🚲【ゲストコラム】自転車冒険家・西川昌徳さん「私が旅をする理由」④〜MTBジャーニーで得たもの〜

2022年11月18日 19:16

オージーケーカブト公式noteです。
オートバイ用／自転車用ヘルメットのメーカーとして、各ジャンルのライダー、アスリート、個人やチームのヘルメットをサポートし応援しています。
いまKabutoが応援する、各シーンで頑張っている「人」を通じ、その方が関わる世界をより深く知っていただきたく、ご本人によるレポートやコラムなどを掲載しています。
今回は、競技ではなく自転車で「旅」をする、また自転車旅を通じて子どもたちとも関わり続ける西川昌徳（にしかわ・まさのり）さんに執筆いただきます。（第4回目/全4回予定）

大学卒業後から自転車旅をはじめ、これまで97,200km、37か国を走ってきた西川昌徳さん。小中学校での授業や講演活動も行う旅人。

オージーケーカブトnoteをご覧の皆さんこんにちは。
このコラムも最終回となってしまいました。

これまでこの子どもたちとの旅を企画する先に僕が見つめているもの、それから実際の旅の様子や、子どもたちとの旅で自分が苦労することについて書かせていただきました。（まだ見ていないという方、よろしければ下記バックナンバーも合わせて読んでみてくださいね。）

　最終回は、この旅をやってる僕自身が子どもたちと旅するなかで受け取ってきたものについて書いていこうと思います。
それは「好きなものを仕事に」とか、「社会のために」、とひと言で言い表せるものではなく、もっと根源的な、人が生きていくための何か、のような気がしています…。

👨‍👦旅は人を成長させる

まず、旅は人を成長させると言われますが、実際どうなのか、ちょっとそこについて書いておこうとおもいます。
これはもうほんとに毎回旅を終えて、旅のなかでお世話になった方々にご挨拶にうかがうときや、旅の話をするときに、
「旅のなかで子どもたち成長したでしょー！」
と言われるのですが、きっと僕がいちばん成長させてもらっているのではないかと思います。笑

預かった子と同じ数の「命」と向き合いながら、いつも決断と行動を迫られる状況で、自分の感覚と、経験の引き出しと、それから直感をフル動員する日々。それはまさに「生きること」を実感できるものだと思っています。
自分がいちばん成長させてもらってるというと大袈裟ですが、これだけ自分のすべてをもって向き合う経験をさせてもらっていることが本当にありがたいです。

2022年夏、小学生との北海道旅。雨のなか橋の下でテント泊をする僕たちのために、旅の卒業生家族が応援にかけつけてくれた。

もちろん、旅に参加した子どもたちはきっときっと大きく成長しています。けれどそれは、僕がなにかものさしで、はかるものではないといつも自分に言い聞かせています。
僕が彼らにこうなってほしい、ではなく、彼らのこうなりたい、それを全力でサポートすること。成長のものさしは、それぞれのなかにある、自分を信じることにつながる何かなのではないでしょうか。

だから僕は子どもたちと向き合うなかで、こうなったらOK！みたいなことを考えたことはありません。

「うちの子、旅から帰ってきてまるで人生が変わったかのようにがんばってます！」
というメンバーの親御さんからの報告をいただくこともあります。

「いやぁ旅を終えても全然変わってないなぁと思っていたんですが、こないだ学校の山登りのときに、あの子自分でゴミを拾いながらゴールを目指したそうなんです。帰ってきたから『これがマサヤン流だ』と教えてくれて。」というお便りを最近いただいて、とても嬉しかったです。

これはほんと自分自身についてもそう思うんですけど、人としての成長って、何かを経験したから、その日から誰もが分かるカタチで成長している、みたいなことばかりじゃないと思うんです。

もう少し、その子の心のうちに宿るような。
そっと息づいているような。
そして何かのきっかけがあったときに、それがパッと出てくる。気づけば行動してる。
みたいなことも人としての成長じゃないでしょうか。

旅を終えたメンバーたちは、それぞれの人生と向き合っていきます。そして、いつか
「ここががんばりどころ」
「不安だけれど踏み出せるだろうか」
みたいな瞬間が訪れたときに、僕たちがともに経験したあの旅のつらさや、それをみんなで乗り越えたときのなんとも言えない気持ちを思い出してくれたらと僕はいつも願って、旅のあと一人一人のメンバーを送り出しています。

🚴MTBジャーニーを通じて気がついたこと

このあいだ東京に行って、これまで一緒に自転車で旅をしてきた子たちと再会することができたんです。みんな緊張感のあった旅のときとは違って、家族の前ではとてもリラックスしてやわらかい笑顔でいて。
けれど旅のことを語るときなんかは、あー、この子はこうだったよなー！という表情を見せるんですよね。けれどみんなの人生はしっかりと前に進んでいて。いいなぁ、嬉しいなぁと素直に思うんです。こうして僕が旅を終えても家族だと思っている子たちが、それぞれの人生を歩んでいき、ときどきこうして会えること。それは僕にとって希望と呼べる以外のなにものでもありません。とっても幸せなことだなぁって思うんです。

2019年夏のタイからシンガポールを目指す旅。160kmを走り抜いたあとのやり切った気持ちを残しておきたくて記念撮影。

僕どこかで思っていたんですよね。子どもたちとの旅をはじめるときに。「指導者のようなものになることって。自分がもうプレイヤーとしてベストなパフォーマンスができなくなったから、一線を退いてその次の役割として選ぶものだって。」

自分ひとりのときには、その責任も、自分ひとりで背負っていたらよかったから。それこそ自分の思い通りに旅ができたんです。そんな世界をひとりで走り続けてきた僕が、子どもたちと旅をはじめてみたら。そりゃもう前回書いたみたいにね、大変なこと、心臓がはねるようなプレッシャー、それからモヤモヤがたくさんあるわけです。

けれど、子どもたちと旅をするなかで、ときどきほんとにご褒美みたいな瞬間がやってくることがあるんです。それはひと言で言うなら、よろこび、です。書いてしまうとあっさりしていますね。笑

これほんとこれビックリだったんですが、ひとつの旅のなかで、1回あるかどうか。メンバーみんなの気持ちや、状況や、いろんなものの歯車が合わさり、これだ！と心から感情が溢れる、そんな瞬間がやってくることがあるんです。

これまでちぐはぐだった子どもたちが、ある日の朝、なんだか分かんないんだけれどうまーく合わさるような意識が垣間見れて、そしてその日走りはじめて。そうしたら朝日がサーっと差してきて、それが子どもたちと自転車の輪郭の部分を金色にふちどって。子どもたちの背中には、決意のような、自信のようなものが宿っているんですよ。

わぁー！と思いながらそれを見ていて、気がついたら涙が止まらなくなっていたりするんです。1番後ろを走っているので、子どもたちにバレないのが幸いです、ほんと。ぼくが、よろこび、と呼んでいるのはこんな瞬間のことです。

それはそのまま自分が生きている実感であり、彼らに抱いている希望であり、そしてきっと世界は捨てたもんじゃない、きっとそこに光はある、と信じられる何かだったり。

これが僕がこの旅をするなかで得てきたものなのです。

2022年夏の小学生旅。河原でキャンプを張るときも、きれいに自転車やテントを並べる。

自分ひとりでね、それこそ思う存分旅をしてきたわけです。もうあれはやりたくないと思う壮絶なチャレンジも、死にかけたことも、そして心揺さぶられた感動する出会いや経験もたくさんありました。それが自分の生きた証のような、ご褒美のようなものだと思ってたんです。

けれども、その自分が経験していた感動を、子どもたちと旅するなかで自分に生まれる感動が上回ってくるなんて、思いもしませんでした。ほんと人生いくつになっても分からないことだらけです。

🌎僕にとっての”希望”🌟

いま読んでくださっているみなさんが何を"しあわせ"と呼ぶのかは分かりません。
僕が10年以上旅をして、出会ってきた世界には、夢を語る、夢を叶える、そんな日本では当たり前と思われている人生の歩みかたが、当てはまらない人たちもたくさんいました。
経済的。
宗教的。
その他さまざまな理由で。
出会って来た方々の人生は、いま日本で生きてる僕たちのそれと比べて制限されていました。

2007年ユーラシア横断を目指す自転車旅で訪れたカンボジアの小学校にて。あまりに楽しそうに声を上げる子どもたちを近くで見たくて立ち寄ると学校中の子どもたちに囲まれた。

けれども、そんな環境で出会って来た方々の目は、笑顔は、光っているように思いました。
もしかしたら、自分が夢を叶えたり、思い描く生き方をすることだけが "しあわせ" な人生じゃないんじゃないかって。

彼らと出会い、心揺さぶられた僕は思ったんです。

どんな環境で生きる人たちにも、その生を輝かせる共通した何かがあるんじゃないかと。

僕は、それは「希望」なんじゃないかと思ってます。

2017年の海外遠征。メキシコから旅をスタートし、半年かけてコロンビアまで旅をした。ゴールの首都ボゴダを手前に、地元のサイクリストと出会いともに走った。

メキシコから南米を目指す自転車旅の途中。食堂の家族と仲良くなり、その日はここで泊めていただくことに。

自分が関わっている誰かに希望を抱くこと。
この世界に希望をいだくこと。
言葉で書くとなんだかお堅い感じですが。
ああだったらいいな。こうだったらいいな。こうなっていてくれたらいいな。みたいなゆるやかなものでいいから希望を抱き、それぞれの人生を生きること。
僕はそれが人を輝かせるんじゃないかなって思うんです。