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元の世界に戻ったけれど。

意識が現実に戻る時。

何かすごい怒りと、恐怖がゴチャ混ぜな状態で「ワーぁッ!!」と叫び暴れている自分を上から俯瞰していました。

数人のスタッフが、僕を乗せたベッドを取り囲み、抑えながら

「落ち着いて! どうしたの一体!」と声をかけながらどこかに運んでいくのをなぜか僕は上から眺めています。

その魂のような状態の僕に、誰かが話しかけてきます。

その謎の声はこう言いました。姿は見えませんがイメージ的に仙人のようなしゃがれた年寄りの声です。

【 さあどうする? 名前を捨てるか? ここで続きをやっていくか? 】

『お前の名前は?』

と言うのが聞こえました。

「僕の名前は……〇〇〇〇……」

そう答えた瞬間に、人魂のように浮いていた僕は、ピチュンッ……と言う音とともにベッドにいる自分の肉体に飛び込むように入りました。

余韻で暴れる手足に徐々に自分の意思が入った感覚で、その手足はすごくすごく重たくて止めたいんだけどなぜか完全にコントロールができません。

僕は僕なのになんでだ。しんどいのになんでだ……と思っていると

近くの医者のポケットからケータイの ピリリリリッ……という音がなった時に我に帰りました。

その音は、僕が正社員で働いていた時に持たされていたケータイの着信音と全く同じでした。

焦った感じの周りにいるスタッフは 
『気付いたね! 落ち着いてきた?!』と言いながら張り詰めた空気です。

まさに暴れる猛犬をなるべく刺激しないように気を遣っているそのものというのはすぐ感じられましたが、それと同時に意識がない間に一体何をやらかしてしまったのか不安になりました。

一人の男性スタッフが『あー、これ完全に戻ってきてるねこれ』と笑いながら言っていたその人が、そこのリーダー的な役割だということを知るのは少しあとで、ここに来てから一番最初に僕に安心感を与えたのがこの人です。

僕のすぐ隣には体格が完全にアメフトなマッチョのスタッフがいて、その人も含めてみんな防護服のようなものとマスクをつけていました。

多分急に目覚めてそんな格好の人たちに取り囲まれていたら、誰でも恐怖するに違いないと思います。

まだ若干寝起きみたいな僕にそのマッチョなラガーマンは
『ここがどこかわかる?』と聞いてきて

そんなもんわかるわけないし、その格好は宇宙船かなんかかよと思った僕は
「何お前? 宇宙人かなんかだろ」と言いました。

マッチョなラガーマンは笑いながら僕の胸に手を当てて問いかけるように
『ここはね、病院! 〇〇病院! わかるでしょ?』と言ってきます。

それは僕の通う精神科の名前だった。

「なんで俺が〇〇病院に通ってんの知っとる? 絶対嘘やん」まだ僕はそんなことを言っていました。

『本当だって!笑 ほら!!笑』とラガーマンは防護服のような上着をめくり上げ、胸の名札を見せてきました。

【 氏名 〇〇〇〇

      〇〇病院 】

そこで僕が放った一言は 「本当だ……うーゎ……最ッ悪……」

完全に気が抜けた。

なぜならその状況を僕は今まで一番避けていた。

もう二度と絶対にこんなことになるのだけは避けようと二十代の時に固く自分に誓ったその【閉鎖病棟】に舞い戻ってきてしまっているのだから。

そしてその病棟の中のココ。
その中でも特に一生入りたくなかった【隔離室】である。

その意識が完全に戻るまで、なんと一週間が経っていた。

でも何もずっと寝たきりになっていたわけじゃなかったらしい。

【支離滅裂の言動と理解不能な行動で暴れ続けていた】のだという。

正気になったのはいいが、僕の意識外で体力を使いまくったこの身体は二日くらいぜんっぜん動かなかった。まぁその二日くらいはどっちにしろ手足は拘束されてるんですけどね。またいつ急に暴れ出すかわからないから。

横になって考えていたのは、あっちの世界のことと、これからどうなるんだというこっちの世界のこと。

それから、僕が初めて入院した二十代の時の隔離室のことを思い出していた。


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