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ひさごの陰だより(書評集)

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この書評は “Tanka makes your life better” Takara Mamiiの提供でお送りします。
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吉田隼人『忘却のための試論』評:凡そ鳥類は客死すべけむ

底本:吉田隼人『忘却のための試論』(書肆侃侃房、二〇一五、初版) はじめの歌集が話題にな…

髙良真実
1年前
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語り手たちのアンチテーゼについて:豊永浩平「月ぬ走いや、馬ぬ走い」に寄せて(2)

※小説読んでから読んでほしい内容です。読んでない人は回れ右。 第一印象は、私と、私たちの…

髙良真実
1か月前
13

金言は金の価値をもつか:豊永浩平「月ぬ走いや、馬ぬ走い」に寄せて

0.はじめに沖縄文学に新しい書き手が現れた。私は那覇の生まれで、ふるさとの大学に通ってい…

髙良真実
1か月前
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加藤克巳『螺旋階段』評:夢に昇天

モダニズム歌集評第8回 底本:加藤克巳『螺旋階段』(協和書院、一九三七) 加藤克巳は國學…

髙良真実
1年前
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岡松雄『精神窓』評:花へのフェティシズム

モダニズム歌集評第7回 底本:岡松雄(おかまつ たけし)『精神窓』(協和書院、一九三七) 岡…

髙良真実
1年前
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早崎夏衛『白彩』評:文明論の憂鬱

モダニズム歌集評第6回 底本:早崎夏衛『白彩』(短歌精神詩房、一九三六) 早崎夏衛は竹柏…

髙良真実
1年前
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石川信雄『シネマ』評:天使とロンド・ロンド・ロンド

モダニズム歌集評第5回 底本:石川信雄『シネマ』(茜書房、一九三六) 書影は『現代短歌全集』第七巻(筑摩書房)より。 石川信雄は早くから筏井嘉一と行動をともにし、新芸術派の嚆矢たる『エスプリ』創刊にも参加しています。『エスプリ』の廃刊後は前川佐美雄と行動を共にし、戦前は佐美雄の主宰する雑誌『短歌作品』、『カメレオン』、『日本歌人』の全てで活躍しました。作品発表は一九三〇年代半ばまでであり、その後は評論・エッセイの書き手として知られるようになります。日中戦争に際して徴兵され、

松本良三『飛行毛氈』評:街の怪異

モダニズム歌集評第4回 底本:松本良三『飛行毛氈』(石川信雄発行、一九三五) 松本良三は…

髙良真実
1年前
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齋藤史『魚歌』評:コラージュ

モダニズム歌集評第3回 底本:齋藤史『魚歌』(ぐろりあ・そさえて、一九四〇) 齋藤史(さ…

髙良真実
1年前
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津軽てる『秋・現実』評:ロボットの乳房

モダニズム歌集評第2回 底本:津軽てる『秋・現実』(表現社、一九三二) 津軽てる(または…

髙良真実
1年前
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小玉朝子『黄薔薇』評:童心

モダニズム歌集評第1回 底本:小玉朝子『黄薔薇』(平野書房、一九三二) 『黄薔薇』を収蔵…

髙良真実
1年前
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暮田真名『ふりょの星』評:ふりょとの遭遇

底本:暮田真名『ふりょの星』(左右社、二〇二二) ふと夜空を見上げると、そこに『ふりょの…

髙良真実
1年前
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北山あさひ『崖にて』:侍、そして杉元佐一。

沖縄にはHacksaw Ridge(弓のこ尾根)という崖がある。またの名を浦添・前田高地、太平洋戦争…

髙良真実
1年前
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谷川由里子『サワーマッシュ』評:風の霊

『サワーマッシュ』は間違いなく風属性の歌集だ。歌集の色が爽やかなミントグリーンだからとか、風の歌が多いからとか、そういうことはいったん脇に置いてほしい。 風は希薄であるが、風には風のアイデンティティがあるようだ。ところで、一般に短歌の場で人に会うときは「あなたは誰ですか?」と問われるもので、自分の由緒が書かれた歌集があるととても便利だ。そうして歌集にはどこ出身の誰で、どんな生活をしています、と書かれるのだろう。それも悪いことではない。しかし『サワーマッシュ』では、社会的に誰