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趣味で文章を書いています。 http://roomnumber55.com (リンク先18禁) 依頼等ありましたらこちらまでお願いします。→roomnumber55.japan@gmail.com

最近の記事

胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(8:術後1日目)

レントゲンレントゲンを撮りに行くためには車椅子に座らなければならない。 そしてレントゲンが終わればそのまま一般病棟に直行だ。ようやく地獄のICUから解放される……と思っていた。 車椅子に座るためにベッドが電動で上体を起こしてくれるのだが、脳の血液が一気に下がった感覚と共に猛烈な吐き気が襲ってきた。 本能で「気持ち悪い。吐きます」と言った瞬間、盛大にえずいた。 看護師さんがすかさずそら豆型のトレーを持ってきてくれて口元にあてがうが、24時間以上水すら飲んでいない状態なので出るも

    • 胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(7:ICU)

      手術終了深海から海面にゆっくりと浮上するように意識が戻った。 白い天井と口から伸びるホースがぼんやりと見える。 寝起きのような眠気は全く無いが、目はまだ霞んでいてよく見えない。 ああ、終わったんだなと思った。 痛みは全く無い。 何時間経ったのかもわからない。 呼吸器外科の医師の姿は見えず、男性の麻酔科医が1人視界の隅に映っている。 入院前に読んだ体験談では「時間がワープした」「まばたきしたと思ったら終わっていた」というように意識の連続性が保たれているような体験が多かったが、自

      • 胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(6:手術)

        手術前病院は夜も早いが朝も早い。 6時に起床し、洗顔や髭剃りなどの身支度を整える。その後ナースステーションに体重を測りに行き、病室に戻った後に血圧と体温と脈拍、血中酸素濃度を測る。本来は7時頃から朝食なのだが、13時から手術のため当日は絶食。水分は10時までしか摂れない。 手術当日もなかなかに忙しい。まずは昨日入ったばかりの部屋を空の状態にする必要がある。荷物が入っているスーツケースや貴重品、スマホはロッカーに預けて鍵を立会人に渡す(術後、部屋に戻った際に看護師さんが荷物を取

        • 胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(5:入院、手術前日)

          入院準備術式は予想通り胸骨正中切開になり、1ヶ月後の11月上旬に行うことが決定した。看護師さんから入院前に用意するアイテム一覧をもらい、入院手続きをする。 入院のために必要なもの(呼吸器外科、胸骨生中切開の場合) ・トライボール(肺活量のリハビリをするための医療器具) ・コップ(蓋付き) ・ストロー ・箸、スプーン ・T字帯(いわゆる「ふんどし」。手術の時に使う) ・バスタオル(3枚) ・タオル(3枚) ・ティッシュ ・下着類 ・パジャマ(レンタルしない場合) ・シャンプー

        胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(8:術後1日目)

          胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(4:検査結果)

          検査結果9月上旬に胸に違和感を感じてから、あっという間に約1ヶ月が経過した。 Tシャツやポロシャツ1枚で過ごせる季節は過ぎ去り、シャツやジャケットが必要な気温になっていた。 日常生活は相変わらず気が休まる時がなく、時間があれば縦隔腫瘍について調べていた。 しかし、とにかく情報が少ない。 同じ闘病記や論文が何回も出てきて、本当に症例の絶対数が少ない病気なのだなと実感した。この辺りから自分の症例も少しでも役に立てればとメモを取ることにした。 緊張しながら診察室に入った。 判決を

          胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(4:検査結果)

          胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(3:検査)

          PET検査(造影CT検査)前回少し触れたが、PET-CTや造影MRIはそれぞれ保険適用外だと約10万円の費用がかかるが、保険適用だと約3万円くらいで済む(3割負担の場合)。健康診断や人間ドックで癌検査オプションを付けると20万円以上の費用がかかるのは、これらの検査が全額自己負担になるからだ。 だからこの時点で自分の診断名には「病名:癌」とはっきり書かれている。 正しくは「癌疑い」なのだが、制度上、医師から癌と診断されないと諸々の検査が保険適用にならない。 医師は何回も「気にし

          胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(3:検査)

          胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(2:大学病院)

          大学病院へ大学病院へ通院するまでの1週間はあっという間に過ぎた。 気持ちとしては落ち込みと開き直りが半々で、「俎板の鯉」とずっと唱え続けていた。 実際、もう自分で出来ることなどほとんど無い。 ここに来いと言われれば行き、ここに寝ろと言われれば寝るしかない。 大学病院の診察は、地方の総合病院に比べてとても丁寧だった。 まずは医師が自己紹介をして、「わからないこと、不安なことはなんでも聞いてください。時間はたっぷりとってあります」と言ってくれた。 先週撮影したレントゲンとCTを

          胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(2:大学病院)

          胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(1:発覚)

          2021年9月に違和感レベルの軽い胸の痛みを感じたことをきっかけに、まさかの大手術となってしまいました。 縦隔腫瘍は情報が少ない病気ですので、何かの参考になればと経緯を書かせていただきます。 スペック30代男性 身長177cm、体重60kg 非喫煙者 飲酒習慣:週5で1日あたり日本酒180〜360ml程度 運動習慣:週5で1日あたり7km程度のウォーキング。コロナ前まではジム。 発端2021年9月。 これから寝ようかという時に「あれ?」という感じで突然胸に違和感を感じた。

          胸骨正中切開で縦隔腫瘍を摘出した話(1:発覚)

          接触確認アプリ(COCOA)に通知が来てPCR検査してきた話

          少し前ですが、厚生労働省が配布しているiOS版接触確認アプリ(COCOA)に「陽性者と接触した可能性があります」と通知が来て、約1週間後に保健所に連絡して検査を受けてきました。 通知から保健所への連絡まで時間が開いてしまった理由は、iOS版接触確認アプリ(COCOA)には陽性者と接触があっても「接触なし」と表示される致命的なバグが現在進行形で発生してるからです(Android版は改善)。 ↑厚労省からの回答 アプリから通知が来た場合の参考になればと思い、今回noteを書か

          接触確認アプリ(COCOA)に通知が来てPCR検査してきた話

          創作とウイスキーの相場

          ある作家が怒りながらバーに入ってきた。 彼は1時間前、TwitterのDMで「2万字くらいの小説を5000円で書いてもらえませんか」と依頼されたのだ。 それは彼にとって不当に安い価格提示だった。小説はただ文字を書けばいいというものではない。資料集めが必要だし、物語も構想しなければならない。なにより書くための労力と時間がかかる。それをたったの5000円で書いてくれとは失礼な奴だ、と彼は思った。 彼は激怒し、DMをスクリーンショットしてTwitterに公開し、「相場を無視したこん

          創作とウイスキーの相場

          美容院とコロナと陰謀論

          自分にとって「行きつけの美容院」はかなり貴重な存在だ。 僕は仕事柄引っ越しが多いのだが、新しい土地に来ると美容院選びにいつも苦労する。自分の髪は癖が強く、量が少なく、油っぽいというかなり最悪な髪質のため、それなりの髪型にしてくれる美容師がなかなか見つからないのだ。 だから、今通っている美容院は重宝していた。 その美容院は男性1人でひっそりと経営していた。 店は目立たないが小洒落た雰囲気で、何の前情報も無く、たまたま通りがかって入ったのがきっかけだった。彼は一目見るなり僕の

          美容院とコロナと陰謀論