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連作:慰靈祭(メモリアル・セレモニー)

初出:『滸』第五号→歌を一部削除

こうして、光があった。ほんとうに? どうせなら孔雀があってほしい

祈りばかり口にするから口紅は祈りとともに削れてしまう

災いが尻から出るようなことはなくたばこをすってつつしんでおり

ワインに酔って少しもどして信仰が口から出るようなものでないならば

まみ、という名前をもらい、親はうそつき。嘘から出たまみと憶えて。

いいえ。とても憶えられない公式をヴェルギリウスのように導く

ガジャン・ビラ、美しい羽音の虫の坂。それは蚊のこと

とても美しい虫を想像してほしい。神さま、写真で見るのもいやな被造物です

風下にいてそれを見るまではたばこか蚊取り線香かわからなかった

樹形図がほんものの樹のようになりそれは系統樹だ。憶えて

この島では自分の名前がふつうで、「わたし」は「わたくし」くらいへんてこりんだ

天にまします?まみの父よ 飲酒運転で死んでも天国に行けるの?

地上でも船酔いをするように泡盛は まみは船にも弱いのだった……。

機関車が硬派硬派と走りける時代のことも教わったけど

あ、アジアの亜。イエスさまの暮らした亜細亜。ここは東のはずれの島なり

東京に比べて時差のない街でだんだん日暮れだけは遅くなる

ライブゴーズオン甘美な青春がそれぞれ一回だけの抒情をなんどもする

慰靈の日の靈は英語でメモリアル 暗がりから〔英〕が手招きをせり

「清くただしく生きなさい」くまのプーさんはハチミツにまみれて生きている

神さまは教えてくれず戦没者の名前の読みがずっとわからないね

あまり自罰的になってはいけない。真実と書いてまみ。別にひとりではない

舌を、アイスクリームに付けたら離れなくなるような、炎のような舌とキスしたい

観覧車のてっぺんは天使がすわるのにふさわしい場所。古くなって、解体されけり

水晶は眼の中にあるものがいちばんきれいクリスチャンは占いを信じない

人に油そそげばメシア。召し上がれ。ごま油をそそいだ完ぺきなナムル

ガムで息はきよめられたり焼き肉でけがれるというほどでもないが

ジャンボはジェット ユンボはショベル 大きさは積乱雲にとてもかなわない

ふろ上がりのような全裸のダビデ像 石だから風邪をひくこともないのだ

本州・中国・四国・天竺 飛行機でゾウが動物園にやってくる

アメリカの飛行機は帰り便に死体袋がたくさん。日本の飛行機は帰らない

男の人が四人ならんでそれぞれのたばこに口づける。そして捨てる

車のきずがひとりでに治ることはない。憶えて、車は運転をゆるす

伝統詩が修辞を武装解除してついでに軍隊も武装解除して

前衛(ヴァンガード)が武装解除に到るまで百年戦争よりは短し

流血がからだの中にある限り安心して。お酒を飲めば少しはやくなる

母国・母語・空母にかえるそれぞれをふつふつと水沸かして思う

戦没者の名前を憶えて。死んでしまうみんなの代わりに石が、神さまが……。

ひとは誇張が好き。コメットという飛行機は彗星よりもはるかに遅く、墜落もする

魔女狩りをする側になるのがこわい。クリスチャンだから魔法と占いを信じてはだめ

かさぶたをついに剥がしてしまうもの……暗号でもいいから、愛と平和を

40首。2023年制作

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