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プロのオーケストラ打楽器奏者に聞く! (その4)...音楽教育と英語教育は隣り合わせ


はじめに

「様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかか わって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違いま す。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人 の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、 生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいも の、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。」という趣旨で、2007年より筆者のコラムFor Lifelong Englishでは、各界で英語にかかわる仕事に携わる人々を紹介しました。

「プロの打楽器奏者に聞く!」(その1)(その2)(その3)そして今回の(その4)では、2--7年当時マレーシアフィルハーモニー管弦楽団 Malaysian Philharmonic Orchestra(MPO)にて副首席 ティンパニ・打楽器奏者菊池清美氏のインタビューをお届 けしています。

菊池氏は高校時代に交換留学生として米国に留学したのがきっかけで、フロリダ 州立大学の音楽科に進学し、その 後超難関名門ジュリアード音 楽院の大学院に進学し修士号をと るやプロとして活躍されていま す。その前向きなエネルギー溢れ る人生に、英語はどのように関わ っていたのでしょうか。音楽の才 能を見い出され、英語を身につ け、そして多言語・多文化の環境を実に楽しんでいらっしゃる菊池さん のこれまでの経歴の中に、英語が上達するカギも隠されているような気 がしてきました。 最終回(その4)では、マレーシアでの音楽普及活動や、英語と音楽との 意外なつながりについてお話を伺っております。

 

マレーシアにクラシックを普及する

鈴 木: 音楽の環境として、マレーシアはいかがですか。アジア的なレパ ートリーがあるとか。

菊 池: それはあまりないです。ただ、オーケストラの醍醐味を知ってほ しいということからできたオーケストラなので、一度もクラシッ ク音楽を聴いたことがない人に喜んでもらうには、どういうふう に紹介したらよいだろうか、と工夫はします。入り込みやすいよ うに中国の音楽を最初の曲に入れてみたりとか。

鈴 木: どうやらマレーシアはニューカマーに優しい文化のようですね。 クラシックというと日本では分かっている人だけが行く、という 少し近寄りがたい雰囲気がある。僕もアメリカにいるとき野外音 楽でクラシックを聴いて楽しかった思い出があります。こんなん だったらもっと聴きに行こうと思いました。

菊池: 日本ではちょっと高くていい服着ていかなくちゃ、という感じで すが、クラシックはもっと気軽に楽しんでいただけるものなので すよ。

鈴 木: 日本は英語も同じようにとっつきにくくしてしまっている。お話 を伺っていると、マレーシアでは文化が混在しているところを活 かして、異文化である西洋音楽に入りやすくしているようです ね。菊池さんにとっての音楽は、僕の場合は英語です。僕は日本 の英語教育を変えようと思っている。英語はもっと楽しいはず。 実際使う場で好きなことでやればいいじゃない。だから僕は、い ろんなことができる人が英語を教えたらいいと思うんですよ。今 ようやくそういう英語空間になってきている。菊池さんは音楽全 体について、日本はどうしていったらいいと思いますか?クラシ ック音楽はドイツあたりでも聴く人が少なくなってきているでし ょう。

菊池: 危機ですね。クラシック音楽全体として世界中で観客も減ってい るし、CDを買ってくれる人も減っているわけですから、先生がお っしゃったようにもっと気軽に来やすいホールにして、もう一回 聴いてみたいという曲を選んで、と積極的な努力を私たちが続け ていかなければいけないです。私は一昨年から音楽教室で4、5歳 の子に教え始めました。しかし最初の両親の説明会で、「どうい うディプロマ(認定書)がもらえますか」と聞かれてしまいまし た。子どもたちには、資格や試験ではなく、「あ、音楽って楽し いんだ」と気づいてもらえればいいと思っているのですが。みん なが音楽家にならなくても、おとなになって「ちょっとコンサー トでも行ってみようかな」「ああ、あの頃の音楽教室は楽しかっ たな」なんて思ってくれれば、私のレッスンはそれでいいと思っ ています。

鈴 木: 人生にとって音を楽しむ、音楽を楽しむということは、人間の成 長過程において非常に重要なことですね。残念なのは、日本の教 育のなかで、音楽がちょっと軽視され始めていることです。これ は将来経済的にも社会的にもいいとは思えない。音楽教育を変え ないといけない。音楽は、人間を育てる重要な要素のひとつです から。

菊池: 日本もアメリカも、中学・高校ではスポーツに力を入れていて、 音楽は軽視されているような気がして。音楽家が変えていかない といけないですね。

鈴 木: そう、そうですよ。ただ、フットボールのようなメジャーなスポ ーツが見事なぐらい商業主義に乗っちゃったのに比べて、音楽は どうだろう。音楽は医療なんかに役に立つ面があるようですが。

菊池: 音楽のある人生って豊かだと思います。だからちょっと学校のと きにやったりして音楽好きになると、その後ずっと豊かになれ る。だから私は、音楽家になりたいという人を教えるより、子ど もたちに音楽体験をいろいろさせてあげたいのです。そういうの は、まだマレーシアは発達していないので、それで始めました。 子どもたちはかわいいですよ。

鈴 木: 僕は、日本の小学校の英語教育も、楽しい空間として英語を考え るといいと思っているんです。英語じゃなくたって他の言葉でも いいんです。楽しい空間が大切。言葉、体の動き、音楽の三つ は、小学生にとって情緒性を豊かにする大切な要素でしょう。

菊池: 音楽をやっていると耳がよくなるから、言葉の学習にも直結する と思います。

音楽教育と英語教育は隣り合わせ


鈴 木: 実は僕は最近ジャズのレッスンを受け始めました。それで初めて わかったことがある。アフリカ系アメリカ人の4ビートは、まさに 英語学習に必要な要素だったのです。音声、音韻学ではこれを無 視している、何で音楽っていう要素を入れなかったんだろう、と 目からウロコでした。あるスタイルの英語はこの4ビートのリズム がベースになっている可能性があります。ジャズ的トークという か、それはフォーマルな英語とは違うリズムがベースになってい る。僕の先生は日本人で、別に普通の英会話がすごくうまい人で はない。ところがジャズを英語で歌うと、すばらしい発音なので す。4ビートに乗るんですね、僕は到底4ビートに乗って歌えな い。俳句で言えば字余りにみたいになってしまうのです。その先 生によると英語が話せる人はよくそうなると言っていました。こ れはクラシックも同じだと思うんですよ。それにハッと気がつき ました。

菊 池: すごいです。大発見ですね。

鈴 木: だから、小学生からやらないと大変だ、と思います。実は既にラ ップを使った英語の発音の方法論があるんです。ラップのリズム に乗れればラップの英語も分かりやすいはずです。

菊池: 私にとって英語を学ぶことは、英語への扉を開けて、そのなかの 異文化を経験することでした。音楽の仲間も増えたし、行動の幅 も広がりました。マレーシアに行って、想像もしなかった人たち とコミュニケーションできるのも英語のお陰です。英語は、私の 人生をすごく楽しく豊かなものにしてくれました。

鈴 木: アメリカ人はとても寛容で、「英語は別に自分たちの持ち物じゃ ない、みんな参加してください、あなたが何を言いたいのか教え てください」という姿勢ですよね。だから発信しないと。

菊池: そうですね。日本語はどうやって言うか、"HOW"をすごく気にし てしまいますが、英語だと何を言うか、"WHAT"に集中できる。 日本語みたいに複雑ではなくてすごくシンプルな言葉です。私自 身、英語を話すことによって、自分のことをクリアに説明できる という発見がありました。

鈴 木: おそらく英語が背景としている文化が、菊池さんを非常に活動的 な人にしたんじゃないかな。だから才能を見出してくれる人が出 てきたし、それに対して菊池さんも発信型になり、肯定的に対応 した。打楽器奏者として、ますますの活躍を期待しています。

鈴木の一口コメント

菊池さんは、音楽の有能なプロでありながら、私のような素人の話をよくフォローして下さいました。打楽 器が専門ですから、リズムについては色々な考えがあると思いますが、時間が無くて聞くことができず心 残りです。幼児は、音によく反応します。特にリズムに敏感で、跳んだりはねたりします。幼少時に、色々 な音楽や言葉に触れて、音やリズムに慣れ親しむことが大切です。4、5歳の子供たちに教えていたこと があるとのこと、音楽と言葉を一体化した面白い方法論があるかもしれません。これについてもう少し詳し く聞きたかったのですが、あっという間に時間が経ってしまい、聞くことができませんでした。しかし、菊池 さんの話から、音を楽しむとは何か、すなわち、音楽とは何か、その原義に触れることができたと思いま す。今後のご活躍を切にお祈りいたします。

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2024年5月22日後記

2007年のインタビューでした。現在でも、否、今でこそ若い方々に参考にしてもらいたい生き方です。自分が本当にしたいことを大事に温める、良いことであれば一生続きます。菊池清美氏は音楽をこよなく愛し、そのことがプロへの険しい道を切り開いてきたのでしょう。オーケストラで演奏することが好きで、ジュリアードでは様々な社会的、背景を文化的背景をもつ様々な楽器の一流奏者と協働しハーモニーを創生する訓練に没頭されたと伺いました。マレーシアフィルハーモニー管弦楽団へ関心を持たれるようになったのも大いにうなづけます。門外漢ながら思いました。演奏を聴いてみたかったです。




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