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ほぼ毎日エッセイ

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ほぼ毎日(と言いながら4日に1回)書いているエッセイです。ふと考えたことを勢いで書く。1000文字未満を努力する。
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2021年4月の記事一覧

ほぼ毎日エッセイDay20「音」

ほぼ毎日エッセイDay20「音」

この部屋は、地上15メートルくらいだろう。
空気が澄んでいる。と言いながらも実は排気ガスや黄砂がいくらか含まれているのかもしれない。しかし僕にはそういうのは1つも分からない。開いた窓から風が忍び込んでくるのが分かる。テーブルに投げ出した脚をひんやりとなぜるからだ。一対の大きな耳は集音マイクでも搭載したかのように色んな音を拾う。色んな環境音が耳元で鳴る。姿かたちの見えない何かが何も考えずに吐き捨てた

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ほぼ毎日エッセイDay19「色塗り問題」

ほぼ毎日エッセイDay19「色塗り問題」

70色入りのマーカーペンが届いたというのに使いこなせない自分がいた。自分の意見や立場が、押しなべてふらふらしているせいだ。
○や△や□の連なりや組み合わせを丁寧に結び、あるいは慎重に消し、そうして描き上げた下絵を前に僕は腕を組んで、じっと睨んだ。

昔から色塗りは上手くはなかった。配色のチョイスは一見したところ悪くはないように思える。ところが、ペン先が紙に触れインクが染み込んでしまった束の間の後で

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ほぼ毎日エッセイDay18「アフロディーテのうそ」

ほぼ毎日エッセイDay18「アフロディーテのうそ」

「実は、あなたのことが好きではなかった」と彼女は電話口で告げた。「申し訳ないけれど」と言う。そのまま電話は切れた。その時僕は柔軟剤入り洗剤を目盛りで測ろうとしていて、カップを左手で握った状態だった。電話の不通音は、開いた窓から忍び込む秋の虫の鳴き声に驚くほど馴染んでいた。

二年後。
「君のことが本当は好きではなかったんだ」と、僕は別の彼女に言った。「申し訳ないけれど」と間を置いて付け足した。「い

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