。これは、接する回数が増えると、その対象に対して親しみを感じたり、好意を抱くという心理的現象です*3。
しかし、これらの学術的な背景を理解しなくても、顔を合わせる機会が増えるほど、人間関係が深まるというのは誰もが経験的に理解していることでしょう。
今回の「近接びいき」の現象も、オフィスに出勤するように指示された管理職が出勤回数を増やす一方で、部下たちは強制されない限り、出勤組とテレワーク組に分かれます。その結果、上司はオフィス出勤の部下との接触機会が増え、その部下に対する好意が増すという現象が起こっていると考えられます。
このように、オフィスに出勤することが評価されやすい状況を生み出してしまっているわけです。では、評価が偏らないためにも、上司と部下双方ともにどう対応すべきでしょうか?
オフィス回帰で浮かび上がる評価の問題にどう対応すべきか?
評価の偏りが存在すると仮定した場合、人事部門としてはその解決に向けて動きたいところです。しかし、これは一朝一夕に解決できる問題ではありません。
例えば、全社員に「明日からオフィス出社しましょう」と方針を出すだけでは解決は難しいでしょう。育児や介護などで以前のように出社できない社員もいるからです。また、特別な事情がなくとも、強制出社が心理的に負担になり、現場から不満が出るかもしれません。出社を命じる場合、そうした社員への対応も考慮する必要があります。
また、「近接びいき」が起こるということは、評価の仕組み自体に問題がある可能性もあります。評価方法に主観が入る余地があるため、管理職の評価スキルや評価プロセスそのものに改善の余地があるかもしれません。
このように、方針や仕組みなどの根本的な問題を探りつつ、同時に我々自身の問題にも目を向けたいところです。出社でもリモートワークでも、自分の成果が適切に評価されるためには、自己のパフォーマンスをしっかり説明することが必要です。自律を求められる昨今、正しく評価されるためのコミュニケーション能力は不可欠です。
オフィス回帰をきっかけに生まれた「近接びいき」は、これまでウヤムヤになっていた側面を明らかにしただけかもしれません。しかし、これは働く環境をより良くするためのチャンスでもあります。引き続き変化し続ける時代において、常に改善し続ける姿勢が何より大事でしょう。
(参考情報)
*1 日本経済新聞『令和なコトバ「近接びいき」 出社している部下を大事に』https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD236TW0T20C23A6000000/(2024年6月1日アクセス)
*2 コクヨ『働き方用語辞典「近接性バイアス」』https://www.kokuyo-furniture.co.jp/contents/dic-proximity-bias.html(2024年6月1日アクセス)
*3 日本の人事部「単純接触効果(ザイオンス効果)」https://jinjibu.jp/keyword/detl/1248/(2024年6月1日アクセス)
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