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“初恋の概念”を演じる松村北斗

11月に入り、“俳優 松村北斗”ラッシュが起こり、すでに供給過多でパンクしそうなので文字に起こしていこうと思う。本日『きのう何食べた?』を観て、稔さんと田渕くんのギャップに思考がぐちゃぐちゃである。


今日は“俳優 松村北斗”が絶賛好演中の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』、雉真稔役の松村北斗について語りたい。特に第1週「1925-1939」で演じた稔さんに注目したい。(ネタバレを含むのでご注意ください。)

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今回松村北斗が演じる雉真稔という役柄は、家業である繊維業を海外に展開させることを志し、大阪の商科大学に通う大学生。地元で有名な名家・雉真家の跡取りで英語が堪能な青年である。主人公の安子と出会い、安子の運命を動かしていく…。


放送前、この役の紹介を見ただけで、上白石萌音さん演じる主人公 橘安子の相手役となり、恋に落ちていくことは想像していた。昭和という時代の「王子様」的な役柄を松村北斗がどう演じるのか。映画『ライアー×ライアー』でも王道ではない役柄であったことから、とても楽しみにしていた。


そして松村北斗が出演した11/3(水)の第3話。
想像を遥かに超えた雉真稔がそこにはいた。
まだ松村北斗ファンとして歴が浅い私は、松村北斗というと演じる役柄としては少しクールなイメージのものが多い印象を持っていた。
しかし今回の雉真稔はどうだろう。爽やかすぎて眩しい。それでいて包み込むようなあたたかみのある青年がそこにはいた。まるでジブリの世界から切り取ってきたかのような、向こう側が透けて見えるのでは?とすら思うほど爽やかな存在として、主人公の人生に“風を吹かせている”のだ。


何がここまで私たちに爽やかかつあたたかみを感じさせるのか。


今回の朝ドラは100年のストーリーを描くことから、ストーリー展開のテンポが速く、無駄な描写が一切ない。計算し尽くされた描写で構成されている。そのため、物語の中で雉真稔という人物についても多くは語られていない。安子の幼馴染の勇のお兄さんで、地元の名家の長男で跡取り、大阪の大学に通ってる、そんなところだ。そのうえ、稔の台詞というのは第1週の時点では、基本的に安子からの質問に回答する稔や安子の話を聞く稔という構図が多く、稔が自らの想いを言葉にしたシーンは、喫茶店で家業を継いでいつか欧米と取引をしたい、という箇所だけだったように思う。
だが、不思議なことに、それでも雉真稔という人となりが伝わってくるのだ。


そこに私は“俳優 松村北斗”の成長と変化を感じた。


1話につき、最低でも6回は観た。雉真稔という人間を松村北斗がどう解釈し、演じるためにどう自分に落とし込んだのかどうしても知りたかった。(残念ながら今回そこに着目したインタビューがあまりなかった。松村北斗の出演が終わるタイミングで是非期待したい。)
何度も観た結果、視聴者に役柄を伝える上で、今回いちばん試行錯誤されているのは台詞以外の部分だと感じた。表情、立ち振る舞いをはじめとしたト書きに書かれているのかもしれない内容や「稔だったらこうするだろう」という稔の解釈の体現である。
繰り返し観る中で、良い意味で違和感というか、「ん?」と思ったのが、「松村北斗ってこんなに表情豊かな演技をするっけ?」ということだった。台詞と台詞の間の表情の変化はもちろん、目や眉、口角の動かし方、呼吸のタイミング、全てにおいて過去の作品と比べてもバリエーションが多く、それでいてすごく自然なのだ。
正直、役柄もあったとは思うが、映画『ライアー×ライアー』の高槻透の時は自然だとは言い切れない表情もあったように思う。だが今回は完全に稔として存在しているのだ。
元々演じる役の解釈をしっかりするタイプの俳優であり、かつ憑依型の方なのかなとは思っていたが、ここまでだとは思わなかった。


稔というのは英語やジャズなどこれまでに出会ったことのないものとの出会いに安子を導き、英語を話すことや自転車に乗ることなど安子ができなかったことを一緒に叶えてくれる、未知との遭遇を与えてくれる年上の青年だ。そんな青年に憧れを持たない人はいないだろう。そして自分の知らないことを教えてくれ、携えてくれる人を頼りにし、お兄さんのような存在から恋人に昇格していくのは自然な流れだ。
同時にここまで包容感を持って、人を導いていく印象を与えるためには台詞だけでは限界がある。それを叶えているのが、松村北斗が持つ雉真稔という人物の解釈と、それを表現する表情や立ち振る舞いといった余白なのだと思う。


実際少ないながらも松村北斗が雉真稔を解釈した内容がインタビューの中にあった。

稔は長男で僕自身は次男だったというのが実は自分の中で大きな違いでした。「カムカムエヴリバディ」は稔が長男だということが大切な作品ですが、僕は26年間「弟」としてしか生きてきていないので、それがすごく邪魔になるだろうなと感じていました。
妹や弟がいないので、弟を愛でるという感覚を味わったことが実はないんです。自分が兄として慕われることもないですし。そこが、大きな違いかなと思います。長男役は完全に空想の世界でした。稔と僕自身の似てるかなと思う部分もあるんですよ。きっと稔自身は、自分にはある程度「あそび」というか、緩やかさもあると思っているんだろうけれど、周りからはすごくしっかりしているように見られているし、「真面目だね」「頼りになるね」と言われてその言葉に押し流されるしかない瞬間も多いのかなと思うんです。僕もすごく派手な性格というよりは「大人しそうだね」「物静かそうだね」と言われるんですが、自分の中ではそうではないので本当はもっと声をあげたいし、「普通にふざけるんだぞ」という思いもあって。
だけど、しっかり者でいなきゃいけないのかなと思う瞬間もあったりします。その苦しさは、少し似ているかなと思います。


長男であること、ひいては誰かを導く存在であることは完全に空想の世界だったというんだからびっくりである。それであれだけの表現ができるのは松村北斗の努力と才能を感じる。と同時に「周囲の期待どおりでいなければ」と思うことがあるという点を共通点として挙げているのが、下積み時代が長い松村北斗らしい。
自分との共通点をいろんな角度から探し、引っ張り出して、人物を理解し、自分に落とし込むということを徹底して行ったからこそ、空想の世界をあそこまで体現できたのだろう。


第3話、第4話までは安子を導く役割を果たすべく存在した稔。それは未知なる世界、英語やジャズ、自転車に乗ることで見える景色だけではなく、“稔さん”という初恋に命を吹き込んだ存在にも一点の曇りなく導いたといえるだろう。稔の導きに引かれ、安子が稔のもとに近寄れば近寄るほど、恋というこれまで経験したことのない感情にも出逢っていく。その姿は、上白石萌音さんの演技力はもちろんだが、松村北斗の演技がリードしているようだった。「恋に落ちる」という事象が起こるために必要な要素を稔の台詞ではなく、表情や立ち振る舞いにぎゅっと詰め込み、体現し、安子だけでなく視聴者をも魅了した松村北斗は“初恋の概念”を演じきったと言えるだろう。

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そんな概念に感情が芽生え、一人の人間として存在し始めたのが第5話だった。
松村北斗自身もこの第5話に関しては、

「素敵すぎて人と言うか『素敵』の形に見えていた感じがあった稔が、いよいよ人になった」

という趣旨の話をしている(有料ブログなのでこのあたりで留めます。気になる方は課金してください…!)。
大阪に戻る稔を、安子は岡山駅まで稔に教えてもらった自転車に乗り、追いかけ、稔に「May I write a letter to you?」と聞き、その気持ちに応える稔を描いた第5話のラストシーン。第1週でいちばん印象に残ったシーンであるが、このシーンに辿り着くまでに、5話の中に散りばめられていた稔の心境を表す松村北斗の表情があった。
自転車の練習の後、たちばなに寄って、おはぎを食べながら、安子のあたたかい話を噛み締める稔や、夏祭りで突然安子から別れを告げられ、安子の気持ちの変化に戸惑う稔、自転車の練習に来なくなった安子を一人待つ稔。徐々に稔が安子という存在の大切さに気付き、安子に対する気持ちを自覚していく様子がこれらの表情から伝わってきた。
そして、ラストシーンに繋がった。これまで弟の幼馴染で、「可愛い妹」のような存在だった安子が自分が教えた自転車に乗り、自分が教えた英語で必死に自分の想いを伝える安子の姿に稔は安子を「一人の女性」として愛おしく思うスイッチが入った瞬間がここにあった。必死に漕いだ自転車で自分のもとにやってきて、転んでしまった安子を抱き止め、膝についた砂を払ってあげる姿は、それまで安子に指一本触れなかった稔が安子を守りたい、大切にしたいと思い、距離が縮まった瞬間だったのだ。安子からの問いかけに答える前に、安子をここまでの行動に駆り立てた安子が抱く想いや言葉を、一呼吸置いて、噛み締め、「Of course. I will write you in return. 僕も返事を書くよ。」と返事をする稔は、安子を愛おしく想い、想いを募らせている姿そのものだった。


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松村北斗、いよいよここまで演じるようになったのか。
台詞以外での人物の演じ方にここまで説得力を持たせられるようになったのか。
松村北斗の努力は底知れないと思い知らされた。


この朝ドラの撮影時期はたしか2021年4月頃。昨年W主演を務め、俳優としてたくさんのことを経験し、ターニングポイントになったと松村北斗自身も話す映画『ライアー×ライアー』を経て、この『カムカムエヴリバディ』が、雉真稔が、存在するのだと思うと、込み上げてくるものがある。ジャニーズJr.時代にお芝居の楽しさを知り、自分がやりたいと思えることに出会ったのなら、それを言っていった方がいいとメンバーに背中を押され、「自分はお芝居をやりたい」と伝え続けた松村北斗がいたから、いろんなチャンスが巡ってきて、そのチャンスを一つ一つ自分の力に変え、糧にした先にこのお芝居があること、是非多くの方に知っていただきたいと思う。そして、ここからの松村北斗の俳優としての成長がますます楽しみだと改めて思うのだった。


第2週以降、一人の人間として、安子を愛する人として、物語の中心を担う雉真稔については、また改めて書いていきたい。


朝ドラをきっかけに松村北斗について気になった方々がいらっしゃいましたら、過去にも“俳優 松村北斗”に関する記事を書いておりますので、お暇な時に読んでいただけますと幸いです。少しでも松村北斗の魅力を知って、彼を応援してくれる人が増えることを願っております。





おけい

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