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断片小説

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箸にも棒にもかからんかもしれん短い小説です。
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#短編小説

【断片小説】アンダーコントロール・フォー・ザ・ジュラシック・ワールド・エンド

【断片小説】アンダーコントロール・フォー・ザ・ジュラシック・ワールド・エンド

ここに終わる物語は、わたしにとっての福音である。あなたにとっては黙示録かもしれない。でも、男の子ってそういう最後にどかーんと爆発で終わってしまうようなの、好きでしょ? 最初は戸惑い、傷つくことだろう。でもその先恐れるとしても、少しは愛を含んでドラマチックに終わることが出来たのなら、たまに思い出しては感傷に浸れる。そして、そこに成長があると勘違いをする。そういう、有り体に言えばエゴイスティックなロマ

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【断片小説】ア・ハーフ(12/24)・デイズ・ナイト ③

【断片小説】ア・ハーフ(12/24)・デイズ・ナイト ③

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 僕らがまだ10歳だった頃のことを唐突に思い出した。
 その年、彼は10歳の誕生日パーティに僕を招待してくれなかった。
 前の年に初めて友達になり、その年は9歳の誕生日パーティに招待してくれたものだから、また招待してくれるも

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【断片小説】ア・ハーフ(12/24)・デイズ・ナイト ②

【断片小説】ア・ハーフ(12/24)・デイズ・ナイト ②

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 暗闇に浮かんだ2つの光は、廊下灯に反応して少し平らになり、そして徐々に元のアーモンドの形に戻っていった。ドアが開かれ、深呼吸一回分くらいの間があった。
「よぉ」と彼は口に出した。それはビール瓶の口に息を吹きかけたときのよう

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【断片小説】ア・ハーフ(12/24)・デイズ・ナイト ①

【断片小説】ア・ハーフ(12/24)・デイズ・ナイト ①

午後三時過ぎのこと、僕はベッドにうつ伏せで寝ていた。屈強なボクサーに強烈な左カウンターパンチを喰らってそのまま前に倒れたような格好だ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティ・マクフライの特徴的な寝相と似ている。入居したころより備え付けられていた堅いベッドをいつまでもスマホのバイブ機能が揺らしていた。アラームをセットした覚えもないのにどういうことだろうと思いつつ、寝ぼけまなこでスマホをとった。

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【断片小説】フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

【断片小説】フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

キッチンの上で、朽ち果てつつある古代の塔のように積み重なった、そのインスタントコーヒーのカスを見るにつけ、私はほとほと嫌になりつつあった。決まって一日に二つか三つずつ、そびえ立っていくインスタントコーヒーの塔を解体しごみ箱に捨てるのは、いまではすっかり私の朝の役目になっている。雨上がりの洗い立ての朝に(とはいってもすでに昼前だが)、彼の家に来てまずやることと言えばこれだ。おはよう、も言っていないの

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【断片小説】ベティ、マイク、それからキャシー

【断片小説】ベティ、マイク、それからキャシー

幾人もの東の寡黙な読書家から、幾人もの西の雄弁な研究者の手にまで渡り歩いてきた、数多の古書が、独特のにおいを路地に放っていた。町は古本市場で賑わっている。ここは日本の真ん中、東京都心から少しはずれ、神保町。
 今日は良く晴れた日だ。空には雲一つなく、太陽は熱心に地球を暖めようと懸命に努力していた。溶けかけの板チョコのような気だるさが、黒々とした照り返しのアスファルトから漂っている。そして時折、針の

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【断片小説】眠れない夜に数えるのがやぎで、大事なお手紙を食べてしまうのがひつじだ

【断片小説】眠れない夜に数えるのがやぎで、大事なお手紙を食べてしまうのがひつじだ

 とても嫌な予感がした。
 気だるい身体をベッドからべりっと引きはがし、すぐにベランダへと向かわせた。立った瞬間身体がぐらりとする。血液がぐるぐる身体を駆け巡っている。そして脳みそは乾いていて水を求めていた。深く眠りすぎたのだ。うまく身体をコントロールできていない。ガラス戸を開けた瞬間、強烈な時化が襲ってきた。急いで洗濯物を取り込む。
 とても酷い気分だった。宇崎の天気予想の通り雨は降った。それも

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