髙良真実

髙良の髙ははしごだか。早稲田短歌会出身。同人誌『滸』、竹柏会所属。第40回現代短歌評論…

髙良真実

髙良の髙ははしごだか。早稲田短歌会出身。同人誌『滸』、竹柏会所属。第40回現代短歌評論賞、第4回BR賞。

マガジン

  • 短歌史

    書いた記事のうち、短歌史に関連するものを集めました。

  • ひさごの陰だより(書評集)

    この書評は “Tanka makes your life better” Takara Mamiiの提供でお送りします。

  • 谷のねむりの日曜日(教会エッセイ)

    呼びかける声がある。 主のために、荒れ野に道を備え わたしたちの神のために、荒れ地に広い道を通せ。 谷はすべて身を起こし、山と丘は身を低くせよ。 険しい道は平らに、狭い道は広い谷となれ。 主の栄光がこうして現れるのを 肉なる者は共に見る。‭‭ ----イザヤ書‬40‬:‭3‬-‭5‬

  • くじらの寝袋(既発表作品集)

    過去誌面に掲載した作品の集積所

最近の記事

現代短歌史を取り戻せ(月のコラムにしなかった文章)

 近頃は短歌シーンと言われます。ある場面(シーン)は前後から切り離されていて、茫漠たる時間の靄を浮游しています。それを過去と繋げて、物語として紹介するのが私のような短歌史記者の仕事です。  今年の8月に、明治年間後半から昨年2023年までの短歌を扱った『はじめての近現代短歌史』を書き終えました。書きはじめたのは去年の7月末だったので、ちょうど1年かかった形です。いろいろ苦労もありました。なぜそこまでして短歌史を書いたりするのかにはもちろん幾つか理由があります。  “現代”短歌

    • 睦月都『Dance with the invisibles』評:女と女、人の子と仔猫

      初出:『現代短歌』2024年7月号(No.103)=2024年5月印刷  歌集にはいくつもの読み方がある。好きな短歌や秀歌を探すとか、連作や章立ての構成を考えるとか、あるいはその歌人の文体に関心をもつとか、読み方は読者に委ねられている。けれども、どの場合でも歌集タイトルを全く無視することはできないだろう。  本歌集は『Dance with the invisibles』と題されている。歌集の冒頭連作も同じタイトルだ。冒頭連作から歌を引く。  この連作では作中主体が女性同

      • 雪舟えま『地球の恋人たちの朝食』書評:シャイニング・スター・システム

        どうして脱出したいのが日本ではなく地球だと気づかなかったのか。 二日酔いの寝ぼけた頭でポストを漁りに行ったら封筒があり、中身が『地球の恋人たちの朝食』だった。雪舟えまによる初期作品集だということしか知らない。雪舟えまはかつて「手紙魔まみ」と呼ばれていた。ともあれ、眼鏡をかけて読み始める。と、よくわからないことが書いてある。一二〇頁も読んだのに栞は四分の一の位置にある。我に帰ってにおいをかいでみると、王朝文学風味がする。恋愛のお話ばかり書いてあるからだ。 『地球の恋人たちの

        • 129人の給食

          久々に教会に行った。私たちの教会では、第二と第四日曜日に渋谷で野宿者支援の給食活動をしている。平たく言えば食料品を配布している。あと髭剃りとか蚊取り線香とかも用意していて、必要な人には渡している。教会がこの活動をするようになるまでにはちょっとした縁起があるのだが、それはさておき、キリスト教の友愛の精神に基づいて活動が行われているのである。 私自身は2023年に無職だった期間にしばしば参加していた。けれども今年に入ってからは一度も行ったことがなかった。11時からの礼拝を終えた

        現代短歌史を取り戻せ(月のコラムにしなかった文章)

        マガジン

        • 短歌史
          10本
        • ひさごの陰だより(書評集)
          18本
        • 谷のねむりの日曜日(教会エッセイ)
          4本
        • くじらの寝袋(既発表作品集)
          8本

        記事

          「言葉派」「人生派」について言及する前に読みたい文献

          Twitterのリプツリーだと流れていくのでnoteにまとめておきます。 「言葉派」「人生派」について資料調査をしてきました。 最低限読むべき文献は以下の通りです。 ①現代短歌2021年9月号 藪内・大森対談 ②現代詩手帖2021年10月号掲載 藪内亮輔「多様化するリアリズムと、その先」 ③塔2021年12月号時評 吉田恭大「運用と手順23」 ④月のコラム「安心自由帳」2022年4月更新分 濱松哲朗「これからの「欲望」の話をしよう」 ⑤歌壇2022年4月号時評 藪内亮輔「

          「言葉派」「人生派」について言及する前に読みたい文献

          県産品のパイナップル

           暑い。とにかく暑い。暑いのが長い。長いのがいけない。7月下旬の日曜日は沖縄にいた。聖霊降臨節第10主日である。帰りの便に乗る前に、お土産に北部東村特産品のパイナップル「ゴールドバレル」を買い付けて教会に送ったのだが、ポコンと届いたGmailを見ると、牧師夫妻が山口の教会へ出張に行くという知らせではないか。やばい。受け取る人いるのか。  翌週は礼拝に出た。聖霊降臨節第11主日である。パイナップルのことで気を揉みながらおそるおそる礼拝に出たところ、普段通り運営されている。代理で

          県産品のパイナップル

          おきなわ文学賞のすゝめ

          沖縄県民、県生まれの方、県系人の皆様、ごきげんよう。今年もおきなわ文学賞の時期がやってきました。 本賞の短歌部門は短歌5首から応募できるライトな賞です。応募料は部門あたり2000円、学生は1000円、高校生以下は無料。選考委員は伊波瞳さんと屋良健一郎さんのお二人です。 職業作家は応募不可なので、私は出すのをやめておきます。そろそろ本を出しそうなので……。 せっかく出すならいい成績を残したいですよね。というわけで、どうすれば上位に食い込めるのか考えてみました。私自身は佳作止ま

          おきなわ文学賞のすゝめ

          連作:慰靈祭(メモリアル・セレモニー)

          初出:『滸』第五号→歌を一部削除 こうして、光があった。ほんとうに? どうせなら孔雀があってほしい 祈りばかり口にするから口紅は祈りとともに削れてしまう 災いが尻から出るようなことはなくたばこをすってつつしんでおり ワインに酔って少しもどして信仰が口から出るようなものでないならば まみ、という名前をもらい、親はうそつき。嘘から出たまみと憶えて。 いいえ。とても憶えられない公式をヴェルギリウスのように導く ガジャン・ビラ、美しい羽音の虫の坂。それは蚊のこと とて

          連作:慰靈祭(メモリアル・セレモニー)

          礼拝堂にピーヤと響く

           教会の朝は早い……のだが、私の朝はそんなに早くない。教会の方は主に小中学生が集まる第一礼拝が朝9時から開催されるので、司会や奏楽や礼拝堂の準備を担っている教会員は8時半ごろには集まっているらしい。かたや私は10時半くらいにもぞもぞ起きて、11時からの第二礼拝に向かう。こちらは高校生以上の大人が参加するものだ。学問上の師匠もそこそこ不真面目なクリスチャンであるが、弟子の私もそれに似たのである。というのは冗談で、私は大学で師匠に会う前から朝には弱かった。師匠のマニュエル・ヤンの

          礼拝堂にピーヤと響く

          ペンテコステ、ペンネ・アラビアータ

           今年の5月19日(日)はペンテコステ礼拝の日だった。ペンテコステの知名度は低い。かなしいほどに低い。短歌の後輩に「ペンテコステって知ってますか?」ときいたら「パスタの名前ですか?」とかえってきた。パスタはフィットチーネですね。いや、ペンネ・アラビアータかもしれない。私はペンテコステの話をしたいのに、トマトソースのパスタが頭から離れなくなってしまった。デザートにパンナコッタも食べたくなってきた。いや違うんだ。ペンテコステ。あなたはミッション系の高校に行っていたと聞いているけど

          ペンテコステ、ペンネ・アラビアータ

          語り手たちのアンチテーゼについて:豊永浩平「月ぬ走いや、馬ぬ走い」に寄せて(2)

          ※小説読んでから読んでほしい内容です。読んでない人は回れ右。 第一印象は、私と、私たちのための文学が書かれていると思った。作中で言及される娯楽が私たち世代のものだからだ。私は1997年生まれで、沖縄の出身で、いわゆるZ世代と呼ばれる2020年代の「若者」である。別に呪術廻戦は読んでいないが、友人たちがそれを楽しんでいることは知っている。作中では高校生たちが楽しんでいる音楽として沖縄を拠点にするラッパーであるAwitchや唾奇やオズワルドが言及される。日本の小説はほとんど内地

          語り手たちのアンチテーゼについて:豊永浩平「月ぬ走いや、馬ぬ走い」に寄せて(2)

          金言は金の価値をもつか:豊永浩平「月ぬ走いや、馬ぬ走い」に寄せて

          0.はじめに沖縄文学に新しい書き手が現れた。私は那覇の生まれで、ふるさとの大学に通っている作家が群像新人賞を受賞したらしいと聞き、喜び勇んで受賞作掲載号を買い求めた。講談社の『群像』2024年6月号である。小説の舞台は沖縄。たぶん作者の母語は沖縄大和口(ウチナーヤマトグチ)だろう。私もこのピジンを母語とする人間だ。先祖伝来の琉球語でもなく、日本語でもない。哀れな醜い愛すべき我が母語よ。などと某山犬の台詞を雑に引用してもはじまらぬ。私はこの小説が気に入っていて、より多くの人に読

          金言は金の価値をもつか:豊永浩平「月ぬ走いや、馬ぬ走い」に寄せて

          北海学園大学短歌会機関誌『花と硝烟』創刊号掲載評論の感想

          しばらく前に田中綾先生から『花と硝烟』創刊号(2024)を送っていただきました。月のコラムを仕上げてちょっと気持ちに余裕ができたのでこの機会にわーっと書いてしまいます。なので荒いところがあるかもしれません。 ・山田航「清水信ノート」について  新興短歌のうちモダニズム派は定型に拠ったグループが代表的収穫とされ、自由律モダニズムは前田夕暮や土岐善麿の作品がわずかに触れられるのみといった状況が久しく続いているかと思います。 その中で自由律モダニズムに広く目配せした清水信の作品研

          北海学園大学短歌会機関誌『花と硝烟』創刊号掲載評論の感想

          プロレタリア短歌に関する勉強会資料

          某所で勉強会やりましたので資料をアップロードしておきます。ヘッダー画像は資料内の図です。 資料内に簡易的な時期区分を設けていますが便宜上のものです。 口頭説明における理解を優先しているため記述の正確性を犠牲にしている部分があることをご理解ください。レポート・評論等への引用に耐えうるものではないことを注記しておきます。 資料内の図は渡邊順三『定本近代短歌史』上下巻(春秋社)に基づきつつ、適宜一次資料を参照しています。 プロレタリア短歌については松澤俊二先生の論文や著作が大

          プロレタリア短歌に関する勉強会資料

          イカの短歌

          おはようございます。休みの日だというのに、どういうわけか早起きしてイカの歌を探していた。発端は角川『短歌』1973年7月号掲載の座談会「女歌その後」の参加者が70年代にどんな歌を作っていたのか全歌集とかをパラパラめくっていたことだった。 私は河野愛子(こうのあいこ)の歌が好きで、手元の短歌ノートには以下の歌を控えている。 好きな歌なんだけど平成生まれにはあんまり意味の通りがよくないと思う。だいたい結句の「つかみゐぬ」が掴んでいたのかいなかったのかはっきりしない。掲出歌の場合

          イカの短歌

          けものの短歌

          『ねむらない樹』vol.11誌上で発表された第6回笹井宏之賞の結果を読みました。傾向変わりましたね。気になったのはこの歌です。 韻律がやや難しくて、私は「自我は持つ/よりも飼うだな、/と言ってた」と句切りました。あるいは3句目4音にする切り方もあります。韻律と意味内容を過度に近づける読みは警戒されますけれども、人外っぽいイメージを連れてくる歌の韻律がガタガタだと、少しうれしい気持ちがあるのを自覚します。 ところでこの歌を見て、けものの短歌のことを考えたりしました。50年代

          けものの短歌