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日本の田舎は世界の最先端だ、と再認識した広島県呉市大崎下島久比、神石高原町への旅(2020年12月)

なんで越知は広島にしょっちゅう行ってるの?

2015年から、広島に年に一度以上行っている。2012年に上海で知り合った三宅紘一郎くんがここでナオライを起業していて、その様子が気になるのと、単純に大崎下島、その向かいにある三角島の海と山に囲まれた環境が好きだから。数えてみたら、今回6年目7回目の訪問。

夏に来たとき、地元の人が釣ってきた鯛の鱗やエラを港で一緒に落として海に捨て(他の魚の餌になる)、その後三枚に下ろして刺身で食べた。海の近くに住み、毎日新鮮な魚を自分で捌いて食べたいと思っていた自分には夢のような経験。


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冬に来れば、道端で出会ったみかん農家のおじさんから「小さいのがうまいんじゃ」など豆知識を聞きながら、みかんを無料でもらってしまう。コーヒー代わりに一日5個は食べる。

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ここでの貴重な体験は沢山ありすぎて3時間ぐらい喋りたいぐらいだ。

三宅くんは耕作放棄地を借り、無農薬無肥料の素晴らしいレモンを作り始めた。そのレモンでスパークリングの日本酒を作った。

MIKADO LEMON

並行して、高齢化、過疎化が進むこの地域で「介護がいらない社会の実現」を目指して活動する社団法人を作り、経験豊富な事業家更科さん、地元の梶岡さんという強力なパートナーを得て相互扶助コミュニティ、持続可能な農業、主体的に学ぶ環境づくり、人口の流動性を高める為の活動をしている。

一般社団法人まめな

正直、2015年の起業から3年ぐらいは、高い理想に向かってがむしゃらに進む感じだったが、この2年は「もしかしたら三宅くんの望む世界はここで実現するのかもしれない」と確信するに足る動きがどんどん起きている。


高齢化集落に若者が集まり始めた

12月21日、呉市大崎下島久比にある古い病院を改装した今回の宿に連れてきてもらった。前年は荒れ放題だったのに、ダイニングはあるし泊まれる部屋はたくさんあるし、リノベーションも進んでいる。大学生のインターン、都会から移住した第二新卒女子、ここで始まった介護サービスに関わる看護師、1ヶ月だけ手伝いにきた人、世界一周してなぜかここに流れ着いた30歳男…様々な背景を持つ若い人たちがここで自分のやりたいことを見つけ、実行しようと集まっていた。コワーキングスペース、カフェ、介護サービス、学びの場…いろいろなものが作られている。

過疎化地域を盛り上げたいと思うこと、人がやってくる環境を作るのはそんなに難しくない。活動内容を地域の人が理解して、協力してもらえるようにするのが難しい。しかし、(足りない点はあるものの)ここにいる若者は地元の人ともそこそこ上手くやっているように見える。過疎化地域や工業化された農業の問題点を理解した上で、田舎に魅力を感じ、自分のできることを探し実行する。

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ここは、子供にとっても非常に魅力的なところだ。夏、いつでも海に飛び込める。冬はみかんの収穫を手伝うこともできる。魚釣りは年中できる。イノシシが年中出てくるのでイノシシ鍋も食べられる。自分で考え、思いついた何かを、地元の人を巻き込んで実行することもできる。自然が豊富だから、探索しがいもある。

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海外の人にも魅力的だ。空き家率は40%を超えるので、宿や活動拠点を提供できる。僕はここに音楽と動画配信のスタジオを作って、毎年ミュージシャンや演芸の人を呼んでフェスをやりたいと思っている。アート関係の人が集まるのもいい。ギャラリーやる場所はいくらでもある。

そうやっていろんな世代の人が出入りして、それぞれの世代ができることで地域全体でお互いをサポートするような仕組みも作っていく。

昭和50年代までは、家族が大きい単位だったので家族が互助システムのようになっていたと思うが、今は家族の単位が縮小かつ高齢化が進んでいるので、介護とかサポートが必要なとき家族に負担が行く社会になっている。一方でネットの発達、移動のしやすさで家族ではない他人が繋がりやすくなっている。ビジョンや価値観を共有できれば、家族と他人以外の人間関係が作れる。

これで日本の社会のいくつかの問題は解決するし、日本の他の地域でも同じような動きが起きて、海外で今後同様の問題が起きる地域のお手本にもなるだろう。

だから、日本の田舎は世界の最先端なのだ。


浄酎の製造拠点、神石高原

三宅くんが新しく始めたプロジェクト「浄酎」は、海に囲まれた大崎下島と打って変わった山の中、神石高原町の蒸溜所で作られている。呉市久比からマニュアルシフトの軽自動車を自分で運転して2時間ちょっとのドライブ。助手席には神石高原町に済む広島大学生のインターン。歴史、考古学好きの彼から地域の様々な講釈を聞きながら、福山市から北へ30分ぐらいの、標高500メートル、人口8,900人の町へ向かった。

「浄酎」とは、日本酒を蒸留して作ったお酒。今、世界でこれを作っているのはナオライだけ。低温蒸留することで、日本酒本来の味と香りの魅力を失うことなく、ウイスキーとも勝負できる素晴らしいお酒になる。

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なぜ、「浄酎」を作るのか。それは、中小の魅力ある酒蔵と失われた自然をリスペクトした日本酒の製法を守るためだ。

「浄酎」は、ナオライ提携農場が無農薬で育てた米を使う。ナオライはその米を中小の酒蔵に卸し、日本酒を作ってもらう。それを神石高原町に運び「浄酎」にする。

今回、その中小酒蔵のひとつを訪問したが、いわゆる昔からある地産地消の酒蔵だった。生産量も少なく、地元でしか販売しない。その地元の人口が減っているから、商売の先行きが厳しい。三宅くんは、全国にあるこういう酒蔵を救いたい。

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日本酒好きなら「生酛造り」を知っていると思うが、この米をしっかり発酵させる作り方も絶滅の危機にある。タンクに入れる前の麹を混ぜた日本酒の酛(もと)作りが、効率化でどんどん人工的(速醸。乳酸菌などを添加する)になっているからだ。

いまの「浄酎」の材料となる日本酒は、生酛造り、速醸双方ある。手間もかかるが、自然のチカラを最大限活用した「生酛造り」を、三宅くんは守りたい。

浄酎

「浄酎」は、日本酒を蒸留しただけのものと、樽に入れて熟成したバージョンがある。後者を今回初めて飲んだが、これが素晴らしい!今後洗練されていけば、アイラ島のモルトや日本のウィスキーとも十分勝負できると確信した。

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ナオライ提携農場も、神石高原にある。更に登って標高580メートルに、TANABE FARMという素晴らしい農家がある。有機農法で米、野菜を作り養鶏している。ここも過疎化が進んでおり、3年で人口が2%減った。ほとんど高齢の住民が人生を卒業することによる過疎化。

ということは、空き家が増える=新しい移住者の為の場所ができる。耕作放棄地を有機農法の畑に変える=持続可能な農業が可能な環境作りができる。

田邊さんはここに農業の学校を作り、自立できる人を増やす活動もしている。廃材で小屋を作り、宿泊&コワーキング、映像や音楽を楽しむ場にしようとしている。

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これから人は長生きするから、いつまでも生活の為の仕事=ライスワークでも無いよなぁと思っていて、どこかの区切りで農業にチャレンジするのも面白いかも。これぞホントのライスワーク(笑)。ライスワークがライフワークになる。

水が良い空気が良い、土が良いから腸内環境も良くなる。全寮制のインターナショナルスクールもできた。

JINIS

ここでも、田舎が世界の最先端になりつつあった。


SDGsを自分ごととして実感した旅

今回の旅では、行くところ見るもの聞く話、SDGsを考えざるを得ないものだった。

■みかん畑の石積み補修。コンクリで固めると下の土壌が呼吸できなくなり、みかんを育てる土壌でなくなる。石積みの石は畑を作るときに出たもので、畑とその周りで発生したものだけで、補修することで使える状態になる。

有機農家の話。農薬、肥料を使わず耕さない畑のほうが、微生物の種類が多い。作物も病気になりにくいし、雑草も生えにくい。野菜の味も良い。農薬の使用は土中環境を破壊する。持続可能な畑とは?

酒蔵の麹、酛(もと)造り。酒蔵の木が持つ微生物、自然環境をフル活用するか、協会が売ってる人工の酵母を買って作るか。確かに速醸のほうが時短にはなるが…経済効率だけを追求してよいのか?

養鶏の話。日本は、世界が求めないケージで飼っているケースがほとんど。世界の基準に合わせようとすると困るのは大手業者。元農水大臣に500万円を献金した日本でシェア2位のアキタフーズ。効率を求めたやり方が、持続不可能になっている現在。

大手業者は卵の価格を決める主導権を持つ。安くすると中小の業者が持たない。弱った中小業者を買収する大手業者。自分の作った仕組みを入れて経済効率を上げる。サルモネラ菌が発生しないように、抗生物質の入った餌を与え、注射を打つ。注射で死ぬヒヨコもいるという。そんなふうに育って安全保証された生産者の卵を食べたいとは思えないし、こんなことを続ける必要は無い。

途中から、「美味しんぼ」を読んでいるような感覚になった。自分を含め、日本の消費者は勉強不足かもしれない。お得に手に入るもの、見た目ばかりが良いものばかりを安易に口に入れてはいけない。

まとめ

人間も、地球という単位で見れば、他の動物、昆虫と変わらない、一つの存在だ。一方で人間の知恵はテクノロジーを進化させ、人間の生活レベルを昔とは変えている。

普段、地球や自然を意識することは少ない。でも間違いなく人間は地球に生きる生物である。ものを作り育て、それを原料として何かを作る行為も行っている。自然の力を借りて、全体のバランスを考えたやり方が、地球のためにも良いのだと思う。

自然をリスペクトする。そうすれば、効率ばかり追いかけることも無くなり、持続可能な環境が作られる。

自分は今東京を拠点に暮らしているが、都会にいるとこういう視点を忘れがちだ。今後は自然に囲まれた世界の最先端も拠点に選び暮らし、気づいたこと見つけたことを自分の生き方、取り組みに反映していきたい。

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(たたみもサスティナブル。自分で収穫したレモンとともに)

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