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カルフォニ村
2023年2月12日 15:20
「もう二十年になるんだ」「うん」とぼくは相槌を打つ。 友人のサクマが話しているのは、ゲームボーイで発売された〈彼女とキスする? それともモンスターと暮らす?〉という異色恋愛シミュレーションゲームのことで、主人公は三人のヒロインから一人を選ぶか、もしくはモンスターと一緒に暮らすか選ぶことができる。ヒロインの選択はいつでも可能で、選んだ時点でゲームは終了となる。セーブデータは崩壊し、後戻りは許され
2023年5月4日 13:58
その日は発熱してから一週間目の午後で、目覚めたときに体温を測ると、ようやく36度8分という状態だった。 熱は下がったが、体はだるく、頭は膜を張ったように重たかった。 上司に今日も休みますと連絡を入れて、部下の報告をチェックする。テレワークになって日々の通勤からは解放されたが、こうして休んでいても仕事がつきまとう。 冷蔵庫を開けると、食料と呼べるものがほとんど入っていなかった。かれこれ一週間
2023年4月30日 20:07
お金をかけて戦闘機を飛ばした。実際に町をひとつ破壊した。そこに土偶が運転するUFOを付け加えたらどうなるか、と映画監督は考えた。〈スフィンクスは今宵も寝て待て〉と題された映画がどれだけ素晴らしい傑作か、ぼくは三時間かけて執念深く話したが、映画ライターの逢沢京子は狐につままれたような顔をしていた。「その話って、まだ続きます?」「あと五年ぐらい?」「観せてもらえたほうが助かるんですけど」
2023年1月3日 17:24
寒い日だった。 重たい雲からは、雪がひらひらと降りはじめた。 体じゅうに弁当屋の油が染みこんだ頃、ぼくはアルバイト先をあとにした。年末の慌ただしさに逆らうようにして駅から駅へ、次の駅から次の駅へと乗り継いでいく。最後は単線の無人駅で、併設されている地蔵堂の屋根には雪が積もっていた。「お帰りなさい」 台所から妻の声が聞こえる。部屋は暖かい湯気に包まれている。「ただいま」とぼくが言うと、