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6月14日 一人、びしょ濡れのサラリーマンを見た。

昨日バイト先に向かう途中、定食屋の前を通った。
店の前には学生や、サラリーマンなどで出来た行列があった。
今日は長くなりそうだなあ、とかすでに帰りたいなあとか思っていると、喝ッ!!!ってな感じの突風が定食側からビューッと吹いてきた。
バシャンという音がしたので振り返ると、一人の50代くらいのサラリーマンのずぶ濡れになっていた。
定食屋の屋根に溜まっていた昨日の雨が、風に吹かれ、何故か一人のサラリーマンのみにドシャブってしまったのだ。

おじさんの淡い水色のワイシャツの大部分が水により濃い青色になっていて、髪はシャワー後のような感じになってしまっていた。
なっている、というよりなってしまった!!と感じたのは、おじさんの頭部が絶対に濡らしてはいけいない感じの頭部だったからである。
ビフォーアフターのビフォーのような仕上がりになってしまっていたのだ。

その場にいた全員が、湧き出る笑いを押し殺した。
そこまで面白くはなかったのだが、一人ずぶ濡れのおじさんがその場にいて、ずぶ濡れになるまでの仮定を目の前で見てしまった以上、おじさんのみにふりかかった出来事とするのも、何だか冷たい気がすると全員が考えたはずだ。
一発皆で笑ってしまえれば、おっさんの恥ずかしいという気持ちを共有することができ、やれやれでしたねみたいな感じで、その場がおさまるはずなのだが、頭部の主張がかなり強く最早無視できない段階にあったため、ここで笑ってしまうと、おっさんの頭部を「ボケ」のように扱ってしまうことになるのではないかと、皆がためらったのだ。

全体が、一度おじさんの出方を伺うといった空気になった。
おじさんがハニカミでもすれば、ガハハハハと全員でフォローするし、その逆のリアクションであれば、僕らは黙ると決めたのだ。

後者だった。おじさんは、クソックソッみたいな事をブツブツつぶやきながら、ずっと服を払っていた。滴る頭部の水ではなく、もうどうしようもない繊維に染み込んでしまったはずの水を払われてしまっては、もうこちらもどうすることも出来ない。
頭部のことは無かったことにしたいという、おじさんの意図を汲むしかないのだ。

その後おじさんは、ずっと、屋根を見つめていた。
「風が吹き、屋根に溜まっていた水が降ってきた。」ということを分かりきった後も、おじさんは、何故だ?みたいな感じで屋根を見つめていた。

おっさんを背中にし、僕は爆笑しながらバイト先に向かった。
会社に戻ってからの説明怠そう〜。
そもそもあのおじさんは、「びしょ濡れですけど、どうしたんですか?」と質問されるような関係性を、周りの人と作れていないような気がする。
誰も聞けないと思う。
それでいて、「さっきさ〜〜〜、空から雨がさああ」と自らイケる感じの人でもなさそうだった。

デスクに戻って、物凄く小さな声でクソックソッって言いながら、真っ白な蛍光灯を見つめて、今日を終えるのではないかしら。
帰って奥さんには話して欲しいな〜〜。


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落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。