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苦戦する物件探し、そして予感 〜親の移住と、家族の記録#11〜

物件探しが続く中、母がケータイを持つことになった。内見などで現地に行く際、連絡手段がないと何かと不便だという理由からで、本人も乗り気だったので買うことにした。通話と簡単なショートメールができればいいということになり、シニアにもやさしいタイプのシンプルな機種を契約。連絡先の登録と初期設定は私がやったが、パソコン導入の時に比べたらたいした労力ではない。不動産屋や、市の移住サポート担当のSさんにも番号を伝え、自宅以外でも連絡を受けられるようになった。

良さそうな物件だと思って現地へ見に行ってみると、思わぬ事実が判明したり、イメージと違ったりすることもある。見送る理由もさまざまだった。たとえばこんな感じで。。。

見送り物件その1.  構造が使いづらい!
●紹介者:地元の人の口利きで。
●物件概要:海辺近くの2階建て。1階の半分以上が土間。立地がいい割には安く譲るとの話。
●懸念点①:1階の半分以上がコンクリート敷きの土間。ガラスの引き戸は付いているが外から丸見え。「軽トラが2台入るよ!」と言われたが、駐車場は別にあるので、どう使っていいか微妙。
●懸念点②:その土間と、奥にある居住スペースとの段差がすごい。2階への階段も急で、バリアフリーとは真逆のつくり。
●検討結果:両親のライフスタイルには合わなさそう。リフォームしてまで住むという気にもなれなかったため、見送ることに。

見送り物件その2.  庭がない!
●紹介者:市のいなかぐらし課Sさん
●物件概要:こじんまりした築浅の2階建て。二人住まいにはちょうどいい広さと間取り。広めの通りに面していて、バス停からもすぐの立地。
●懸念点①:両隣の家との距離がかなり近い。やや圧迫感あり。
●懸念点②:庭がほとんどない。玄関横にちょっとした植え込みがあるくらい。
●検討結果:間取りは文句なしだったが、窓からの景色のヌケが良くないことが残念。小さくてもいいから畑がやりたいという条件に合わなかったため見送り。

見送り物件その3. 水道が通ってない!
●紹介者:地元の不動産屋
●物件概要:築浅の平屋で、庭に出れば海が見える。立地は最高。内部もきれいで、すぐに住めそうな状態。
●懸念点①:なぜか水道が通っていない。
●懸念点②:持ち主は海外在住の外国人。
●検討結果:水道を引く工事代はこちら負担でかなりの金額がかかること、持ち主とのやりとりに不安があったことから見送り。かなり気に入った物件だったが、さすがに不安要素が多すぎて諦めることに。

このほかにも、元ペンションだったログハウス風の空き家を地元の人から強めに推されたり、眺めはいいがそのぶん玄関までの石段がえげつない物件に老いを実感したり。それぞれの物件に個性があって、その個性を気に入る人もいるのだろうが、いずれも両親のイメージとは違っていたので見送ることになった。

両親が利用した行政の移住サポート制度は、空き家となった物件を市が移住希望者に紹介してくれるもので、すぐに住み始められる状態の家が多かった。理想的な物件が見つかれば話が一気に進みやすい一方で、その出会いがいつになるかがはっきり見えないため、どこまで待つか、どこで妥協して手を打つか、見極めが難しい。実際、自分たちが見送った物件が後から成約済みになっているのを目にして気持ちがザワザワしたこともあったらしい。
その焦る気持ちは担当のSさんにも伝わっていたのだろう。「一刻も早くというお二人の気持ちがメールやお電話から伝わってきて、実はけっこうプレッシャーでした」と、後に笑いながら告白されたそうだ。

やりとりを重ねるうちに、両親が気に入る物件かどうか、Sさんにもわかるようになってきたらしい。「これはおそらくご希望にはかなわないかと思いますが」などのコメント付きで物件情報が届くようになっていた。

その日、やや久しぶりにSさんから届いたメールも、「条件はまあいいほうですが、ご参考までに」という控えめな文面だった。しかし、よくよく情報を見ると、部屋数や間取りなど少し妥協する必要はあるが、致命的な欠点は見当たらない。これまで見送ってきた物件と比べると、前向きに検討する価値があるように思えた。
その翌週に内見してみると、やはりなかなかの物件。その場で即決するところまではいかなかったが、ここらへんで手を打つべきなのか非常に悩ましい状況となった。

この家でもいい。
でも、絶対にこの家がいいというわけでもない。

悩む両親に対して、Sさんは強く勧めることなく、逆にこう言った。

「もう少し待ちませんか。来月くらいまで待ってみてください」

何かを感じとった父と母は、焦る気持ちを抑え、Sさんを信頼して待つことにした。

Sさんの言葉の意味がわかったのは数週間後。次回で書きます。

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